第172話 魔女、戻る
「んー、結構長い旅になったね」
転移を終えて私たちは元の大陸へ戻ってきていた。同行者はアダルとリーザとガーリーになる。
「結局二月近くあの大陸にいたことになるからな」
エレベーターは魔力が切れていたようなので、魔力を注ぎ込み起動させると地上へと上昇していく。エレベーターから降りるとそのまま魔法で塞いでいた入口を開放する。外には誰もいないことからここの監視は既にやめているようだ。
「ここがエリーたちのいた大陸なのじゃな」
「大陸って意味ではそうだね。とはいえここの場所って島なんだけどね」
「そうなのじゃな。それにしてもここの空気はすごく濃厚じゃな。体に力が満ちるような気分じゃ」
「空気? それって多分マナのことかな。あっちのマナはすごく薄かったからね」
私も深呼吸をするように新鮮なマナを体に取り込んでいく。吸血大陸はマナがすごく薄かった。今のところリーザはマナを取り込んでも異常はないようだ。
私たちはマナを取り込みながら古代遺跡の通路を進んでいく。アイアンゴーレムと遭遇することもなく出口にたどり着いた。そのまま外に出ると太陽の位置的にまだお昼が過ぎたくらいだった。
「これが太陽の光というものなのじゃな」
「リーザ大丈夫?」
「問題ないのじゃ」
事前に聞いてはいたけど、リーザは太陽の光を浴びても問題ないようだった。
「ピリピリしたりヒロヒロしたりしていない?」
「ないのじゃ。それにしても太陽の光というものは眩しいものじゃな」
リーザが手が差を作り太陽を見上げ眩しそうに空を見上げている。
「誰だ!」
港に向かって歩いていると唐突に声をかけられた。
「ア、アダルの旦那、それにエリーの姉さん無事だったんですね」
どうやら私たちを知っている人物だったようだ。よく見てみるとその人はラルダだった。ラルダはダダンの部下で、最初にこの遺跡を案内してくれた人だ。
「おうラルダか、久しぶりだな」
「二月近くも音沙汰が無かったんで船長が心配してましたよ」
「そうか。それでダダンはどうしてる?」
「アジトにいますよ。今日はもう上りなので一緒に戻りますか」
「頼むわ」
遺跡の中でアイアンゴーレムと出会わなかったのは、一通り倒し終わったところだったからだろう。ラルダと共に港に行くとちょうど魔鉄を船に乗せているところのようだった。船員たちが私たちの姿を見てラルダと同じ反応をしている。
「もしかして俺たちは死んだことになっているのか?」
「どうでしょうね。戻ってこないことを心配はしてましたが誰も死んだとは思ってないですね」
リーザが辺りを珍しそうに見ている。海や船などだけではなく、吸血大陸にはただの木すらなかったので珍しいのだろう。
「変わったにおいがするのじゃ」
「海のかおりだね」
「海……あの大量の水のことじゃな」
太陽の光でキラキラと輝いている海を眩しそうに見つめている。
「準備ができました。船に乗ってください」
ラルダに促されるまま船に乗り込むと船はゆっくりと港を離れて進んでいく。
「これが船というものなのじゃな。それにしても海とはすごいものじゃな」
「落ちないようにね」
「わかっているのじゃ」
リーザを気にしつつ私は戻って来るまでのことを改めて思い出していた。結局他大陸へは行かなかった。転移した先から戻ってこれない可能性があった事から準備は万全にしておいたほうが良いという結論に至ったわけだ。
吸血大陸にいた期間が長かったおかげで食料のストックがかなり減っていた。そんな状態で転移して戻ってこれない可能性もある。その上で転移した先で食料が手に入るかもわからない。そんな状態でわざわざ博打をする必要もないだろうということになった。
興味はあったし私一人ならなんとでもなるだろうけど、戻ってこれなければリーザの屋敷の転移装置が使えないので元の大陸に戻ることが出来ない。そうなると食料が確保できないのでアダルが大変なことになる。
それならアダルも連れていけばいいということになるけど、食糧問題に話が戻ることになる。というわけで今の状況になったわけだ。他にもそろそろ頼んでいた船も回収したいというのもあるし、二月もほったらかしになっているティッシモやギーラのことも気になっていた。
それに船が手に入れば他の大陸から転移装置を使わずに戻ってくることもできるかもしれない。船が完成しているのかはわからないけど、次に吸血大陸へ行くのは船を手に入れて、食料も十分にストックできてからになるだろう。
「そろそろ到着するようだぞ」
アダルが近づいてきた。船の進行方向を見るとヒューボルトの港が目に入った。実に二ヶ月ぶりの港になるが、こころなしか船の数が少ない気がする。
「船が少ないように見えるけどなにかあったのかな?」
「ラルダから聞いたのだが獣人大陸があった大陸の北部の港が開放されたようだ。それに合わせて交易のために船団を組んで向かっているようだ」
「へー、誰が管理しているんだろうね」
「さあな、そこまではわからないようだ。ダダン辺りなら詳しく知ってそうだがな」
「まあ、私たちが気にするものでもないか」
船が減速を始め、ゆっくりと港へ入っていく。ざわざわと港の喧騒が船の上からでもわかるくらいに騒がしい。リーザは人の多さに驚きながらも港にいる人たちを見つめていた。
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