徒然華

ミス金城

プロローグ 「愚痴」

誰かに騙されている。

もしくは「騙されていた」と言った被害妄想じみた感覚に私は度々苛まれることがあった。この場合特別「加害者」と言うか「騙し手」はいない。強いて言うならそれは私自身、正確には「今までの私」である。この身勝手な感覚に近似していそうな表現があるとして、恐らくはコペルニクス的転回、だとか個人の確立、だとか過去名だたる哲学者がそれらしい呼び名を与えてくれていそうだけれど、そんな大層なイベントが私の中で展開されていると感じた事は無かったし、感じていたとしても私が患う性格上そんなモノは無視している。

面識のない他人、ましてや遠い昔の外国人に「それは君に変革が起きているんだ!」なんて知ったような指摘を頂いたところで到底納得出来る訳無かった。

意図しない変化を言及されるときほど腹が立つもので、その点で学校機関配られた教科書の文言はどれも無神経であること極まって仕方なく、微塵も読み解くことが出来なかった。

人に優しくない文章ばかりで本当に好きになれない。


まあ、そんな感じで無駄に気高い私は理解力に貧しいながらも生まれ持った小さな頭の中、更に事欠いて飛び切り狭くしておいた世界を背伸びして俯瞰する事が生きがいになっていた。

なんとも自慰的であるがここで開き直れる人間が最後に勝つと信じている。


そんな世界の主な登場人物は私の両親と数えるほどの親しい友人。

これは実に心地よく、凪めいた静かな世界。

決まり切った、予想の外れない台詞を発音するだけの舞台装置とお互い化す事で人間味を欠くが無刺激で安らぎ深い世界が機能する。

ワクワクを生贄に捧げる事で得られる理想郷である。

期待おそれがまるでない。


この世界で良いのだ。

これで完成しているのだ。


なのに、私が神であるこの「完璧な世界」は、日々更新され続ける情報や人間関係にことごとく踏みつぶされてばかりである。

これは誠に遺憾であるが、元々大した広さも無いのでやり直しも効きやすい、非常にコスパの良い世界でもある。つまり持続性と言う世の中の訴えも意図せず拾っていたのだ。たぶん神の御業である。


私の根底にあるのは

「進みたい人は進めばいい。」

「待ちたい人は待てばいい。」

「寝たい人は寝たらいい。」

と言う、三条しかないが七色の多様性三原則。

私はこの三つに好んで属すつもりはないが、これなら批判は少ないはずだと踏んでいて、別に意見があるなら好き勝手書き換えて構わない。

なんなら後四つくらい足してくれても怒らない。

なんせこれは名も無き女子高生の下らぬ思い付きでしかない為、世で決まって問われる権威がまるでないし、それはつまり誰が言っても何を言っても無価値であることの「アンチなんたら」なのだ。


おや。実に頭良いっぽいじゃないですか。


こういった事を言うと「現代の豊かさに胡坐(あぐら)をかいた無礼者」だと息巻いて叱責を喰らわせようとする者が現れるが、私はそんな者にこう言いたい。


「概ねその通りです」と。

もちろん両膝と両ひじを地につけた一謝を添えて。

女子高生の土下座だ。

さぞ花々しいことでしょう。


でも本音を晒せば「豊か」になったのはそんな怠惰を実現する為のはずだ。

その豊かさの上に胡坐をかける人を一人でも多くしようと我々の先祖様は夢見ていたはずだ。だと言うのにいざとなって現実になると、「誰のお陰で」なんて口切りにみっともない台詞は吐いては「感謝を前提と心得ろ」と説教を垂れるのだ。

それが恩恵を受ける者の在り方だそうだ。

そういう足並みだそうだ。

そんな、足並みを揃えるのが社会であると言う古くからのしきたりは誰も覆してくれないままだ。

結局、何にしたって押し付けるのが気持ちいいみたいでイヤになる。

これでは本当に現状維持を望んでいるのはどっちだか分からない。



あれ。


だいぶ話が逸れてしまったみたいだ。

私の散漫な知性に疑問が発生する前に事の始めに立ち返ろう。


とにもかくにも何が言いたいかと言えばこの世の誰も、

私に大切な事の説明をしに来てくれないのだ。


なにより、解るようには。

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