第27話

 11月も中旬を迎え冬の気配が一層近付いてきた。結局、藤井文具店でのバイトはあまりにも神経がすり減るのでやめてしまった。そして、授業も部活も何もかもやる気が失せ、自暴自棄になりつつある。

 人を好きになっただけなのに、自分の大学生活も滅茶滅茶になった。


 本当は今日も部活はあるのだが、どうしても足が向かず、授業だけはなんとか受けて一人早々と家に帰った。あんなに仲良かった沙羅とも疎遠というか気まずい感じになってしまった。


 駅から、少しふらつきながら自転車をこぐ。うつむくのが癖になったのか視界が狭くなっていた。

 と思った刹那、斜め正面からすさまじい衝撃が走ったかと思うと気がついたときには道路に叩付けられていた。意識が遠のく中、救急車に乗せられたらしいというのは分かった。次に目が覚めたときには病院のベッドだった。どのくらい寝ていたのかは自分ではさっぱり分からないのだが、母親がベッドの側で泣いているのが分かった。


 「里莉ちゃん、気がついた。よかった。本当によかった。」

 これまでの話を聞くところによると、どうも私は自転車で、フラフラと車道に出てしまい、車にはねられたらしい。そして、一時は意識不明で危険な状況だったということも分かった。今は意識もはっきりしているし、骨折したところがある程度良くなれば退院までもそれほど長くはないようだ。


 ただ、自分のせいで、ひょっとしたら車の運転手の人に辛い目に遭わせたのではないかという自責の念がある。ただでさえ、藤井さんとの仲が、あんなちぐはぐな形で終わってしまい、辛いところに追い打ちをかけるように、暗い影が自分の心に覆い被さっている。

 ふと、

「あのまま死んでいた方が幸せだったんじゃないか。」

と思ってしまう。


 大学の友達も、高校の頃の友達も結局、誰も見舞いに来てくれなかった。自分から距離を取るような言動をしてしまっていたので無理のないことだが、ただ沙羅からはメールが届いた。

 「里莉、早く元気になってね。また、あの時みたいに飲もうね。」

 「ありがと。」とだけ返信した。

 本当は嬉しい気持ちになるはずなのに何だかそんな気になれない。心が動かないというか。表現が難しいのだが「感動」とか「感謝」とかという感情が心の中の何処を探しても見つからない。そのかわり、ふとしたことで涙が出やすくなった。


 結局、冬休みが終わって暫くしてからようやく退院できた。しかし、大学の方は授業の出席日数が足りなくなり休学することにした。家で毎日ぼんやりとした日々を送る。外に出る気力も失せて、部屋の中でベッドに寝そべりスマホいじりをするのが日課になった。


 藤井さんのことは、時々思い出しては、布団の中に潜り込んで泣いている。一番の思い出は、バイトが終わった後車で駅まで送ってもらったことだ。

 ほんの一瞬だったけれど二人きりでドライブができたんだ。

 「あれが最初で最後になってしまったなぁ。」

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