第26話

 教王に用意された書斎で、ドナテッラとモディリアーニ、ファンファーニは密談していた。


「教王様、可愛い聖獣でしょう?オーカーとミスティとティールですの。獰猛な獣なのよ。私の方が、ロゼッタより優秀ってことですわよね。人々から聖女と呼ばれてきたのは、治癒力のある私よ。それなのに、あんな冴えない女に、突然立場を奪われるなんて、許せないわ」


「ドナテッラ嬢、私は国の権力が手に入ればそれでいい。ロゼッタが、頭の軽い女ならよかったが、あれは賢すぎる。故に傀儡とするのは不可能だろうと踏んで、ヴェルニッツィと手を組むことにしたまで、馴れ合う気はない」


「そんなこと言っていいの?私はこの国の最高権力者になるのよ。しかも未来の夫は次期国王。あまり大きな顔をしないでくださる?」ドナテッラは憤慨して出ていった。


「あれは強欲で馬鹿な女だな。典型的な貴族令嬢だよ。私の手のひらの上で踊らされているだけだと、気づいてもいないのだからな」モディリアーニは、ドナテッラが出て行ったドアを睨みつけながら言った。


「コルベールの一件ですか?」ファンファーニが訊いた。


「ああ、ドナテッラは自分を聖女に認定してくれるなら、コルベールを殺してやると言いやがった。治癒師が聞いて呆れるな」


「我々が手を汚さずとも、欲しいものが手に入る。捨て駒になさるおつもりなのでしょう?」


「教会がロゼッタを魔族だと暴き、処刑したとなれば、国民は教会を英雄視するだろう。反対に魔族を見破れず、国の中枢に招き入れてしまった王室は、責任を問われる。その時、ドナテッラは、魔術を使った偽りの聖女だと教会が公表すれば、2度の失態に、王室の権威は勝手に失墜するだろう」


「そうなれば、教会は最高権力を得る。再び栄光を掴めるというものですね」


「教会が権威を失うなど、忌々しい。馬鹿な貴族どもめ、私利私欲を満たすのに忙しく、献金をけちりやがる。教会に逆らうと、痛い目をみると、教えてやらねばならんな」


「神官にも灸を据えてやらねばなりません。聖女を死なせた国は、滅びるという迷信を信じている愚か者がいるようなのです」


「愚かにもまだ、コルベールを支持している奴等だな。死んでからも、私の邪魔をしやがるとは目障りな!あいつと私は、見習いのとき、同じ教区にいたんだ。その頃から目の上のたんこぶだった。もっと残虐な死を、用意してやれれば、少しは気が晴れたがな」


「残虐な死を、反発している神官たちに与えてやれるとしたらどうです?草葉の陰から、コルベールは悔しがるでしょうね。少しは気が晴れると思いませんか?」


「ほう、いい案があるのか?」


「感染すれば、約30日間全身の痛みに苦しみ、最後は全身から血を吹き出し死に至る『悪魔の血』それの特効薬が、完成したようなのです」


「——なるほど『悪魔の血』をばら撒き、邪魔な神官たちを治療にあたらせる。当然、彼らは感染してしまう。後は教会が特効薬を作ったと言い、無償で配れば、人々は教会に感謝するだろうな」


「はい、上手くいけば、エキナセア以上に、崇められるかもしれませんよ」


「エキナセアなどいるわけもなかろうに、信じる者の気がしれん。そうは思わんか、ファンファーニ枢機卿」


「同感です。もし本当に神がいるなら、飢え死にする者も、病気を患う者も、この国にはいないでしょうね」

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