第23話 地域密着型だからね
【宵宮の医者】
先代【始まりの火】より“眷属”として迎え入れられた彼はその体質から特殊な治療法を用いる医者だった。
その手が届く範囲は、物理的なモノは勿論、『闇魔法』や原因不明な“呪い”の類いまで診療対象であり、病に起因するモノなら土地や環境の治療も対象内だった。
その噂は『ジパング』の外には細々と伝わっており、病を治したい者が危険な航海を越えて訪れる価値がある程の腕前である。
「そんなに凄いお医者様なの?」
「うん。多分、ハク先生に治せないモノは無いんじゃないかな?」
「ソレナラ、アランノ旦那ノ“呪イ”モ行ケルンジャネェデスカイ?」
ココロは航海の債務整理があると言って帰り、今は四人でハクシの元へ向かっていた。
「あんまり信用してねぇけどな」
アランにとって周りの評価は有って無い様なモノだった。自分の眼で見たモノ、直面したモノだけを信じる。それが彼の心情である。
「あそこだよ。ハク先生の診察所」
それは『港城下』から少し“大森林”へ向かった道の片隅にある小さな木造の建物。かなり古い雰囲気が感じられる。
「メッチャボロダ」
「“眷属”って奴らは偉いんじゃないのかよ」
「基本は『宵宮』に寝泊まりしてる方々が大半だけど、ハク先生は地域密着型だからね」
「庶民的な方なのね」
すると、診察所へ近づいてくと、向こうから扉が開いてヒトが出てきた。
否、ソレは“ヒト”ではなかった。
頭には二本の角を生やす筋肉質な巨体は和服に身を包み、その下に包帯を巻いている。診察所の扉を狭く通り抜けて出てきた。
「大嶽君、ヤマト君にちょっかいをかけては駄目だよ? 流石に首を落とされたら私でも治せないからね」
「先生……ホントお世話になりました。マジで、ホントに……」
その後ろから出てきた『人族』の男に、角の生えた巨漢は見下ろしながらもペコペコする。
「ヤマト君による傷は本来なら治らないモノだ。君達もソレは周知のハズだろう?」
「俺ら『鬼族』全体は『宵宮』との敵対は考えてないんすよ。伽藍の奴もヤマトに絡むのは悪ふざけな面もありまして……」
「今の『宵宮』は『冬将軍』と『次郎権現』で手が回らない。些細な障害でも過剰に反応してしまう事を皆に伝えておいてね」
「はい。あのメスガキは……捕まえて『石積みの刑』にさせます」
すると見られている事に気づいた『鬼族』大嶽は視線を四人へ向ける。そして、
「ハッ、海外産の蜥蜴か。貧相だな」
「ああ?」
アランは即座に馬鹿にされたことを理解すると睨みを効かせながら、ずんずん、と大嶽へと近づく。
「ん? ユキミ君」
「ハク先生」
対してハクシはユキミの後ろにいる二人に気がつき、会話を始めた。
「久しいね。そちらの可愛らしいお二人は――」
するとハクシはゼウスを見て驚愕に眼を見開く。
「君は……」
「二人はゼウスとゴーマ。僕の弟妹分です」
「
「ゴーマ、ダゼ!」
丁寧にお辞儀をするゼウスと、偉そうに胸を張るゴーマの二人を見ながらハクシは少し考えた後に、
「……気のせいか……私は
「よろしくお願いします」
「ヨロシクダゼ、先生」
二人の様子にハクシは微笑む事で友好の意を返す。
「ふむ、それでユキミ君。君は『ジパング』を発ったとユキノ君から聞いてるが……外に用事か何かだったのかい?」
「あ……実は一時帰省中でして」
「ふむ。その理由は彼かな?」
ハクシの視線には、死ね! オラ! と大嶽と殴り合いを始めているアランの姿があった。
「こちらの『
「アランノ旦那ト正面カラ、殴リ合エル奴ガ居ルナンテナ」
ゴーマの記憶ではアランの体躯は知る存在の中では屈指だった。ソレと同格の存在が『ジパング』に居ることに驚きだ。
「『鬼族』ね。肉弾戦は『妖魔族』の中でも随一とされてるわ」
「ゼウス君は博識だね。『鬼族』は『四妖魔』の一つなんだ。特に大嶽君はその中でもNo.2でね。『蜥蜴人』のアラン君は大丈夫かな……」
アランは『ブレイカー』を使わずに素手だけで大嶽と正面からド突き合っている。
すると、ユキミが二人の間に入るように、スッ、と前に出た。
「アラン、大嶽さん」
双方の突き出す拳をユキミが手に取った瞬間、二人の視線は空を映していた。
「が!?」
「なにぃ!?」
『桜の技』により二人は仰向けに倒されたのだ。
「ハク先生の前で争いは御法度だよ」
上から覗き込むユキミにそう言われて、二人の戦意は一気に消沈した。
「ユキミ君、腕を上げたね」
「凄いわ」
「ヤッパリ、ハンパネェ……」
良くユキミの怪我を治療していたハクシは頷き、ゼウスは、ぱちぱち、と拍手し、ゴーマは改めてその技術に感嘆した。
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