第9話 里帰り、そして修行へ
天界へ移動中の時、ジャンヌはふと、疑問を覚えた。
イシュタムが口にしていた、宝玉という代物。彼はその在処はどこかとジャンヌやヴァーチに問いただしていた。
セラフなら何か知っているかもしれないと思い、彼に声を掛ける。
「セラフ様。一つお聞きしてもよろしいですか?」
「何でもどうぞ。」
「以前、イシュタムと戦った時、彼は宝玉というのを探しているようでした。でも、私もヴァーチさんもその宝玉といわれる物を聞いたことがありません。
一体何なんですか?」
セラフは少しだけ黙ったが、
「…わかりました。貴女にもそろそろ伝えておいた方が良いでしょう。
“宝玉”は、天界に一つしかない伝説の道具です。それらはありとあらゆるものを修復する力を持っています。」
「修復?」
「例えば、地球が完全に破壊されたとして、奇跡的に生き残った一人の人間がいたとします。その人間が宝玉を持っていれば、それに願いを込めるのです。地球を元通りにしてほしい、と。その瞬間、宝玉から光が溢れ、消滅します。その代わり、地球は元に戻ります。」
「…すごいですね…!」
「はい。宝玉はどんな物でも修復できるという強力な代物であり、尚且つそれが一つしかないということで、悪魔や神、または魂や天使に悪用されない為に、隠されています。それも、絶対に見つからない場所に。」
「セラフ様は、知っているんですか?」
「いえ。場所は聞かされたことはありません。知っているのは、選ばれた
それからしばらくして、二人は天界に到着した。
「ここへ来るのは、久しぶりですね。」
「そうですね。あの…」
「…どうかしましたか?」
ジャンヌの目線の先には、エデンがあった。
「少し、みんなの顔を見に行ってもいいですか?久しぶりにここへ戻ってきたので。」
それを聞いたセラフは微笑む。
「了解しました。では、終わり次第、宮殿にお越しください。急げとは言いませんので。」
「ありがとうございます!」
ジャンヌは一礼し、そのままエデンへ向かった。
「おぉ!おかえり!ジャンヌ!!」
「お帰りなさい。無事で何よりです。」
「我らがオルレアンの少女が帰ってきたぞぉ!!」
エデンの街の皆がジャンヌの帰還を祝福した。ジャンヌは照れくさそうに手を振返した。すると、聞き覚えのある声が聞こえてきた。
『おねえちゃーん!!』
「あ!」
ジャンヌと仲が良い子供たちがこっちに走って向かってくる。彼女は子供たちを優しく包み込むように抱きしめた。
「ポール!ダミアン!カミーユ!みんな久しぶりだね!」
「お姉ちゃんも!良かった。無事だったんだね!ダミアンずっと心配してたんだよ!」
「ちょ、言わないでよ!」
微笑ましい光景にジャンヌはクスッと笑い、「ありがとう」とお礼をした。
「カミーユも元気だった?」
「う、うん!その、お守りまだ持ってくれてる?」
「私が下界に降りるときにくれたお守りね?もちろん!」
カミーユは嬉しそうに笑顔を見せる。
「ねぇ!今時間空いてるの!?久しぶりに遊ぼうよ!」
「そうね、でもこの後も行きたいところがあるから、早めに帰るけど大丈夫?」
『全然大丈夫ー!!』
数十分後、子供達と別れたジャンヌはある場所に向かっていた。フランスのエデンは奥に行けば、黄色の葉が生えた木に囲まれた森に着く。ジャンヌにとって、そこは懐かしい場所だった。
そして、目的の場所についた。目の前にあるのはレンガ造りの外壁で、三角屋根の家。
ジャンヌはその家のドアを開けると、懐かしい感じがして、自然に笑顔を浮かべた。
「ただいま。」
「–あら!お帰りなさい。」
ここは、ジャンヌの両親が住む家だった。母であるイザベラが二階に向かって言う。
「貴方!ジャンヌが帰ってきたわよ!ほら、座って座って!お茶を淹れるから。」
二階から慌てて降りてきた父ジャックと妹のカトリーヌと少し談笑してから、四人は椅子に腰掛け、お茶を飲んでいた。
他愛の無い会話が続き、ジャンヌは家族の団欒を楽しんでいた。
「兄さんたち、今ごろ下界に生まれてる頃かな?」
