第20話
「ロゼッタ様、そろそろ王都へ戻る時間でございますが、その前に、少しお茶をされませんか?」
見学をしていたアリーチェは、そろそろ終わる頃だろうと、お茶の準備をして待っていた。
「ええ、そうですわね、ジェラルドも疲れたようですから、お茶をして帰りましょう」
ジェラルドは、ゴールデンロッドに追いかけまわされて、ヘトヘトだった。
「ロゼッタ様は意地悪だ」
「調子に乗るジェラルド卿が悪いのですよ」ジェラルドはアリーチェに窘められた。
ロゼッタは、お茶を一口飲んで、何かを思い出したように、遠くを見つめ話し始めた。
「家で飼っている牛や馬の放牧というのは、田舎では、子供の仕事なんです。普通の子供は、嫌がってさぼろうとするんですけど、私は好きだったんです、動物と接するのが。
時々、牧場に飼い主から捨てられてしまった馬が、迷い込んでくることがあります。痩せ細り衰えた馬は、食用にもならず、何の役にも立たない、かといって、大きな体の馬を処分するのは面倒だと、捨てていくのです。私はいつも憤っていました。だけど、憤慨するだけで、力のない私に何ができるでしょうか、面と向かって、文句の1つも言えないというのに」
「ロゼッタ様は、お優しいのですね」アリーチェが言った。
「久しぶりの草原に、気が緩んでしまいましたわ。変なことを言ってしまいましたわね」
「そんなことありませんわ。私はロゼッタ様のことが知りたいですわ。お話しくださいませ」
「それでは、グラムシの言葉の中に、こんなのがあります。『世界に必要なのは動物であって、人間ではない』世界を造っているのは動物だということです。草を喰み命を育む。排泄物は、こやしとなり、また草を生やす。絶やすことなく命をつなぎ続ける。この繰り返しなのです。では人間は?食べるために野菜を育てて、食べるために動物を飼う、服を作るために綿花を摘む。全ては己の欲のためです。生きるためには必要なこと、だけど、この世界にそれは必要なことでしょうか?大地を荒らし、海や川を汚す人間は、動物よりも下級の生物で、我々は動物によって、生かされている」
「人間は、ここからいなくなったとしても、この世界は続いていくけれど、動物がいなければ、続いていかないということですか?」エルモンドが訊いた。
「グラムシはそう結論づけました。少し極端すぎると思っていたのです。ですが、聖獣を召喚するようになって、違う考えが浮かんだのです。これが聖獣の思考なのか、はっきりとはしませんが。この大陸を造った神エリンジウムは、人間をあまりよく思っていないような気がするのです。そしてエキナセア様もまた、人間を疎んでいる。聖獣を召喚しているとき、エキナセア様の存在を感じることがあります。だからなのか、自分が置かれている状況のせいなのか、今まで以上に、人を警戒するようになってしまいました」
「騎士団長様のことは、お気に召したようでございますね」アリーチェが言った。
「タルティーニ団長は、とても優しい方だわ。部下の前では、あまり笑わない方のようだけれど」
「優しいなんて、誤解ですよ。いつも目くじらを立てていて、怒りん坊団長なんです」ジェラルドが言った。
「怒られるようなことをするから、悪いのではないでしょうか?」子供のように拗ねたジェラルドに、ロゼッタは声を立てて笑った。「最後に馬で駆けたいですわ」ロゼッタは、ドナートの方へ歩いて行った。
草原を自由に駆けまわり、手綱から手を離して大手を広げ、風を感じているロゼッタに、エルモンドとジェラルドとアリーチェは、大慌てだったが、若い騎士たちは頬を染めた。
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