第4話 逃がしません!
想太の目の前で国王は代替わりをしたが、もう想太の頭の中ではエルフのことはないものとして、帰ろうとしたところで宰相に声を掛けられる。
「待て! 待ってくれ! いや、お待ち下さい」
宰相に腕を捕まれ、想太はその場に留まる。
「何? もう、用事は済んだから、帰るんだけど?」
「ですから、こうして国王も代替わりをしたことですし、なんとか矛を納めてもらうことはできないでしょうか。ほら、あなたからもお願いして下さい」
宰相は国王となったばかりの王太子にも頭を下げるようにお願いする。
「そ、そうだな」
そう言うと、新国王は態度を改めると想太に向かって、まずは深々とお辞儀をする。
「すまなかった。国王である父が失礼なことをした。だから、この通りお願いする。どうか、攫われた私達エルフの民を助けてはくれないだろうか」
「……」
新国王の願いに想太は素直に頷けないでいると、朝香が横から想太に話しかける。そして、想太の考えていることが分かるのか、想太に対し無理して悪ぶることもないと助け船を出す。
「ねえ、助けてあげようよ。どうせ、助けるつもりなんでしょ」
「え? そうなんですか?」
「そうよ。気に入らないのは、そこのおじさんと王女様だけ。だけど、攫われた人達には関係のない話でしょ。だから、安心していいよ」
「そうか。それは有り難い」
新国王がこれで国民が助かるとホッと胸をなで下ろす。
「でも、いいのか?」
「何がでしょう?」
「何って、さっきの王女の様子を見たよね?」
「……はい」
「あの王女みたいに例え、奴隷から解放されたとしても日常に戻るのは難しいよ。それに周りの人達も気を使うよね」
「それは……」
「だからね、場所は俺の方で用意するから、奴隷だった人にはそこで暮らしてもらう。そして、少しずつ日常に戻ってもらう」
「それはいい考えだと思いますが、そこまで甘えてもいいのでしょうか?」
「いいよ。どうせ乗りかかった船だし。じゃあ、準備出来たらまた、来るから」
そう言って想太が踵を返すと宰相から、再び待ったが掛かる。
「お待ち下さい!」
「何、もう用事は終わったでしょ?」
「あと一つ、あと一つだけお願いを聞いてもらえないでしょうか」
「え~何、すぐ済む話?」
「私の……私の娘を救って下さい。どうか、お願いします!」
「宰相さんの娘……」
「はい。私の娘は第三王女のお付きとして側にいたので、一緒に攫われました。だから、娘もあの国にいるはずなんです。どうか、お願いします!」
宰相は想太の足下に土下座すると、これでもかというくらいに頭を床に擦りつける。
「もう、だから土下座は嫌いなんだって。でも、宰相さんの気持ちいいくらいの手のひら返しのお陰で国王が代わったんだからさ。いいよ、引き受けるよ」
「あ、ありがとうございます!」
「ただし……」
「はい?」
想太の言葉に宰相は顔を上げると嬉しさのあまりに破顔するが、その後に続く想太の言葉に考えたくもなかったことが頭の中を埋め尽くす。
「そういう結果を考えたことがないとは言いません。ですが、それでも……例え骨の一部でも……例え、それが装飾品の一部でも娘の持ち物であれば形見として大事にしたいと思います。なので、どうかお願いします」
宰相は想太に言われたのは、生きていることは保証出来ない。それでもいいのかいうことだった。そして、それに対し、宰相はとにかくなんでもいいので、娘の物であれば構わないと想太に答えるのだった。
「分かったよ。じゃあ、最初に結果だけ言うよ。まず、娘さんはもう、この世にいない」
「あ……」
「でね、死んだ理由っていうか、殺されたのは、そこの第三王女の物言いに我慢出来なくなった一人の騎士が斬りかかったのを庇った結果、その場で亡くなったみたい。まあ、救いと言えるのは汚されることなく死ねたことぐらいだね」
「……」
想太の言葉に宰相は無言で第三王女を睨み付ける。
「それともう一つの救いは、無念に思った一人の騎士がお嬢さんの亡骸をその場に埋葬してくれたことかな。だから、ちょっと時間は掛かりそうとだけ言っておくね。じゃ、『転移』」
「お願いします……」
想太の言葉に救われた宰相は、すでに想太が転移していなくなった場所で両手を合わせ、願い続ける。
十数分後に想太が同じ場所に現れると、手には綺麗な布で畳まれた包みを両手で持っていた。
