第8話 王様に逢いたい!
「俺の願いは、この国の王様に会わせて欲しい」
「「「「……」」」」
「何? どうしたの?」
「お前、正気か?」
「え? どうして?」
「どうしてって、お前……」
想太の願いに四人とも絶句したと思ったら、想太は四人から正気を疑われた。
「まず、俺達は平民だ」
「しかも、国境の辺境の狼人族だ」
「それに王のいる王都は、この国のほぼ中央の位置だ」
「ああ、距離的に難しい……んだよ。本当はな。でも、お前には関係ないのか」
「え~と、纏めるとド平民だから王様へのお目通りなんて敵わないってことなんだね」
「お前なぁ~まあ、お前の言うように俺達はド平民だ。だから、王様に会うのなんて無理だ」
「じゃあ、今回の襲撃事件の説明は出来る?」
「まあ、そりゃあな。不名誉なことに当事者だからな」
想太のなんとも言い返すことも出来ない纏め方に辟易していると、今度は襲撃事件の説明をして欲しいと言われたパパ達は不請不請に頷く。
「説明するのはいいが、一つ聞いてもいいか」
「何?」
「まさかとは思うが、誰に対して説明させるつもりだ?」
「もちろん、王様に決まってるじゃない」
「そうだよな……」
想太の『バカじゃないの?』という物言いに自分達がおかしいのかと感じてしまうパパ達だが、不可能を鼻息一つで可能にしてしまう存在が目の前にいるのだからと自分達を納得させるしかない。
「分かった。もう、俺達は何も言わない。王に説明するのは吝かではない」
「よかった。じゃあ、明日の朝に向こうに行くから、そのつもりで。人選はパパに任せるけど、そいつはハズしてね」
「なんでだ!」
想太に指を差された若者が激昂する。
「それ! そんなに考えなしに感情を昂ぶらせると俺じゃなく王様の衛兵に始末されちゃうよ」
「バカかお前は。それなら、俺じゃなくお前だろ! ふん!」
「俺が? 誰に? どうやって?」
「それは……」
「パティ、お前の負けだ。お前がコイツに口でもなんでもありでも勝てる方法が思い付かない。それは王の親衛隊でも同じだろう」
「じゃあ、こんな危ない奴を王に会わせてもいいのかよ!」
「あのな、例え俺達がダメだと言ってもコイツは勝手に行くぞ。それは今回助けられた俺達が一番、よく知っているだろう」
「ぐっ……」
「だから、お前は今回は外れてくれ」
「パパさん。パパさんまでアイツの言うことを聞くのかよ!」
パパに諭されるパティだが、やはり納得出来ないのか、どうしても感情の抑えが効かない。
「だから、その感情任せに動くのがダメだと言われただろ」
「ぐぬぬ……」
「分かったら、それを早く直すんだな」
「分かりました。今回は遠慮するよ」
そう言って、ソファから立ち上がるとパティは不満を隠すことなくドスドスと大きな足音を立てながら玄関に向かう。
「だから、そういうのが子供だと言ってるのに……」
パパが残念そうにパティの後ろ姿を見送る。
想太もソファから立ち上がり、パパ達に向かい「じゃ明日」と挨拶してから皆を家の外へと送り出す。
送り出したハズが、パパがまだその場にいたのを不思議に思った想太がパパに問い掛ける。
「出ないの?」
「え? なんでだ」
「なんでって、ここは俺の家だし」
「そうか。でも、ここにママ達がいるだろ」
「あ、そうか。じゃあ、待ってて呼んで来るから」
「待ってくれ」
二階に行くために階段を上がろうとしていた想太の腕をパパが掴む。
「えっと、どうしたの?」
「いや、勝手なお願いだと言うのは分かっている。だが、聞いて欲しい」
「お願い?」
「俺達をこの家に泊めてくれないか?」
「え? 仲間はいいの?」
「仲間か……確かに仲間も心配だが、今はママの状態が不安定だ。だから、今は皆の目から遠い場所にいて欲しいと思う」
「それはいいけど、どれくらいの期間なの?」
「それは……」
「まだ、言ってないけど、俺達はずっとここに留まるつもりはないよ。それが明日なのか一月後なのかは未定だけどね」
「なら、この家だけを残してもらうわけにはいかないか」
想太はこの地に留まる気持ちは欠片もないことをパパに告げると、パパからは家を残して欲しいとお願いされる。想太もその気持ちは理解出来なくもないが、こんな所に日本丸出しの建物を残していき、他のクラスメイトに見付かることを懸念する。
「ん~気持ちは分かるけど、この家はこの場所には不似合いだし、この国にはない建築様式だよね。だから、残さない方がいいと思っている。それにパパさん達は元の場所に帰るんだよね」
「元の村か……あればな」
「あれば?」
「アイツらに襲撃された時にほとんどが燃やされた」
「なら、再建するのが先じゃないの?」
「まあな。でも、あの村での生活は元々困窮していたから、たとえ再建出来たとしても待っているのは飢えと貧困だ!」
想太は家を残せない理由を話し、パパ達は元の村に帰るんじゃないのかと思っていたことを聞いてみたが、返された答えは想像以上だった。
「飢えって言ったよね。それは狩りが出来ないってこと? それとも畑からの収穫が出来ないってこと?」
「……その両方だ」
「ええ?」
「元々開拓民として、多少多種族よりも頑丈な俺達狼人族が選ばれたんだ」
「そうなんだ。もしかして、狼人族って王国の中での順列は低いのかな」
「分かるか?」
「なんとなとくだけどね。だって、大した準備もなしに辺境の……それも痩せた土地に向かわせるってことから考えたらね」
パパが想太の話した内容を否定することも肯定することもなく黙っていたが、ぽつりぽつりと話し出す。
「俺達、狼人族は数世代前までは王国の中枢にいた」
「いた……過去形なんだね」
「辺境に追いやられたのは親父達が子供の頃だった。その親の世代より更に上の世代で失脚したらしい。多分、狼人族が勢力を取り戻すのを恐れた上での判断だったんだろうな」
「ふ~ん、なるほどね。まあ、よくある話だね」
「ソウタは他人事なんだな」
「そりゃね。無理言わないでよ」
「そうだが、少しは俺達のことを考えてくれてもいいだろ」
「そんな無理言わないでよ。俺に何をしろっていうのさ」
パパは自分よりも背も低く、まだ幼い顔立ちの想太に対し自分でも無理を言っていることは理解している。でも、そんな想太が奴隷として捕まえられた自分達狼人族を助け出してくれたことを思うと、ひょっとしたらなんとかしてくれるのではないか。何か突破口となる考えを出してくれるのではないかと期待せずにはいられなかった。
「じゃあさ、こういうのはどう?」
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