第5話 テーラー江藤
人気タレント、テーラー江藤が司会を務めるお昼のワイドショー【なんでもかんでもアフタヌーン】に出演が決まった。渡辺が動画サイトにアップしていたワープ実験が評判を呼び、テーラー江藤の目に留まったのだ。
渡辺はあらゆる手を使ってメディアにアクセスしていた。資金がない者は、メディアに取り上げてもらって只で宣伝をしてもらうしかない。
実際、渡辺は
それだけではない。この男、研究費を流用しているのだ。これがバレたらこの業界に住むことはできない。建築学界の世界的権威であり、政財界にも恐ろしいほど顔が効く学長の
この際、運送会社の巨額の投資なんかどうでもいい、買ってくれる人がいるなら誰でもいいと思うようになっていた。どこかの
なりふり構わず、動画サイトのアイ・チューブにワープ実験の映像をアップしたという次第だ。「種が分かった人には1000万円出す」という懸賞金を付けたのが評判に拍車をかけた。その上、サイト内に侵入して、再生回数を100万回に改ざんした。
反響は凄まじかった。再生回数の改ざんはもうする必要はなかった。あっという間に2000万回を超えたのだ。
1000万なんて金があるわけが無い。だが、種がばれる心配もない。これは、マジックでもトリックでもない。サイエンスなのだ。「
動画は、映像に
だが、ジュリーは鋭い指摘をしてきた。
「ほんと、馬鹿ね。種が分かったらなんて。これじゃ、最初から種のあるマジックだと言ってるようなもんじゃない。私たちマジシャンじゃないんだからね。ワープシステムを売りたいんでしょ」
「………」
返す言葉がない。ジュリー女史の仰る《おっしゃる》とおりの事、
ワイドショーは始まった。もちろん生放送だ。
渡辺とジュリーの二人は白衣を着た
「さあ、ネタが分かった方には1000万ですよ。注意して、よーく見てくださいよ」
テーラー江藤があおる。
デモンストレーションは滞りなく終わった。テーラー江藤の帽子は確実に3メートルの瞬間移動をした。
会場からため息が漏れる。
「誰か、瞬間移動してもらいたい物があったら言って下さいよ」
テーラー江藤は、会場から瞬間異動する物のリクエストを始めた。
「その女性のストッキングお願いしまーす」
会場から
「ジュリーさん、という事ですけどよろしいですか」
テーラー江藤の言葉に、
「よろしいですわよ」
と答えると、ジュリーは椅子に片足を載せて黒いストッキングを脱ぎ始めた。すらりと伸びた白く長い足が現れる。会場の男たちは生唾を飲みこむ。
黒いストッキングは、何の支障もなく瞬間移動をした。テーラー江藤がストッキングを取り出して皆に見せる。ついでに匂いを嗅ぐふりをして。
「匂いも同時に移ってますよ」
と言うと、会場はどっと沸いた。
「覚えとけ、テーラー、必ずぶっ殺してやる」
ジュリーは、テーラー江藤を
「どんどん種明かしお願いしますよ、よーく観察して見破ってください。1000万ですよ。プロ、アマ問わないということですよ」
テーラー江藤のボルテージが上がる。
「ほら、マジックとしか見てないじゃない」
ジュリーが、ボソッと呟いた。
とにかく受けた。いつもは視聴率13~16%のところ、25%にまで跳ね上がったのだ。となると、この業界の常識、シリーズ化して飽きられるまでは・・・ というパターンである。
賞金目的の種明かし挑戦者が嵐のように応募して来た。その中で、これはと思われるものをスタッフが厳選して挑戦をさせた。
二人は、ことごとく退けた。
自信満々でやって来た有名なプロマジシャンも、顔を青・赤に染め、髪を逆立て、肩を落として退場してゆく。
そろそろ馬鹿らしくなってきたジュリーが叫んだ。
「種なんか無えんだよ。サイエンスなんだよ!」
マジックでもトリックでもないサイエンスだと主張する二人に世間は注目した。大学教授とその助手というのも、最初は新人のお笑い芸人のキャッチフレーズかと思われていたのが、この頃になると本物の大学教授とその助手だということが知れ渡り、人気に拍車がかかった。
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