ーー追いかけた先にはーー

 電車が視界に入ってからノゾムの足は動き出す。フライングせずにスタートするのだ。

それでは大人の人間だって追い付くはずはない。

 近くが駅のためか、スタート自体はゆっくりなのだが、すぐに加速し始める。

 電車に追い付きたくて、ノゾム本人は無我夢中、まさにがむしゃらに走る。

八両編成の電車はノゾムの存在に気づいていないように、涼しげに通過していく。並走はものの十数秒であった。

 そろそろどや顔を見せつけながらノゾムはUターンしてくるだろう、そう母親は思っていたのだが、ノゾムは立ち止まるどころか、小さくなった電車をまだ追いかけている。

 それどころか

「ぎゃああああ!!」

 叫び声をあげて、電車を追いかけ続けているのだ。

母親は、ようやくその異変に気づいた。

「ノゾム! 待ちなさい!!」

 母親は大声で声をかける。

まだ小さい歩幅なので、走れば母親は追い付くのだが、追い付くだけではだめなのだ。

 ノゾムの進んだ先には、交差点がある。

交通量はさほど多くはないようだが、母親からすればヒヤリどころではすまされない。

 全速力で、母親は走った。追いかける。

そよ風が強風の向かい風のように感じて、母親は顔を険しくさせた。


 つんざくようなクラクションが鳴る。


 全てが止まったようだった。

 母親だけが走り続けて我が子を追いかけていたが、ノゾムは泣きじゃくりながらその場にへたれこみ、クラクションを鳴らした車もその場に停車した。

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