出会い
ㅤそして翌朝。
ㅤ寝不足で意識がはっきりとしない。メッセージアプリを開き、『おはよう!』と元気いっぱいの紡のスタンプに、布団を被ったネコのスタンプを返す。既読がすぐに着いたところを見ると、もうすでに迎えに来ているのかもしれない。慌てて身支度を整える。いつもより十秒ほど長く鏡を見て、上着を羽織り、玄関を開ける。その先には紡がいた。いつものように曇りひとつない笑顔で「おはよう!」と抱き着かんばかりの勢いで駆け寄ってくる。
「あれ、リセちゃん、元気ないね?」
「ちょっとね、寝不足で」
ㅤ紡は今日も元気だねぇと頭をぽふぽふすれば、満足気にするのが可愛らしい。
「リセちゃんの分もつむぎが元気だからね」
「任せた」
ㅤ胸を張る紡の横に並び、歩みを進める。
「そういえば、今日の昼休みなんだけど」
ㅤ今日は
「ごめんね! リセちゃん。今日、お昼休み明音ちゃん達と文化祭の打ち合わせなんだ」
「あ、ちょうどよかった。私も用事あるから。じゃあ、今日は別々だね」
ㅤ用事? と首を傾げる紡に、ちょっとね、と誤魔化していると、校門が見えてきた。
ㅤ授業中に斜め後ろの席から手紙を回してくる紡をいなしつつ、昼休み。
「真面目に受けなさい」
「つまんないもん」
「こないだのテスト、あんまよくなかったんでしょ」
ㅤ『ひまー』だとか、『放課後カラオケ行こ!』等と書かれたノートの切れ端を返しつつ苦言を呈せば、全く悪びれない態度が返ってくる。このままではまた勉強会を開かなければいけないかもしれない。
「まあまあ、そんなことは置いておいて、放課後カラオケね!」
ㅤと言って明音ちゃん達の席に向かう紡を見送った。
ㅤさて、私も行かなければいけない。
ㅤどうしよう。
ㅤ場所は裏庭。図書室で借りた本を片手に向かった先では、ベンチに座る男子生徒がいた。俯いていて顔はよく見えないが、全体的な見た目からして灯彩くんであることは間違いないだろう。ここまでは想定内だ。しかし、ビンゴ! と喜ぶまもなく気が付く。
ㅤ泣いている。顔を俯けた彼からは、時々嗚咽が聞こえる。泣いている相手に声をかけるのははばかられる。
ㅤ昔、空き教室で泣いている女の子に持っていたチロルチョコをあげたらすごい顔で見られた記憶が甦る。今はチロルチョコも、持っていないし。
しかし、これはゲームだ。ええいままよ!
「大丈夫?」
ㅤ少年が顔を上げる。
ㅤとてつもない美少年がそこにはいた。風に靡くキャラメル色の髪が綺麗だなぁとは思っていたが、整った西洋人形のような顔に、陶器のような肌は真夏だというのに真っ白だ。薄く膜を張った紫陽花色の瞳がこちらを見上げる。
ㅤ一目で恋に、は落ちなかったが、流石攻略対象。見た目のインパクトが強い。とはいえ同じクラスの
ㅤ彼は、パッと花が咲いたような笑顔を浮かべると、「会いに来てくれたんですね! 先輩」と立ち上がった。立ち上がっても見下ろす形なので、背はあまり高くない。紡と同じくらいかもしれない。
「えっと、どこかで会ったことある、かな?」
ㅤ持っている文庫本ごと両手を包み込むように握られて、思わず後ずさる。見覚えはない。
「いいえ」
ㅤと首を振った後、
「待ってたんです!」
ㅤと言う少年。困ったな。少し独特な会話のスタイルを持っているのかもしれない。
「僕に、会いに来てくれたんですよね?」
ㅤ念を押すように問われ、曖昧に頷く。どうしようかと考え始めたところで、昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴った。
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