温暖化が「ちょっとだけ」進んだ結果、人類が昼夜逆転した夜行性になった世界という設定がまず秀逸だ。気温が上がりすぎて昼間に外を歩けず、全員が水着にネクタイで夜に出社する。蚊が絶滅してその代わりに性行為で感染するマラリアが猛威を振るい、少子化と孤独死が加速する。ディストピアなのに妙にリアルで、妙にコミカルで、そのバランスが絶妙だ。
各話のタイトルが全てひらがな(「よるはやく」「よるおさかん」「よるのふほう」)で統一されていて、この夜の世界のまどろんだ空気とよく合っている。蝉の鳴き声が各話をつなぐ時報のように機能していて、構成の工夫も光る。
主人公とカノジョの朝(夜)の会話は、世界がどれだけ変わっても日常のやりとりはこうなんだ、という温かみがあって、SF的な設定の中にちゃんと人間が息づいている。
「樹なんて大っ嫌いだ!」と世界観は近く、ラジオ・K氏の「環境問題をSFの入口にする」という一貫したテーマがここでも出ている。短くテンポよく読めて、かつ読後に少しだけ考えさせる、ラジオ・K氏作品の中では最もバランスの取れた一篇だと思う。