第14話 助けなきゃよかった
『朝香、俺さ。今、すっごく後悔している』
『え?』
想太からの突然の念話に朝香が驚く。
『俺、初めて『助けない方がよかったかも』って思ってる』
『あ~そうね。私もそう思えてきたもの』
王様(仮)ということで、無条件に地下牢からライオを助け出したことを今は後悔していると朝香に告白した想太が、まだ言い合いを続けているニャルとライオの間に割って入る。
「ちょっと、いいかな?」
「なんだ?」
「ライオはちょっと黙ってようか。『
想太はライオに向かって魔法を放つとライオの両手足が黒い帯状の何かでガッチリと拘束され、床に寝かされる。
「な、何をするんだ!」
「ちょっと、うるさい」
想太はそう言うと拘束され床に寝転ぶライオに猿轡を噛ませるとニャルに向き合う。
「ごめんね。話が長そうだから、ちょっと割り込ませて貰うね」
「構いませんが、ライオはどうするつもりでしょうか?」
「それはちょっと後でね」
想太はそう言うとライオを担ぎ、亜空間の『
「ねえ、ここに転がっている連中の扱いも任せていいかな?」
「それは構いません。聞いた限りでは、とても許せることではありません。こちらで処分しますので」
「ねえ、処分するのはいいいんだけどさ、そこの太ったおじさんは念入りにして欲しいんだ」
「念入りに……ですか」
「そう。あ、そうだ。ちょっと待っててね『超再生(百回分)』付与。これでよし」
想太は何かを思いついた様に太った男にスキルを付与する。そして、その様子をみたニャルが想太に質問する。
「今、その男に何を?」
「えっとね、凄く簡単に言うと、殺されても簡単に死ねないようにしたの。百回限定でね」
「それはどういうことでしょうか?」
「えっとライフ百回じゃ分かんないよね。簡単に言えば『どんな致命傷を受けても百回生き返る』ってことなんだけど分かるかな」
「そんなスキルが。でも何故、そのようなことを?」
「何故って聞く? じゃあ、こいつが奴隷にした獣人にどんなことをしてきたか見せてあげる」
「え? 何をするんですか」
想太はそう言うとニャルの頭を掴み、『
想太が実行した途端にニャルの体がビクッと跳ねる。
数分後、想太がニャルの頭から手を離すと、ニャルはその場に崩れ落ちる。
「そんな……そんなことまで……」
「どう、分かってくれた?」
想太のそんな問い掛けに半ば放心状態のニャルは黙って頷く。
「百回じゃ足りないかもしれないけど、出来れば同じ方法でコイツを責めて欲しい」
「気持ちは分かりました。ですが、我々の方が耐えられるかどうか……」
「それもそうだね。じゃあさ、そこに転がっている連中にやらせればいいんじゃないかな」
「そうですね。分かりました。この件に関しましてはこちらで引き取らせていただきます。敢えてお名前はお聞きしませんが、ご助力感謝致します」
「いいよいいよ」
ニャルが想太に礼を言うと卓上のベルを『チリン』と鳴らすとドアが開かれ、「お呼びですか」とメイドが入ってくる。
部屋に入るなりメイドは、あまりの臭いに鼻を抑え、異様な格好の想太と朝香に身構えるが、ニャルの「客人だ」の一言で構えを解く。
「失礼しました。それでご用は?」
「そこに転がっている連中を片付けてくれ」
「分かりました。では、衛士を呼んで参りますのでしばらくお待ち下さい」
「ああ、頼む」
メイドは想太達を一瞥するとニャルに会釈してから部屋を出る。
「連れて行くなら、このままじゃ手伝ってくれる人に悪いね」
そう言うと想太は転がっている連中に『クリーン』を掛け、とりあえずは運んでくれる人が汚れないようにする。
ニャルは軽く嘆息すると想太に向かって問い掛ける。
「他の連中が来るまでに確認したいのですが、ライオはどうするつもりでしょうか? また、王位に就けるのでしょうか?」
「ううん。それはしない。今のままの方がいいと思うから。ごめんね、地下牢にあんな状態でいたから、つい助けちゃったけど今は後悔している」
「それは助かりますが、ライオはそれで納得するのでしょうか」
「大丈夫。ちゃんと納得させるから」
「ですが、あのライオが、そう簡単に納得出来るのでしょうか」
「出来るでしょ。だって、この国では力が正義なんでしょ。なら、納得するしかないよね」
