第20話

明宏は真剣な表情で記事を最後まで読んだ。



5体の首無し地蔵なんて他にはないだろうから、今日行った場所であっているはずだ。



それでも記事の内容はいまいち理解できないものだった。



「よくわからねぇな」



慎也がそう呟いて大きく伸びをしている間、明宏は真剣な表情を崩さなかったのだった。


☆☆☆


せっかく首無し地蔵まで行ったけれど、今日の収穫はほとんどなかったと言ってもいいだろう。



佳奈はうつうつとした気分でベッドに横になった。



連日の首探しのせいで時分がちゃんと眠っているのかどうかわからなくなる。



日中ちゃんと動けているから一応眠っているのかもしれないけれど、その感覚はほとんどなかった。



「今日も誰かが首を取られるかもしれない」



布団に潜り込んでつぶやく。



もしそうなったら今夜もまた眠ることができないだろう。



重たい気分は日に日に蓄積されていき、昼間でも発狂しそうになってしまう。



こんな状態じゃそもそもしっかり眠ることなんてできないんじゃないか。



そんな不安をよそに、疲れ切っている佳奈は目を閉じると同時に深い眠りについたのだった。



それは簡単に目覚めることのない、深い深い眠り。



起きたくても起きれない、夢の中で自由にしたくてもできない。



そんな夢の中。



誰かが部屋のドアを開ける音がして佳奈は目を開けた。



薄暗い、普段の部屋よりも狭い空間。



その空間の真ん中に布団が敷いてあり、佳奈はそこで横になっていた。



この光景を見たことがある。



そう気がついた時ドクンッと心臓が大きくはねた。



冷や汗が背中に流れて、心臓は早鐘を打ち始める。



ドアを開けたのは誰?



上半身を起こして確認しようとしたけれど、体はガッチリと固定されているように動かなかった。



誰かの足音が部屋の中に入ってくる。



1人、2人、3人……きっちり5人分だ。



足音は枕元まで近づいて止まった。



佳奈は必死に視線を泳がせてその正体を探ろうとした。



窓から差し込む月明かりに、何かが反射するのが見えた。



ギラリ。



そういうのが正しい光。



途端に佳奈は春香と明宏が首を切られたときの断面を思い出した。



同時にこれから自分もそうなるのだと確信する。



この部屋は何度も夢に出てきたあの部屋で間違いがなかった。



人影が佳奈の横へ移動してきた。



黒く、首のない影が佳奈を見下ろしている。



その手には鉈が握りしめられていた。



ギラギラといやらしく光る鉈に目を奪われる。



殺される。



私はこれから、あの鉈で首を切られる!



わかっているのに動くことはできなかった。



眼球だけを忙しなく動かし続けて、今では真っ赤に充血している。



それでも動きを止めることができなかった。



部屋の中を少しでも観察し、影の動きを少しでも覚えておこうと必死だった。



やがて鉈が佳奈の頭上に振り上げられた。



くる……っ!



思わず目を閉じたときだった。



「お前たちには我々が見えた。選ばれたのだ」



それは脳に直接響く声だった。



咄嗟に息を止め、目を開く。



今のはどういう意味?



聞きたいが、口は動かない。



目の間に鉈が迫っていた。



待っ――!



ザクッ。



佳奈の意識はそこで途切れた。





慎也は絶叫と共に目を覚ました。



勢いよくベッドに上半身を起こして、口を大きく開けて空気を吸い込む。



全身汗でぐっしょりと濡れて髪の毛は張り付いている。



でもそんなことは気にもならなかった。



「佳奈が……佳奈が……」



うわ言のように呟いて金魚のように口をパクパクと動かす。



そうしている間に徐々に気持ちが落ち着いてきて、ベッド脇のスマホへ手を伸ばした。



時刻は夜中の1時。



いつもと同じ時間だ。



次々とグループメッセージが送られてくるけれど、それを確認するつもりはなかった。



ベッドから起き出した慎也はジーンズに着替えをすると階段を駆け下りた。



いつも玄関先に置いてあるバッドを力強く握りしめて外へ出る。



今夜も人影は1つもなかった。



まだ明かりがついている民家からも、聞こえ漏れてくる声はない。



今回夢の中で首がなかったのは佳奈だった。



佳奈は無残にも首を切断され、布団は血に濡れていた。

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