第52話 ???視点

「アリラド王国で勇者が召喚されたみたいだね」

「大仰な冠がついとるのう。勇者とはな。元はただの異世界人と言うのに」

「羨ましい限りだよ」

「お主は恵まれなかったからのう……」


 目の前ののじゃロリ猫から心配の視線を感じる。


 別にもう過ぎたことだし、気にする必要ないと思うんだけどなぁ。


「でも二人、オレの居たマタイリクに飛ばされたようだな」

「急に現れんなよ爺さん。うっかり殺したらどうするのさ」

「はっ!若造がオレを殺すだと?500年早いわ!」


 かっかっかっか!と大きく笑うしわに塗られた白髪のじじい。


 確かにこの爺さんに勝てるビジョンはまったくもって見えない。僕も強くなったつもりなんだけどなぁ。


「で魔大陸に飛ばされた二人がどうしたのじゃ」

「いや実はな、マタイリクでそこそこの強さの魔力を確認してな。隠密して見に行ってみたら黒髪黒目をしていてびびっと来たんだ。これは日本人じゃねぇかって」


「それで今千里眼で追跡中だ」

「ほう、今も魔大陸か?」

「今はヨセフに居るな。そこでだ。この二人と戦って能力を見定めてくれ。戦ってみて強さが確認出来たら、ぜひうちの【魔王他世界連合軍】へしてくれ」


「勧誘、のう……」

「無論、断るなど言語道断だと思わせろ。圧倒的強者からの命令だと体に刻み付けろ」

「うん、別にいいけど、ちゃんと魔王様には伝えたの?」

「あとで伝えるさ!」


 この能天気具合にいつも苦労する羽目になるんだから。やっぱりじじいになると脳みそ固まっちゃうのか?


「おい今失礼なことを考えなかったか?」

「か、考えてないって」


 うん、この人心読めるだろ。何真剣首にかざしてんのさ。


「ほれはよ行け」


 しっしと口にしながら手首を曲げる。


 本当にあの人は……まぁいいか。上司からの命令は絶対、ってね。




「あそこかの」

「そうみたいだね」


 どうやら彼らは冒険者をやっているようだ。なんでも最速でDランクに上がったから冒険者の連中がひそひそ話していた。


 名前は、セイヤとトモヤ。うん、実に日本人らしい。


 彼らはアースベアの巣窟討伐に赴いてるみたいだ。どうして実力を隠しているのかは後でじっくり聞くとして、早く捕まえないとね。


 道中魔力の塊が稲妻を纏いながらものすごいスピードで襲ってきた。


「あっぶないな」

「この先はアースベアの巣窟がある。あの二人のどちらかの仕業だろうのう」


 ありゃ当たってたらひとたまりもなかった。うん、これだけでかなりの実力者なのがうかがえる。なんというか、負ける可能性も考慮しないといけないっぽい?


「負けはせんじゃろう。なんせわしがついてるからな!」


 さっきからコイツらは……歳食えば心読めるようになるのか?


 そんなことを考えてみたが、別に突っ込まれたりしない。なんなら小さな胸を高らかにしていた。


 うん、たまたまだな。


 

 夜になった。


 さて、対象者を見つけたはいいもののこの状況じゃあ「いざ尋常に!」って言える空気ではない。うん、一旦町に戻って明日行くべきだな。


「ちょっとまてい」

「どうした?」

「あの四角の箱の中、一人傷等はないが死んでおるの。生き返らせんか?」


 そういって透明になっている謎の箱を指さした。


「うん、確かに死んでるね。生き返らせるか」


 と言ってもかなりの魔力使うしあの二人にバレる可能性もある。正直リスク高いなぁ。


「大丈夫じゃ。魔力を隠密させる」

「うん、助かるよ。よし!」


「生を謳歌しともしび尽きたものよ、彷徨う魂の行き場を導き世を今一度目に焼き付けたもう【死待回帰したいかいき】!」


 遥か上空に幾数もの魔法陣が重なる。そして大きな光を発し、死んだものに魂を打ち付ける。


 はぁ、はぁ。これ魔力だけじゃなくて体力も消耗するから嫌いだ。


 でも生き返らせられる人間が目の前にいるなら、手を差し伸べなくてどうする。世界統一、世界平和、を目指すのが【魔王他世界連合軍】なんだ。


 うん、僕にはうってつけだな。


「相変わらず綺麗で派手な技じゃな」

「神の力って全部こんな感じだよ。ひっそりとやってほしいものだね」


 少しの正義感を抱えながら、町へと戻っていった。


 そういやドムラルク、元気やってるかな。

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125kgの俺、体重変換で最強になる話 でもだよ @demodayo888

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