第42話 昼営業 後編

突然の体調不良で、ジーンは部屋へと引き上げる。

「涼、スポーツドリンクと二ボトル、タオルを持って行ってあげて」

「了解です」

涼はペットボトル二本(1リットルサイズ)とタオルを持ち、そして鞄から小さい袋を引っ張り出して、二階にあるジーンの部屋へと向かう。

「店長、入りますよ……。寒っ!」

部屋は冷房がガンガンに利いている。

涼は思わず身震いした。

「ああ、涼くん……。どうしたんだい?」

「キルシーさんから、スポーツドリンクとタオルを持っていくよう言われて……。あと、俺個人的に塩飴も置いておきますね」

「ありがとう。多分、暑さに少しやられただけだから」

ジーンはそう言って笑っているが、顔色は悪かった。

涼は机の上にペットボトル、タオル、塩飴を置いた。

「お大事にしてくださいね」

「うん、涼んでゆっくり休ませてもらうよ」

ジーンはそう言って体を横たえた。


ドーリッシュはホールで接客している。

「いらっしゃいませ、メニューをどうぞ」

いつの間にか、店内は女性のお客さんでいっぱいになっている。

……もちろん、男性も少しはいるのだが、大半は女性だった。

どうやら、女性客のお目当てはほとんどドーリッシュらしい。


「おススメのメニューは何ですか?」

「当店一押しはこちらの日替わり定食です。……個人的には、海鮮定食がおすすめですね」

にこやかに言うドーリッシュに、女性客の大半が海鮮定食をオーダーする。


「涼、器三枚」

涼はさっと棚の前に言って器を取る。

「はい! ご飯盛りましょうか?」

「お願い、一つ小、二つ並みね」

「了解」

てきぱきとご飯を盛り付けてキルシェへと渡す。

裏でキルシェと涼は大忙し。

次々に入るオーダーを二人がかりで捌いていた。


厨房は火を扱うから熱気がこもる。

「あちぃ」

涼は思わず声に出す。

「これでも冷房はかかっているのよ」

キルシェはタオルで汗を拭いながら言う。

「あっちぃ! 冷房を一度下げるか?」

ドーリッシュはキルシェと涼に声をかける。

ドーリッシュも参っているようで、タオルで汗を拭いてもすぐに汗ばんでいる。

「……そうしましょう。私たちまで倒れるわけにはいかないから」

「じゃあ、厨房の冷房は下げてくる。客席は下げないから、何か言われたらその時対応でやるよ」

「ええ、その段取りでやりましょう」

ドーリッシュと涼は頷く。


涼はあることを思い出す。

そして、いそいそと鞄を開く。

「あ、あった! キルシーさん、これも使いましょう」

「え? それって……」

涼は笑顔だ。

「本来は熱冷ましの物ですけど、熱い時の対処にも使えます」

「それをどこに貼れと言うのよ?」

「首筋に貼った方が良いですね。少し汗拭いてからですけども」

「……そうね。今は誰かが欠けたら大変だもの」

キルシェは大人しく首筋の汗を拭って、熱冷ましを貼る。

「確かに気持ちいいけど……、よく思いついたわね」

「以前、学校の友達が教えてくれたんですよ」

「そう……」

涼も首筋の汗を拭って熱冷ましを貼る。


「二人とも、大丈夫か? なんか涼しそうな顔してるな?」

「ドーリッシュも涼にもらえば? 熱冷まし」

「二人だけずるいぞ!」

ドーリッシュはおどけて拗ねたふりをする。

「ハハ、良かったら使ってください」

涼は熱冷ましを一枚、ドーリッシュに渡す。

「おお、ありがとな! 早速使わせてもらおう」

ドーリッシュは汗を拭いて熱冷ましを貼り付ける。

「冷たくて良いな! 助かるよ」

「用意しておいて良かった」

涼は照れたように笑った。

昼のピークタイムを過ぎた後、三人で手分けして洗い物を終わらせる。

「あとは僕と涼で片付けるから、キルシーは休んどきな」

「じゃあ、後はお願い。夜の営業は私たちで捌くから、夜釣りに行っても大丈夫よ」

「ああ、気遣いありがとう」

キルシェは先に看板をクローズの向きに変えてから、賄いを持って寮へと戻った。

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