3敗目 セーラー服の“弟”
朝が来て、起きて、俺はいつも通りに朝食の準備。
親父は料理ができないし。
親父の再婚相手も、引っ越しの翌日で疲れていると思ったからだ。
その内家族が起きて来て、もそもそ朝ごはんを食べる。
親父と親父の再婚相手がちょっと顔赤くして目を背け合ってる以外、異常はない。
ない、筈なのだ。
「……醤油とって」
もこもこパジャマの弟が、未だに妹に見える事以外は。
寝起きでしんなりした睫毛が長くて。
ちょっと寝ぐせがついたボブカットが動物みたいで可愛く。
半開きの目は蒼くて、こう、若干のあくびの所為か涙ぐんで見える。
それが。
もこもこ長袖の下、細くて白い手で米を食い。
俺が渡した醤油を「ぁりがと」と寝ぼけた声で受け取って。
納豆にかけて、かけすぎて。
「ぁ」って言って。
「……」って俺を無言で見て。
納豆まぜて。
ねばねばを乗せた米を、食うのである。
口から箸へかかる銀の糸。
妹にしか見えない、弟。
……昨日までは、「可愛い妹だなぁ」で済ませていた光景であった。
「……ごちそさま」
が、弟である。
両親がぎこちなく会話している横でクールに立つ、弟マコト。
親父も親父の再婚相手もどうでも良い。
可愛いコップに歯磨きブラシ入れて、リビングから見える洗面所に向かう姿が可愛すぎて、どうでも良い。
あまつさえ。
「ん」
階段を上った弟が、降りてきた時。
「じゃ、行ってくるから」
セーラー服姿だった、などという状況が合わされば、親父の照れ顔など見る価値も無い。
セーラー服とは水兵服である。
つまり、元は軍人の男が着る服である。
が、うちの弟が着ると、もう美少女なのである。
下がパンツスタイルでも、美少女なのである!!!!
純白セーラーに純白帽子。
流れるラインは綺麗な青色。
長袖ゆえに手首でふわっとしたセーラーの破壊力は既に破壊神に匹敵し。
俺の横で「気を付けてなー」と言って無視されている親父など、台風の前の洗濯物に等しかった。
「……親父」
「どうした、隆二。さっきから箸が進んでいないようだが」
「あっそっそうだ! 隆二くん料理上手ねぇ、ゆうべも思ったけど……」
玄関から出て行く弟。
ローファーを履いて、トントンと踵をやる脚が、やたら色っぽく。
股間に来るのを感じながら、俺は呟いた。
「…………マコトって、男だよな」
「「何をいまさら」」
学校指定の制服が青白セーラー。
行ってきますの声もなく、陰鬱な表情で玄関を開け、何か言おうとして、俯いて出て行く美少女弟。
うん。
「うん。生えてる方がお得だなって」
「えっ」
「りゅ……隆二くん!?」
親父の再婚相手が、すごい素っ頓狂な声をあげた。
生えてる方がお得って思ったら敗け~妹だと思ったら女装した弟だったけど、可愛いからOKです~ 村山朱一 @syusyu101
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