第二章 ようこそ、獣王国へ

第1話 飛び込んできた姉弟

 王国から朝香と二人で転移してきた山中に日本で住んでいた実家をそっくりそのまま創造し、お風呂に入ったり、食事をしたりと過ごしていた想太達の前には頭の上に耳が生え、尻尾が垂れ下がった状態のケモ耳の子供達がテラス窓にへばりついたまま、涎を垂らして食事している想太達を羨ましそうに見ていた。

「ちょっと行ってくるね」

「あまり、ひどいことしないでね」

「そんなことするわけないでしょ!」

 朝香の言葉にちょっと大きめの声で反論すると、テラス窓の向こうでビクッとしている子供が目に入る。

「もう、朝香が言わせるから」

 想太が三和土に下りサンダルを履くと玄関から、リビングのテラス窓に回る。

「ちょっといいかな?」

 テラス窓にぴったり張り付き想太が近付いて来たのが分からなかった子供達がビクッとして、想太の方を振り向く。

 想太が改めて子供達を観察すると、少し汚れた服装をしていたが、少し大きい方が女の子で、もう片方が男の子と思われる格好をしていた。

「「……」」

「別に何もしないから。ちょっと話を聞いてもいいかな?」

「……いるの?」

「え?」

「こんな所で何をしているの?」

「僕たちを捕まえに来たの?」

「ん? ちょっと待って。捕まえるってどういうこと?」

 想太は男の子が言った『捕まえに来た』という言葉に反応する。

「違うの? お兄さんは私達を捕まえに来たんじゃないの?」

「違うの?」

「ああ、違う。それよりここはどこなのかな。知っていたら教えて欲しい」

「ここは獣王国の外れでシャムニ王国との国境の近くなの」

「獣王国? シャムニ王国?」

『地図で確認して下さい。ここはソウタが喚ばれた国から二つ国境を越えた所にある獣王国『ガルディア国』内でシャムニ王国との国境近くです』

「また、面倒なとこに……。それで君たちは逃げてきたの?」

 二人は黙って頷き、『ぐ~きゅるる』と二人のお腹から腹の虫が盛大に鳴り響く。

「「あっ……」」

「お腹が空いているんだね。中に入ろうか」

「……何もしない?」

「捕まえたりしない?」

「う~ん、どうかな。何もしないってのは約束できないな」

「やっぱり……」

 姉が弟を庇うように後ろに隠すのを見て、想太は揶揄いが過ぎたのを反省する。

「あ、待って。違うから、君たちにはお腹いっぱい食べてもらうつもりだから。そういう意味で何もしないとは約束できないって言っただけで……」

「もう、今のは想太が悪いよね。ほら、おいで」

 いつの間にか想太の隣に立っていた朝香が二人の手を引いて玄関に入る。

「ここで、靴を脱いでから上がってね」

「は、はい」

「お姉ちゃん……」

「大丈夫、多分だけどね。この人達はアイツらとは違うから」

 弟が頷き、姉に続いて靴を脱いでから家に上がる。


「さあ、どうぞ。そこの椅子に座って。想太、お願いね」

 朝香が二人をテーブルの開いている席に座らせると想太に追加の料理を頼む。

「「……」」

「ちょっと、待っててね。今、想太がおいしいご飯を作ってくれているからね」

 二人は朝香に対し黙って頷くが、お腹の虫は鳴り止むことを知らない為、どことなく恥ずかしそうにしているように思える。

「はい。お待たせ。何が好きか分からなかったから、お肉なら好きかなと思って『豚肉の生姜焼き』にしてみたよ」

 二人の前にご飯と味噌汁と一緒にトレイに載せて出す。

「遠慮なくどうぞ」

 想太はそう言うが、二人は料理を前に一旦手を伸ばすが、引っ込めてしまう。

「どうしたの?」

「これ、どうやって食べればいいの?」

「あ、そうか。お箸は使えないよね。ごめんね」

 想太が台所に置いてある水屋の引き出しからナイフとフォーク、スプーンを持って出てくると二人の前に並べる。

「はい。これなら食べられるでしょ」

「「ありがとう!」」

 二人はフォークを掴み、目の前の生姜焼きに齧り付く。それを想太と朝香は微笑ましく見ている。

「私達に子供が出来たらこんな風になるのかな? ねえ、想太」

「さ、さあどうかな」

「もう、ノリが悪いわね」

「そういや、俺もご飯の途中だったんだ」

 想太は自分の目の前にある既に冷めた料理に箸を付ける。


 その間、二人はご飯に味噌汁のお替わりを朝香に頼み、朝香も器を受け取りお代わりをよそって上げることを何度か繰り返し、二人のお腹はやっと落ち着いた様子を見せる。

「もうダメ……これ以上は無理!」

「僕も。初めて食べるものばかりだったけど、今まで食べたことのない美味しさだった。あ~ちゃんと味わって食べればよかった」

「そう言って貰えたら、作った甲斐があったよ。それじゃ、二人はお風呂に入ってくれば。ちょっと汚れているからね」

「あ……ごめんなさい!」

「ごめんなさい」

 二人は自分達が汚れていることに気付き想太に謝るが、想太は笑って二人に近付く。

「いいから、ほら。お風呂に入って。朝香、頼むね」

「そうね。小さいとは言え女の子だもんね。じゃあ、行こうか」

「「……」」

「どうしたの?」

「……お風呂って私達でも入っていいの?」

「もちろんよ。でも、どうしてそんなことを聞くの?」

「前にお父さんに聞いたことがあるの。お風呂は貴族かお金持ちじゃないと入れないからって」

「僕も!」

「そうなのね。でもね、ここのお風呂はそんなこと関係ないの。だから行くわよ、それ!」

 朝香は二人を小脇に抱えるとお風呂場へと向かう。

「「キャ~」」

 二人はそれを怖がることもなく楽しいアトラクションにでも乗っているように楽しげな声を上げるが、朝香が止まり想太に話しかける。

「あ、想太はこの子達の服の洗濯と替えをお願いね」

「ああ、分かったよ。洗い物が終わったらするから」

「頼んだわよ~」

 それだけ言うと朝香はまた、お風呂場へとダッシュする。

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