第49話 タケの予約

涼はドラッグストアから部屋に戻る。

「少し歩いただけなのに、もう汗だくだ」

涼は苦笑いしながらシャワーを浴びる。

「……まだヒリヒリする」

冷水で冷やして、よく絞ったタオルで体を冷やす。

それから、ワセリンを患部に塗った。


ところ変わって、Sternen zelt。

キルシェは事務仕事をしていた。

「……あら?」

「どうしたんだい?」

ジーンはキルシェへと声をかける。

「新しい予約が追加になったわ」

「へぇ、いつだい?」

「二週間後ね」

「二週間後……か」

「リピーターよ。カプレさんたちだわ」

ジーンは目を輝かせる。

「それは嬉しいねぇ。あと、あれは……できる?」

「ええ、それのデータを確認していた時にカプレさんたちの予約が入っていたことに気が付いたわ」

「そうだったんだね……、ありがとう」


キルシェは再びパソコンに向き合っている。

「そろそろ送っておきましょうか」

「そうだね、涼くんのお友達だったよね?」

「ええ。じゃあ、予約のご招待メールを時間指定で送っておくわ」

キルシェは素早くメールをセットした。

「どんな人だろう? 楽しみだねぇ」

「店長はこっそり見る程度にした方が良いんじゃない? 驚かせたら申し訳ないから。それか、インテリアってことにして椅子に座っておけば?」

「インテリア……」

ジーンはショックを受けたように言う。

何度も繰り返すようだが、ジーンたちベアガル族はテディベアのような体をしているのである。

実際に涼も、画面越しに面接したとき、テディベアと勘違いしたのである。

「君たち人間にぬいぐるみと間違われるのはいつものことだから良いけど、インテリアはひどいよ!」

ジーンはキルシェに抗議する。

キルシェは笑うだけだ。

もう何度も、何十回も繰り返された会話だから。


それから数日。

尊はメールが入っていることに気が付いた。

「お、これが涼の働いているっていう定食屋か……! 明日の夜の予約、本当に楽しみだな。あ、写真ある……! へぇ、外見もしゃれてるな」

尊はわくわくして気分が高揚する。

「涼にも会いたいけど、やっぱりぴぃちゃんにも会えるかな?」

尊は大の動物好きであり、ぴぃのことも可愛がっている。

ぷぷぷ、と喜んで野菜を食べているぴぃが一番のお気に入りである。


「そういや、ドレスコードとか聞いてなかったな……。キレイ目ならいいか」

尊は苦笑いして、服を見る。

「デニムは避けて、これとこれで組み合わせて……」

尊は当日が待ちきれない気分になる。

「よし、これなら大丈夫だろう」

尊はコーディネートを完成させて、当日を待つ。


涼は部屋でぴぃに餌をやりながら空を眺めていた。

「明日、タケが来るんだよな……」

「プイ」

「あ、レタス欲しいのか。はいはい、すぐやるよ」

涼は持っていたレタスをぴぃに渡すと、ぴぃは勢いよくレタスをしゃくしゃく食べる。

レタスを少しちぎって、ぴぃに与える。

「タケの奴、ここに泊まったら際限なくぴぃに餌やりしたがるだろうな……。ぴぃ大好きだし」

涼は苦笑いした。


そして、翌朝。

涼は早めに起きた。

「今日は仕込みも手伝わないと」

手提げかばんにさりげなくある調味料を入れる。

「さあ、出勤するか!」

涼は元気に部屋を飛び出した。

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港の定食屋『Sternen zelt』 金森 怜香 @asutai1119

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