第22話

 天界の主神に関する記憶は、謝罪に始まる。

「ごめんなさい。あなたたちを、私の計画に巻き込んでしまうこと」

 冷たく平たい床。牢獄は常夜。両の手足は鎖に繋がれて壁に固定されていた。

 『アレス』は頭をもたげ、牢獄に入ってきたそれを、睨むように見た。身じろぎをするたびに鳴る鎖の音は、星屑のようだった。

(小さい)

 そんなどうしようもない感想を、なぜかよく覚えている。だってそれはただの、背の低いひとりの女性でしかなかった。

「今の地上では倒せない魔物を、天界に閉じ込めます。あなたのことは、その魔物を倒す天使として」

 女性は背筋をただ伸ばし、そう言った。何度も繰り返したのであろう淡々とした事務的な説明は、それが相談ではなく決定事項なのだと告げていた。

「魔法の開発と魔物の討伐。それは、何十年……いいえ。何千年の戦いになるかもしれません」

 ふとその時、初めて彼女は表情を歪ませる。こちらをあざ笑っているのかと思ったが、より的確な言葉を探すなら、あれは自嘲ではなかったか。

「……私のことを恨みますか?」


 アレスが覚えている天界の主神のことはそれだけだ。

 最後の言葉に果たしてどう答えたのだったか——アレスは未だ、思い出すことができない。

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