第27話
☆☆☆
そこにはやはり5体の地蔵が並んでいた。
「これが見えない人がいるなんて信じられない」
美樹はため息交じりにつぶやく。
「本当だよね」
佳奈は同意しつつ、地蔵の周りを調べ始めた。
この地蔵が夢に出てきて自分たちの首を切断しているとすれば、それにはなにか理由があるはずだ。
「地蔵はきっと、自分の首がほしいんだろうな」
考えていた答えを明宏がつぶやく。
「じゃないと、あんなことはさせない」
「それじゃ、ここに来ても意味ねぇかな」
明宏の言葉をヒントにしたのは大輔だった。
地蔵の周りにヒントがないかと調べていた他の5人は動きを止める。
「地蔵の首を探さないと、意味ねぇよ、きっと」
そうなのかもしれない。
「でも、そんなのどこを探せばいいかわからないよ」
佳奈は情けない声を出した。
地蔵の首は最初からついていなかったのかもしれない。
そうなると、もう探しようがないのだから。
しかし、明宏がなにかひらめいたように「あっ」と声を上げた。
その目は輝いている。
「どうしたの?」
美樹が質問すると明宏はまた確信したような口ぶりで「それならここを探すよりも、もっと探したほうがいい場所があるじゃないか!」と言った。
「え?」
他の5人には意味がわからずに首を傾げる。
「ほら、僕たちがみんなの首を探した場所だよ。それぞれ首があった場所に意味があると考えるんだ」
「あ」
さすがの佳奈も気がついた。
地蔵たちは自分たちの首を置く場所に意味をもたせた。
その意味は、地蔵の首が近くにあるというヒントだ。
この現象の中で考えられることはそれだけだった。
「なるほど、首のあった場所に首があるってわけか」
慎也も納得した様子だ。
「それなら順番に行こう。まずは春香を見つけた場所からだ」
大輔はそう言い、先頭に立って歩き出したのだった。
☆☆☆
春香の頭部を見つけたのは道の真ん中だった。
片側が民家、もう片側が山肌になっている。
「こんな場所に地蔵の頭部があったら誰かが絶対に気がつくよね」
たどり着いたとき春香が絶望的な声で言った。
ここには地蔵の頭部はないと判断してもおかしくない場所だった。
「わからねぇだろ? 早く探すぞ」
大輔に急かされて春香も渋々地蔵の頭部を探しはじめる。
電信柱の影だったり、溝の中だったり、民家の庭だったり。
探す場所はそう多くない。
それでもやっぱり頭部は見つけることができなかった。
「やっぱり、根本的になにかが間違えてるんじゃないかなぁ?」
探し場所がないので20分ほどで手持ち無沙汰になってしまい、佳奈がつぶやく。
しかし男子たちはまだ諦めていないようで、山肌の方を調べていた。
そこにも草木が茂っているだけでなにかがあるようには思えなかった。
山の中まで入ってしまえばまだわからないが、ここは山肌が見えているだけだ。
もしそんなところに地蔵の頭部があれば、石みたいに転がって道路まで落ちていてもおかしくない。
「おかしいな」
探し始めて1時間が経過するころ、大輔が額ににじむ汗を拭って手を止めた。
さすがに男子3人も疲れてきたようで、慎也と明宏は木陰に座って休憩していた。
大輔はさっきまで土を掘り起こしたりして探しものを続けていた。
道具なんて何も持ってきていないから、服も手も泥だらけだ。
「ねぇ、やっぱりここにはなにもないんじゃない?」
太陽はそろそろ真上に差し掛かっている。
炎天下の中探し続けていたら、体が持たない。
しかし、大輔はそんな春香の声も耳に入っていなかった。
春香の頭部をここで見つけたときも、大輔は不思議と呼ばれているような感じがしてここまでやってきたのだ。
そして今も、なにかに呼ばれているかのような感じがしてならない。
胸騒ぎがするのだ。
再び土を堀り返し始めた大輔を見て、春香はため息をついきつつ手伝いに向かった。
「ここを掘ってなにも出てこなかったら、一旦ファミレスに戻ろうね」
大輔に向けてそう言い、素手で土を掘り返し始めたのだった。
そして更に10分が経過したときだった。
コツッと春香の指先になにかが触れた。
石かなにかだろうと思った春香はそれを指先で摘んで引き出そうとした。
しかし、白いそれは出てこない。
思っているよりも大きな石が埋まっているようで、辟易とした気分になってしまう。
太陽はジリジリと体を焼いて、さっきから汗が止まらない。
「どうした?」
異変に気がついた大輔が手を止めて春香に聞いた。
「ここに大きな石があるみたい」
そう言われて確認した瞬間、大輔の体に寒気がはしった。
こんなに暑い日中に全身が震えるほどの寒気。
「石じゃない」
無意識のうちにそう言っていた。
「え?」
「これは石じゃない」
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