第30話 仕事の成功は色々な物を引きつける


 竹内先輩がまどかを連れてここに来た時は驚いたが、彼女から連絡が来ることは無かった。


 御手洗さんは、何故か静かだ。俺には好都合だけど。


 優香とは、毎週土曜日遊びに来て日曜日にデートしたりしている。



 仕事も最終報告である執行役員会議への上程が了承され晴れて製品として世に出す事になった。


 作業も最終工程に入っており、全国の支社をスタブにして同時テストも始まっている。今の所、大きな問題が出たという報告はない。



 既に年も明けてこの四月にリリースする事が決まっている。今の俺の仕事は本体の営業部隊と共に東京、静岡、名古屋、大阪に本社を置く日本でも有数の企業へのプレゼンテーションに忙しいというところだ。


 この製品は、企業グループの頭を押さえれば、雪崩式に関連企業が導入する。逆の見方をすれば中小企業への売り込みは必要ないという事だ。



 そして四月にリリースがメディアを通じて大々的に公表されると、俺の企業巡りも忙しくなった。開発責任者としての立場だ。



 当然ながら土日なんてない。最初の概要説明から始まって、ピンポイントの疑問と説明に追われている。

複数の企業からその業界独特の慣習、業者間取引や決済方法、銀行取引等について質問されては、富永さんと成瀬さん、それに営業と回答書を作ってはレビューし、説明に行く日々を送っていた。


 そして七月に名古屋の日本、強いては世界でもトップレベルの企業が、導入を決めてくれた。



 色々な準備が有る為、導入作業開始は、九月に入ってからだが、これによって商用AI企画開発室も本部体制をとる事になった。


 従来のAI事業推進本部は生成AI等を扱う事業部として残し、新たに商用AI事業推進本部を立ち上げた。

 本部長として元商用AI企画室長が昇格し、俺は同事業本部商用AI開発部長を拝命する事になった。営業部隊はAI事業推進本部の第二営業部を移動させる事になった。


 ただこれだけでは営業部、開発部とも人手不足になる為、開発部は第一開発課と第二開発課を発足させ、従来、室で作業していた人は第一開発課に所属させ研究開発はそのままとして、商用AIの導入及び周辺システムを作成する人達を他部から募集し、第二開発課とした。



 この事業体制は、事業自体は今年十月に発足となるが、対客もあるので実質は九月から本稼働になる。


 そしてなんと御手洗さんは商用AI営業部に配置転換になった。理由は俺の知る由も無いが。



 八月も終わりの頃、事業部体制とそれに伴う人事異動、実際の作業着手準備も落ち着きが見えた頃、竹内先輩から俺の社用スマホに連絡が入った。


 えっ?どういう事?


 何故、竹内先輩が俺の社用スマホの番号が分かるか理解出来ずに応答すると


『りゅう、いや神崎商用AI開発部長。竹内だ。久しぶりだな。もう一年経つか?』

『そうですね。ところで先輩はなんで俺のスマホの番号を?』

『そこから説明かよ。まあいい。午前十二時半に七階のカフェテリアの入口で会えないか?』

『それは大丈夫ですが』

『じゃあ、その時に』


 竹内先輩の言っている事の意味も分からずに昼休みになり、七階のカフェテリアに行く事にした。


 エレベータの中では、何故か女子社員が物珍し気に俺の顔を見る。いや俺が意識しすぎているのか。でも何となく送られる視線が気になる。


 七階に着いてカフェテリアの入口に行くと


 っ!


 あの時の再来か。竹内先輩とまどかが立っていた。だが近付くと


 えっ?!うちの社員証が首から掛かっている。どういう事?


「竹内先輩久しぶりです。西島さんも」

「久しぶりだな」

「久しぶりです」

「いったいこれは?」


「まあ、昼でも食いながら話そう」

「はい」



 俺達はトレイにそれぞれの昼食を乗せて、窓際の景色の良いテーブルに行った。椅子に座ってから


「先輩、どういうことですか?」

「いやなに。この会社に商用AI事業推進本部が立ち上がり営業部が発足した時、商用AIの知識を持っている奴が少ないらしくてな。それで前の会社に誰か移籍出来る奴がいないか問い合わせが来たんだ。

 当然、案件持ちの中で山場を迎えている奴は来れない。ところが俺は丁度去年取った新規の案件が軌道に乗って、新しい案件のプロポーザル中だったわけよ。

 当然、思い切り立候補して、部長をねじ伏せて来たわけだ。勿論西島さん付きで」


「あの、西島さん付とは?」

「それは三年間、お前と俺が仕事していた時からのまあ、縁ってところだ。あっ、相手は勿論俺じゃない。俺はこの前、嫁さん貰ったばかりだからな」

「えっ、なんで教えてくれなかったんですか。祝儀の一つも出したのに」

「忙しすぎるりゅうに教える訳にもいかないだろう。まあと言う訳で、仕事が出来てご縁のある西島さんを連れて来たわけだ。

 これからはまたべったりと一緒に仕事になるから、りゅう、いや神崎商用AI開発部長宜しく頼みますよ。じゃあ、俺はこれで」

「えっ?!ちょっと先輩」

「神崎商用AI開発部長、先輩は飲みにいった時位にしてくれ。俺が変な目で見られる。じゃあな」


 全く、先輩は何という事をしてくれたんだ。もう記憶からも消えていたのに。まどかが俺をじっと見ている。


「まどか、とにかくご飯食べよう」

「うん、それと神崎商用AI開発部長、会社の中では私も西島でいいよ」

「…………」


 それはそれでいいんだが。




 私、御手洗千賀子。商用AI事業推進本部が立ち上がったと思ったら、人事より営業部への移動命令が有った。どういう事か全く理解出来ない。

 私は、前からの同僚と一緒にカフェテリアに来ている。同僚と話をしながら周りを見るとりゅうがいた。そして知らない男と女。

 いや良く見ると最近移籍して来た営業とセクレタリだ。なんだかとても親しそう。あれ、男の人が席を立ったけど女の人とりゅうが残っている。

 なんか、とても親しく話している。どういうことなんだろう。あの子の目。えっ、まさか。でも…。


―――――


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宜しくお願いします。

 


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