第169話 魔女、対価を求める

「はい、どうぞ」


 私は街へ寄るたびに大人買いしていたものを適当にチョイスしてテーブルに並べていく。


「気のせいか、悪意を感じる気がするのだが……」


 中にはヒューボルトで仕入れた海鮮も大放出してみた。イカ焼きにスルメ、イカリングにイカの姿焼きなどを重点的にヴァラドの前に並べておく。そんなヴァラドもぶつぶつと文句を言いながらも食べているので問題ないだろう。


 どうせならニンニクマシマシのステーキでも出したほうが良かっただろうか。吸血鬼にニンニクが効くかは知らないけど。


 他には鍋ごとテーブルの上に置いて、好きによそって食べてもらうことにした。スープ類が多いけど、具材がいい感じに入っているのでこれだけでもお腹は膨れるだろう。この吸血大陸に来てから食事や食材の補充ができていないので、そろそろどこかで補充をしたい。


「それでヴァラドはこの後どうするの?」

「ふむ、そうだな。貴様、まだ肉は出せるか?」

「出せなくはないけどどうするつもり?」

「まずは真祖を作ろうかと思っている」

「肉で真祖を?」

「この大陸で死んだものの魂は把握しているのでな。まずはそこの二人以外の真祖を蘇らすことからだろう」


 どうやらこの大陸で死んだ者の魂は、大陸を巡っているようだ。このあたりの仕組みは、私のいた大陸と変わらないのかもしれない。あちらの大陸では死んだ者の魂は大陸を回り数百から数千年後に生まれなおす。


 なぜそのようなことを知っているかというと、あちらの大陸のエルフはたまに前世の記憶を持って生まれてくる例があるからだ。こういった魂の循環的な話はエルフの間では常識だと師匠から聞いている。


 もしかすると獣人大陸も同じように魂が大陸を巡りいつしか生まれ直すのかもしれない。それが人としてなのか獣人としてなのかはわからない。他にも魂に関しては色々と疑問は尽きない。私が一番気になるのは魂以上に人が生まれたらどうなるのだろうと。


 そこでふと、吸血鬼が滅んだ原因は結局新しい生物が生まれずに、魂の行き場がなくなったことも関係があるように思えた。とはいえ、魂って見ることが出来ないので私にはよくわからない。


 どうもヴァラドの様子からすると神祖や私たちの大陸でいうところの六神のような存在になると、魂を視ることや干渉などが出来るように感じられた。


「んー魚肉じゃダメ?」

「……どうであろうか。我のときにもその魚肉を混ぜたのか?」

「いえ、ヴァラドのときはクラーケンの肉は混ぜたけど魚肉は混ぜてないかな」

「出来ることなら普通の肉で頼む」


 魚肉はダメなようだ。流石にヴァラドに提供したほどの量を八人分は在庫として厳しい。魚肉でも良ければまだ余裕なんだけど。


「ヴァラド様。今の話からすると他の兄さまや姉さまも復活できるのじゃな」

「そういうことになる。見たところ魂の欠損というものもないように思える。記憶がどこまで残っているかはわからないが、復活させることは出来るだろう」


 リーザの問にヴァラドがそう答えた。それを聞いたスティルハイツとカーミラもどこか嬉しそうにしている。どれくらいの間始祖として共にいたのかはわからないけど、どうやら始祖同士は仲が良かったようだ。


「問題はお肉が足りるかってところかな。ヴァラドに使ったのと同じ量が八人分いるのよね?」

「いや量としては我のときと同じ量で問題ない」

「そうなの?」

「まずは魂を入れる器を作るだけなのでな。最低限の肉体だけあれば後は時間が解決するであろう。そこのスティルハイツのように、我がこの大陸に存在しているだけで始祖は存在を強化できるであろうからな」


 どうやら神祖が存在するだけで、その神祖と直接の繋がりのある真祖や始祖は様々な恩恵を受けられるということのようだ。肉体が限界を迎えて滅びる手前だったスティルハイツが元気になったのはそういうカラクリだったようだ。


「その量なら大丈夫かな。流石に八人分となると一度元の大陸に戻らないと厳しいと思っていたのよ」

「量があるならあるだけいいが、そこまで無理は言えないのでな。問題は我が貴様にどういった対価を払えばいいか……」

「対価ね。それって何でも良いの?」

「我に出せるものならば何でもよいが、今の我に差し出せるものはほとんどないぞ」


 そもそもの話、この大陸で得たいものはすでに得ている。それはアダルが持つマスタキーの宝玉だたのだけど、それはカーミラからもらっている。それ以外のことは私の好奇心と知識欲のようなものだ。


 どうしてこの大陸が滅びに向かっていたのかや、リーザやカーミラのような吸血鬼に関すること。そしてヴァラドがどうやって神祖としてこの大陸を蘇らそうとしていることなど、普通では知ることも出来ないことを知ることができた。これが私にとっては報酬といえる。


「そうね。それじゃあさ、リーザが望むなら暫くの間私たちの同行者として連れていきたいのだけどどうかな?」

「ふむ、それはこことは違う大陸へ連れていきたいということか?」

「ええそうよ。もともとカーミラとスティルハイツにリーザのことを頼まれていたのよ。だけどヴァラドが蘇ったことでリーザを連れて行く必要はなくなったもいえるわ」

「そうだな。真祖にはこのままこの大陸にいてもらい、いつかは我に代わり神祖となってもらうつもりではいる」

「だけどそれはすぐというわけではないでしょ? それにリーザが他の大陸を見て回ることで新しい道を見つけられるかも知れないわよ」


 私のこの提案はヴァラドにとってもリーザにとっても実りのある提案だと思う。それにヴァラドが払える対価としては一番安い上がりだと思う。まあそれもリーザが私たちに同行すことを望めばだけど。

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