第10話

☆☆☆


それから6人揃って集合したのは、昨日のファミレスだった。



今日は昨晩とは違い、数人のお客さんの姿もあるし店員さんが忙しく立ち働いている。



これが正常な姿だと、佳奈はマジマジと彼らのことを見てしまった。



「まだ痛みが残ってる気がする」



春香は青ざめた顔で自分の首元をさすった。



そこには傷ひとつなかったが、夢の中で首を切断された時は本当に死ぬほどの痛みと苦痛を味わったと言う。



「俺のケガは残ってる」



慎也はそう言うとみんなに足首のケガを見せた。



昨日黒い化け物に襲われて切られた場所だ。



今はちゃんと包帯が巻かれている。



「嘘……」



美樹が青い顔で呟いた。



あれは絶対に夢だと思いこんでいたのに、それが壊されていく。



美樹はそんな雑棒的な気分になっていた。



「だけど春香は生きてた」



佳奈はそう言うと目の前に座る春香の手を握りしめた。



その手はしっかりとぬくもりを感じるし、手首からは鼓動を感じることもできる。



それだけでジワリと目尻に涙が浮かんできてしまった。



「やだ、泣かないでよ佳奈」



春香が慌てて白いハンカチを取り出した。



佳奈はそれを受け取って目尻の涙をぬぐう。



「だって、昨日は本当に死んじゃったと思ったよ」



美樹も佳奈に感化されて涙を浮かべた。



だけど、このメンバーの中で一番きつかったのはやっぱり彼氏の大輔だろう。



あの得体のしれない世界の中、たった1人で春香を探し出したのだ。



それはやっぱり愛がないとできないことだと思う。



「それで、昨日の夜何があったのか話してくれるか?」



話題を戻したのは明宏だった。



昨日自分たちに起こった出来事は、あらかた春香に説明を終えていた。



今度は春香の方から話を聞く番だ。



春香は佳奈の手を解いて真剣な表情にになった。



顔色はまだ悪いけれど、話せない状態ではないみたいだ。



「昨日の夜は少し早い時間に寝たの。確か、10時過ぎくらいだったかな? 昼間のアルバイトが忙しくて疲れてたから」



春香は記憶をたどりながら説明を続ける。



「で、夢を見ていたの。夢の中で私は自分の部屋にいて、ベッドに横になってた。そこに黒い影みたいな人物が5人現れたの」



春香はそう言ったとき強く身震いをした。



思い出すだけで恐ろしい対象なのだと、すぐにわかった。



隣に座っている大輔がそっと春香の手を握りしめる。


「その5人には首がなかった」



自分が夢で見た5人もそれと同じだった。



真っ黒で、首がない。



そう思ったが佳奈は口を挟まなかった。



みんな黙って、真剣に春香の言葉に耳をかしている。



「5人は私に近づいてきたの。なんだかすごく嫌な予感がしてすごく怖いんだけど、逃げることができなかった。金縛りにあったみたいに布団から起き上がることもできなかった」



春香は途中で呼吸を整えた。



夢の内容を思い出すだけで額に汗が滲んできている。



相当な悪夢だったに違いない。



「5人はとうとう私のベッドのすぐ横に立ったの。そして私のことを見下ろした。私は叫ぼうと思ったんだけど、声も出なかった。夢の中の私にできたことは必死に眼球だけ動かして、周りの様子を伺うことだけだった。



窓から月明かりが入り込んでいて、部屋の様子はうっすらと見えていたの。だから、すぐに自分の部屋だってわかったんだけどね。寝る前に読んでしまおうと思っていた文庫本がテーブルに出しっぱなしにもなってた。ほとんど現実と同じ状況だったの。だから5人の首のない人物の存在だけがファンタジーみたいだった」



一気に言ってしまってから大きく息を吐き出して水を一口飲む。



春香の説明はとても細かくて、夢に見た内容にしては鮮明過ぎた。



だからこれはやはり夢じゃなかったのだと、聞きながら佳奈たちは確信して行った。



「それから、5人のうち1人が私の上に刃物を振り上げたの。それはとても大きな鎌だった」



そこで春香は強く身震いをして自分の首に触れた。



「その鎌で切られたのか?」



慎也が聞くと春香は涙目になって頷いた。



当時の記憶がありありと思い出されて体の震えが止まらない。



大輔が春香の手をさすって落ち着かせようとしている。



「すごく痛かった。鎌が振り下ろされる瞬間も、すごく怖かった」



「それで俺たち、ここに来る前に警察に行ったんだ」



話題を変えたのは大輔だった。



もう春香に無理をさせたくないようだ。



「どうだった?」



佳奈は思わず身を乗り出して質問した。



昨日警察署には誰もいなかったけれど、朝になってからなら誰かが対応してくれたはずだ。



「だめだった。なにを言っても信じてくれない」

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