「分かりました。では、ライオのことはお任せしてもいいのですね」
「うん。任せて。ライオが一人でここに来ることはないから。もし、ニャルに会う時は俺がちゃんと手綱を握っているからさ」
「はい。それを聞いて安心しました」
ニャルが想太の話を聞いてホッと胸をなで下ろすような動作をすると部屋のドアがノックされニャルが返事を返すと屈強な獣人の衛士がゾロゾロと部屋の中へと入ってくる。そして、想太と朝香の二人に一瞬驚いた様子を見せるが、すぐに拘束され床に寝かされているシャムニ王国の騎士を黙々と担架に乗せて部屋の外へと運び出す。
やがて、全てのシャムニ王国の騎士が運び出されると、ニャルが想太に向かって切り出す。
「これであなたの話は終わりでしょうか」
「その前にちょっといい」
「なんでしょうか」
「ニャルの信頼できる人を呼んでもらえる」
「それはどういう意味でしょうか」
「ライオを地下牢に入れるのは一人じゃ無理でしょ。少なくとも二人くらいは秘密を共有出来るのが欲しいよね」
「なるほど。分かりました。少しお時間を頂きますがよろしいですか?」
「いいよ。待ってる」
「ありがとうございます」
ニャルはそう言うとまた、ベルを『チリン』と鳴らすとメイドが部屋に入ってくるなりニャルがメイドに用事を言い付ける。
「すまないが、パルとミコを呼んでくれ」
「承知しました」
メイドが部屋から出ると想太がニャルに話す。
「ライオは病気で治療中なんでしょ? なら、こういうのは必要だよね。『
想太が魔法を発動すると、そこには地下牢から助け出した時のままのライオが床に横たわっていた。
「こ、これは……」
「ライオの人形。触ってみて」
ニャルが恐る恐るライオのシワシワの頬を指で突く。
「まるで本物だな」
「そうでしょ。だから、これをベッドに寝かせておけば対外的にはどうにかなるでしょ。そして、いい頃合いに死んだことにしちゃえばいいし」
「ふむ。それはいい案だと思えますが……」
「ニャル様、お呼びでしょうか。な、なんだ貴様らは!」
部屋に入ってきた二人の獣人の男女が想太達を見るなり、飛び掛かりそうになるがニャルが「止めよ!」と言い、二人を止める。
「ニャル様……説明をお願いしてもよろしいでしょうか」
「ああ、分かった。説明するから、まずは落ち着いてくれ」
「「……」」
二人が不承不承に頷き、ふと床に目を落とした瞬間に叫ぶ。
「「ニャル様! あれは!」」
「だから、落ちつけ。アレの話もしたいが、二人が落ち着かんとその話も出来ん」
「「ですが!」」
「だから、落ちつけ! いいから、アレは人形だ。疑うのなら触ってみろ!」
「「……」」
二人は互いに目を合わせ頷き合うと意を決した様に二人で揃って、そっと人形の頬や腕を触って確かめる。
「ニャル様、これは本当に人形なのでしょうか?」
「そうですよ。これが人形とは思えません」
「まあ、そうだろうな。すまないが頼めますか」
ニャルが想太の方を見てお願いすると想太が頷き『居間』からライオを引きずり出し、二人に見せる。
「「ライオ様!」」
「そんな……」
「どうして……」
「ごめん」
昔の姿をしたライオを見て驚愕する二人に想太はなんとなく謝ってしまう。
「あなたがライオ様を?」
「ごめんね。この国の王様に用があったんだけど、王様は地下牢に入れられているって聞いたから一応助けたんだけどね。今は後悔している」
そんな想太の告白を聞かされた二人は思わずニャルを見るが、ニャルは黙って頷くだけだった。
「後悔していると言うのは?」
「ライオがここまで愚王だとは思わなかったからな。それで、ニャルがライオを療養中としていると聞いたから、その人形を用意した。使い方はニャルに確認して」
「分かりました。では、用件はこれのことでしょうか?」
「ああ、これもだが、他にも話が、その方からあるらしい。悪いが、一緒に話を聞いて欲しい」
「「分かりました」」
「じゃあ話すね。今から話すのが本命だから」
想太がそう話を切り出すとニャル達三人が『ゴクリ』と喉を鳴らす。
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