第50話 光りは宵闇を見ない

 指輪が光輝いた。


 よし、作戦通りだな。


「あん?!なんだそのひk


 まず一人。


 セイヤの方を見る。


 顔の周りを水で覆って【凝固】を使って窒息させたそうだ。


 うげぇ殺し方エグ。


「即終了、だったな」

「一応初めての殺人だったんですけどね」


 何というかこの世界に来てからいろいろと日本人としての感覚から遠のいていっている気がする。


 これがファトムさんの言っていた適応力ってやつか?


「じゃあ助けに行くか」

「あぁ、でもちょっとだけ待って。アースベア倒しとく。【探索】」


 真っ直ぐに二頭いる。


 ピストルの形を手で再現する。


 実戦で使うのは久しぶりだけど、このスキル結構自由自在なんだよな。


 寝る前とかよく考えたもんだ。


 【魔力弾】は、装填できる。

 

 以前は刀にしたんだっけ。


雷填らいてん


 まぁちょっとした言葉遊びだ。


 俺がそう言うと、人差し指の先端にびりびりと電光が走る。


 魔力の行き先を人差し指に集中。


 そうだ。貯めれば貯めるほど威力は高まる。


 太陽が照らす日中のような眩しさを放つ姿を見て、準備完了だ。


「【魔力弾】」


 解き放たれた弾丸は、アースベアへ迸る。


 二体とも貫通したようだ。


「ふぅ、いっちょ上がり」

「あ、終わった?」


 なんとも力が抜ける声が聞こえる。


 どうやら待たせすぎたようだ。


「ごめんごめん。久しぶりに滾っちゃって」

「いや、いいよ。時間かかりそうだったから隣にすぐいけるようにトンネル掘っといた」

「うぉ、ナイス!」


 いやーよかった。相棒が有能で。


 時間かけすぎて間に合いませんでいたとか、洒落にならん。


「さんきゅー!!」


 そう言って俺達は【光なる道】を救出するために走り出した。



―【トレア】視点


 あたし達はいつも、男と言う下衆から視線を送られてきた。


 皆は平気そうだけどあたしは慣れることができなかった。


 確かに女だけのパーティーなんて珍しいし、ジャーナの恰好なんか娼婦と見間違えられても仕方ないような服を着ていて、度々下衆どもから口説かれている。


 女だけのパーティーなのも、ジャーナが露出の酷い服を着ているのも、すべてあたしのせいだった。


 昔、母が浮気してる姿を見たことがある。


 いつも優しく諭してくれた母が、女の顔をして父でないどこの誰だか知らない下衆に尻を振っていたのだ。


 そんな姿に衝撃を受けて固まっていたあたしを、下衆がなめまわすように見ていた。


 怖かった死ぬかと思った同じ目にあわされるかと思った。


 そこからだ。


 あたしが、男の視線に震えてしまうようになったのは。


 そんなあたしにも夢ができた。


 ダンジョン攻略だ。


 冒険者になってダンジョンに潜って罠をかいくぐりながらヌシを倒す。


 そんな夢。


 それをセラビーア、メドネス、ジャーナに喋ってしまった。


 そしたら優しい彼女らは「叶えよう!」って応援してくれて。


 あたしも絶対になってやる!って決めたのに、ダメだった。


 あたしは治癒魔法使いだから、仲間がいないとダンジョンに潜れない。


 またそれを三人にしゃべってしまう。


 そしたら「私たちもやる!」って言ってくれて。


 眩しくて思わず目をつぶってしまいそうな優しさがあたしを包んでくれた。甘やかしてくれた。


 男の視線が怖いだろうってことで、ジャーナが一肌脱いでくれた。


 恥ずかしがり屋なのにあたしのために必死にキャラを作ってしたくもない恰好までしてくれて、本当にうれしかった。


 でも本当は、こんなことさせるべきじゃなかった。


 ダンジョンに潜るにはBランクからと定められているからって、ランクを上げるためにあの依頼を受けたのも間違いだった。


 あの二人を信用したのも間違いだった。


 あたしたちは負けた。


 メドネスは死んだ。体が一番貧相だからだって。


 セラビーアとジャーナは犯されている。泣き叫んでいる。


 あたしは耳を塞いだ。塞げなかった。


 そっか、両手縛られてるもんね。


 あたしが彼女らをここまで連れてきてしまった。


 二人の叫び声が、お前のせいだ。お前のせいだって言っているように聞こえた。


 ごめんね、ごめんね、あたしのせいだよね。


 あたしなんかに出会わなければ、死ぬこともなかったし犯されることもなかった。


 二人は泣き叫ぶ。


 きっとみんなの年齢だと夫もいて、子供を孕んでいても何ら不思議ではない。


 ぜんぶ、あたしのせい。


 二人は泣き叫ぶ。


 あの不思議な青年達を信用してしまったのもあたしのせい。


 あたしが、あの二人に依頼を受けてもらおうなんていわなければ、今頃こんなことにならなかったはずだよね。


 二人は泣き叫ぶ。


 そう、ぜんぶあたしのせい。


 足音が一つ近づく。


 セラビーアがぐったりと倒れた。


 目が震え、しずくの輝きすら濁っていた。


 ジャーナの声も聞こえなくなった。


 肉と肉がぶつかり、液体の滴る音が聞こえる。


 ジャーナはまだ犯されてるみたい。


 あたしの服を乱暴に破る。


 今度はあたしの番みたい。


 目をつぶる気力すらわかず、されるがまま、その時を待つ。


 首がなくなった。


 二人の黒髪が見える。


 あぁ来たみたい。


 遅いよ、もう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る