「これがお嬢さんの遺骨。結構、深く埋葬されていたから魔物にも荒らされることもなかったみたい。一応、全部揃っているハズだから。後、装飾品もそのままだったけど……」
「はい。分かります。これは確かに娘の物です。間違いありません。妻が……妻が渡した物です。確かにこれは娘に違いありません。ありがとうございます!」
想太から渡された包みを開き確認した宰相はその中身を確かめると、想太にお礼と共に娘に違いないと話す。
「それでさ、ちょっと言いにくいことなんだけど……」
「え? それは本当ですか!」
「ちょっと、声が大きい! いいから、はいかいいえで言って」
「それはもちろん、はいです」
「そ。じゃあ、気持ちは変わらないんだね」
「はい、もちろんです」
想太は宰相にもう一度だけ確認すると宰相は変わらないと答える。
「じゃあ、その包みを持ってもらえる?」
「あ、はい」
「じゃあ、ここに入って」
「え、ここへですか?」
「そう。ほら、早く」
「分かりました」
想太は宰相を亜空間に作った部屋の一つに娘の亡骸と共に入るように促し、宰相が入った後に想太も一緒に入ると、その部屋の入口を閉じる。
「失礼ですが、本当に娘は生き返るのでしょうか?」
「あれ? 疑うの?」
「いえ、そういう訳ではありませんが、既に死んでしまった者を生き返らせるのは……」
「でも、信じたんでしょ。なら、最後まで信じてよ」
「……そうですね。分かりました。お願いします!」
「じゃあ、その包みを広げて、娘さんの遺骨を元の位置にキレイに並べるよ」
「はい」
想太は宰相と一緒に娘の遺骨を広げた布の上で頭から順番につま先までキレイに並べると一度、確認する。
「うん。位置は問題ないね。じゃあ、始めるよ」
「はい!」
「『
想太が唱えると遺骨だった骨は綺麗な乳白色になり、その内側に臓器が少しずつ増えていき、やがて筋繊維で覆われ、表皮が再生する頃には心臓が脈を打ち始めていた。そして、やがてその遺骨だったハズの女性は静かに呼吸を繰り返し、その瞼を開く。
「……」
「ん? 私は確か……そうです! ラニ様! ラニ様は無事ですか?」
娘は立ち上がろうとするが、体の力が抜けるように脱力し、その場に座り直す。そして、その横に宰相が近付くと想太が用意した布を肩から掛ける。
「え? お父様……どうして、お父様がここに! いえ、今はそんなことではなく、ラニ様を……ラニ様を助けなくては……」
「落ちつけ! 落ち着くんだ、ナキ」
「お父様。お父様こそ落ち着いて下さい。ですが、ここはどこですか? ラニ様はどこに?」
やっと周りの様子が視界に入ったのか、自分がどこにいるのかが分からないといった感じで宰相に問い掛ける。
「ナキ。いいから、よく聞きなさい。お前はあの時、シャムニ王国の連中に攫われたラニ様を助けようとして、相手の兵士に斬られ手、一度死んだのだ」
「え……じゃあ、ラニ様は……ラニ様はどうなったの?」
「ああ、ラニ様はあの後、シャムニ王国へ連れていかれ奴隷として暮らしていたが、その方に助けられ、今は国王の側にいる」
そこで初めてナキは側に立っている想太に気付き立ち上がろうとしたが、フラついてしまい上手く立ち上がれない。おまけにその為に折角羽織った布も色々と乱れてしまい、色んな物が見え隠れしているため、想太も慌てて目を逸らしてしまう。さっきまで、裸どころか文字通り骨の髄まで見ていたクセにと言うかもしれないが、こういうチラリズムの方が反応してしまうのはしょうがない。
「ナキ、それよりもまずは身を改めなさい」
「身?」
父親である宰相に言われ、ナキは自分の体を確認すると、全裸に薄い布を羽織っているだけの状態であることを初めて認識する。
「お、お父様。これはどういうことですか? まさか、私は辱めを受けたのでしょうか?」
「だから、落ち着きなさい。いいか、お前はさっきも話したように、この方の力でこの世に戻って来たばかりだ。この方がお前の遺骨を持ち帰って下さり、お前を元通りに戻してくれた。まずはお礼が先であろう」
父親からそう言われては、疑うこともなく助けてくれたという特撮ヒーロースーツ姿の想太に丁寧に礼を述べる。
「助けてくれたことを知らずとはいえ、申し訳ありませんでした。そして、私をこの世に戻して下さりありがとうございます。また、不可抗力とはいえ、あなたは文字通り私の全てを見たのですから、逃がしません」
「「え?」」
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