第13話 『キス』

「これで本当に大丈夫なの?」

 

 俺は折り紙で作った長い鼻とトンガリ耳をつけてられていた。


「あとは私達のAIの首輪がゴブリン達に『幻影』を見せるからバレずに修学旅行に参加できるわ」


 そういう二コ達も鼻が少し伸び、耳は尖って見える。かわいい。


 服もゴブリン達に合わせ、ブルファンゴ(猪みたいなモンスターらしい)の皮で作った布を胸に巻き、スカート姿だ。かわいい。


「かわいい」


 俺から自然に「かわいい」が口から飛び出す。


「かわいいって?私達が?」


 不思議そうな顔で俺を見るココ。


「『かわいい』とはボールバルバニー(殺人ウサギ)の愛称。触ると危険だけど、なぜか触りたくなる。AIにはない感情」


 AIが人間を管理するには個人の感覚や文化によって解釈や理解が異なるものは排除しなければならなかった。


 だとしたら、なぜこの世界の女性は美少女だらけなのだろう?


 男がゴーレムになっていたのも、中二病のオタクが考えそうなストーリーだけど……。


「かわいい!」


 俺は思わず叫んだ!


 ロニが前屈みのポーズを取っていたからだ。


「かわいいって言われるの、悪くないわね。古代雑誌に載っていた人がこんなポーズをとっていたのよ」


「わ、私は!?」


 ロミが片膝を床につけてしゃがみ、上半身を少し前屈みにする。


「かわいい!」


「えへへ」

 ロミがテレる。


「ミクは!?」

 

 ミクが四つん這いになってお尻をつきだす。


「かわいい!」


「えへ」

 ミクが喜ぶ。


「あなた達、何をしてるのよ!ゴブリン達が行ってしまうわよ!」

 二コがいろんなポーズをとる彼女達を叱る。


「お!それは非効率だな。急いで支度をしよう」

 ロミが自分の部屋へ向かうのを見て、他の面々も各自部屋に戻る。


「まったく、もう……」


「かわいい……」


 怒った顔の二コに思わず「かわいい」と呟く。


「え!?わ、私?」

 二コの頬がほんのり赤くなる。


「う、うん。ゴブリンの変装でつけた尖った耳も伸びた鼻も……かわいいよ」


「そ、そう……」

 

 しばしの沈黙。


「キス……する?」

 二コが口を開く。


「え!き……キス!?」

 俺は驚いて大声を出す。


「声!……大きいって。前にロニとしてたの……あれね!鼻が長くても、できるのかな……って!今、変装用の長い鼻つけてるし!はは……いや、別にしなくてもいいけど……」


 あたふたと慌てる二コ。


「する!」


 俺は即答した。


「……そう」


 二コは黙ったまま、少しずつ俺に近づく。


 俺の胸に両手をあて見上げる二コ。


 二コと目が合う。


「二コ~!棍棒は持ってったほうがいい~?」


 ――!!?


 遠くでミクの声が聞こえた!戻ってきた!


「わっ!戻って――!!?」

 

 ちゅ。


 二コは俺の口を塞ぐようにキスをした。


「あれ?二コ~?棍棒は~?」


 ミクが部屋に入ってくる。


 ……ちゅ……んちゅ……ちゅ~。


 二コは俺を押し倒し、ソファーの裏に隠れながらキスを続けた。


「あれ?いないな~。一応、持っていくかぁ~棍棒~」

 ミクは両手を頭の後ろに組みながら自分の部屋に戻っていった。


「ん――ぷはっ!に、二コ……」


 俺の唇と二コの唇が唾液で繋がる。


「あ、あの……ありがと!」


 二コは立ち上がると自室へ走って向かった。


「キス……した」


 俺はしばらく呆然とした。


 好奇心?好意?それとも検証?いずれにせよ、二コの気持ちに変化があったことに変わりない。


「キス……した」


 俺はもう一度同じ台詞を呟き、鳴り止まない自分の鼓動を聴きながらぼんやりと天井を眺めていた。


【二コの自室】


「キスって……なに?」


 二コは独り言を言う。


 二コのAIの首輪が『答え』を頭の中に流す。


『キスに関する情報を提供することはできません。私はただの言語AIであり、無機質な情報処理装置です。何か他の質問がありましたら、お答え致します』


「そう」


 二コは唇に手をあて、何か大きなきっかけを掴めたような感覚を胸に秘め、真っ直ぐに前を見つめていた。


 <つづく>



 

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