第6話
後ろに人の気配がして振り向いた。
こんな時間だし、警察関係者か、それに類似する人だと思っていた。
でも、違った。
そこに立っていたのは5体の人の形をしたナニカだったのだ。
そのナニカは異様に背が高く、細く、そして両手で刃物のような形状をしていたのだ。
5人の顔からスッと表情が消えていく。
5体のナニカは真っ黒で、月明かりでもその姿を浮かびだすことができなかった。
それは夢に出てきた黒い影とよく似ている。
「逃げろ!!」
叫んだのは大輔だった。
ナニカがなにであるかはわからない。
だけど少なくても自分たちの味方ではないと感じ取った。
大輔の声を合図に5人は同時に警察署から逃げ出した。
なんだあれは?
人じゃなかった。
人の形はしていたけれど、それだけだった。
口も鼻も目も見えなかった。
ただ、手の先が刃物になっていたのだけはわかった。
佳奈は全力で走りながらさっきみたナニカを脳裏に思い浮かべた。
やがて、黒い化け物という言葉が浮かんできた。
まさにカニカは黒い化け物だった。
17年間生きてきて1度も見たことのない黒い化け物。
子供の頃想像して怖がっていたナニカが、今自分たちの近くにいるのだ。
警察署から随分離れた公園で、ようやく5人は足を止めた。
全身から汗が汗が吹き出し、肩で呼吸を繰り返す。
佳奈はカラカラに乾いた喉を潤すために水道の蛇口をひねった。
冷たい水で喉を潤すとようやく落ち着きを取り戻してきた。
「さっきのアレはなんだ!?」
大輔が叫ぶ。
「わからない。あんなの、見たことがない」
明宏が青ざめて左右に首を振る。
誰も黒い化け物を見たことがなかった。
図鑑や本の中ですら聞いたことも、見たこともない存在だ。
「夢の中の5人と似てた。でも、少し違う」
美樹がつぶやくように言う。
確かに、真っ黒という点では似ていた。
「あいつらは俺たちを攻撃してくるのか?」
また大輔だ。
4人は同時に首を振った。
そんなのわからなかった。
だけど手は確かに刃物になっていて、危険な雰囲気を感じた。
「こうなったら、夢の方が現実だったと考えた方がいいかもな」
慎也が難解なことを言う。
「つまり、今から春香の首を探すってこと?」
佳奈の質問に慎也は真面目な顔で頷いた。
誰もいない街。
黒い化け物が出現する街。
それはもう、自分たちの知っている街とはかけ離れたものだった。
「でも、どこを探すの?」
美樹が誰にともなく尋ねる。
この街のどこかに春香の首があるのか、それとも日本のどこかにあるのか、それすらもわからない状況だ。
どこを探していいかなんて検討もつかない。
「全員で行動していたら、朝には間に合わない」
そう言ったのは明宏だった。
まだ青い顔をしているけれど、随分と落ち着いてきたようだ。
「じゃあ、3組に別れて探そう。佳奈と慎也。美樹と明宏。俺は1人で探す」
「1人は危険だ」
慎也がすぐに口を挟んだ。
しかし大輔はすでに決めたようで、1人で公園を出ていってしまった。
「どうするの?」
佳奈は慎也に聞いた。
慎也は大輔の背中を見つめて「行くしかないだろ」と、答えたのだった。
佳奈は慎也に右手を握られて深夜の街を歩いていた。
コンビニやファミレスの電気はついているけれど、中に人の気配はない。
「本当に誰もいないね」
「あぁ」
慎也は絶対に佳奈の手を離さないと決めていた。
この状況ではなにが起こってもおかしくは無いと思えたし、警察署で見た黒い化け物のこともある。
いつも以上に警戒してゆっくりと街を歩く。
「ちょっと、そのへんの家に入ってみるか」
「え?」
突然足を止めたかと思うと、躊躇なく見知らぬ人の民家へ歩いて行く慎也。
佳奈は手を引かれるがままにそれについて行った。
玄関に立った慎也は念のためにチャイムを鳴らした。
しかし中から誰かが出てくる気配はない。
2度、3度と続けて鳴らす。
普通これだけ鳴らせば目が覚めそうなものだけれど、やはり誰も出てこない。
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