「あぁ。多分そのぐらいだろう。生まれ変わりを決めたのが5年前ぐらいだったからな。」
ここで説明するが、天界には生まれ変わりという制度がある。制度と言っているが、強制ではない。新しい命として、下界に生まれ変わることだ。生まれ変わるには、ある神がいる神殿に行くことになる。
新しい命になると、天界での記憶は下界で死ぬまで消えることになるのだ。
ジャンヌには三人の兄がいたが、新しい道を歩んでみたいと言い、生まれ変わった。
両親は、反対しなかった。「子の思いを応援するのが親の仕事だ。」と父はその時言っていた。あまりにもあっさりだったので、兄たちは戸惑っていた。
ちなみに制度とは書いてあるが、強制では無い。生まれ変わりたいかどうかは、人それぞれである。
「姉さんも実質生まれ変わりみたいな感じじゃない?天界と下界、行き来できるんでしょ?」
「そうね。メルカバーになったおかげだけど。」
すると、突然ジャックが口を開く。
「ジャンヌ。そのメルカバーについて、少し真面目な話がしたいんだが。」
「うん?」
「お前–––後悔はしていないか?」
「え?」
「父さんも母さんも最初、ジャンヌが悪魔と戦う戦士になると聞いた時、驚いたよ。反対もした。でも最終的に、お前が「絶対に無事で帰ってくる」と強く言って、それを信じて俺たちはお前を送り出した。」
そうだ。ジャンヌは突発的にメルカバーになった為、両親には天使に会ったことも最初は言っていなかった。だけど、自分の気持ちを、家族は信じてくれていた。
「生前、フランスでお前は騎士として人間と戦った。でも最終的に、あのクソッタレの聖職者に魔女扱いされて燃やし殺された。そして今は、また騎士になって、今度は悪魔と戦っている。死にかけたこともあっただろう?」
ジャックはジャンヌの目を見て言った。
「後悔はしてないか?メルカバーになったことを。」
少しだけの沈黙の後、ジャンヌが口を開く。彼女の答えは決まっていた。
「ルーアンで、現代のフランス人の親子と仲良くなったの。三日前かな。その人たちとパリに出かけてた時、私の銅像が建てられていた。」
そう。パリのルーヴル美術館付近には、ジャンヌ・ダルクの像がある。
「私は下界ではいつの間にか、偉人って言われる存在になった。結構恥ずかしかったけど、同時に、嬉しかった。たくさんの人たちに私のことも、軍の人たちの勇気も、真実も伝えられるようになって。別に私は、チヤホヤされるために戦ってる訳じゃない。
本当に、みんなを助けたいから戦ってるの。英雄として、オルレアンの少女として。銅像まで建てられてしまったら、その分、お礼として、悪魔から人間を守るの。私は、後悔していない。だって、家族や、天使様、現代のフランス人たち。私のことを信頼してくれる人がいるなら、私は大丈夫。一度きりだと思ってた人生が、こうして人を救えるなら、それでいい。
––––私は恐れない。私は––」
ジャンヌは掌を強く握り、自分の胸を叩き、自信を持って言った。
「人を救うために、生まれてきたのだから。」
ジャックは、少し驚愕していた。正直、ジャンヌにはまだ恐れという感情があったと思い、心配していた。しかし、彼女の真っ直ぐな目を見て、確信した。
この子は強い、と。
その時だった。
{パチンッ}
イザベラがジャックの頭を引っ叩いたのだ。
「いって!!?」
「貴方!!急に何を話しだすのよ!」
「悪かったよ!ちょっと気になってただけだ。」
「勘弁してよ…。私たちまで緊張しちゃったじゃない!」
両親の横でその光景を見て爆笑するカトリーヌ。それを見ていると、ジャンヌも不意に笑ってしまった。すると、イザベラがジャンヌを見て、
「ジャンヌ。貴方が正しいと選んだ道なら、私たちは否定はしないわ。でも、無茶はしちゃダメよ。何かあったらいつでもここへ戻ってきなさい。今度はキッシュを焼いてあげるわ。」
「そうだよ姉さん!私、姉さんが悪魔にやられちゃったらすごく悲しいよ!本当に、無理しないでね!」
二人の言葉を聞いて、ジャンヌはありがとうと返した。
一時間後、支度を終えたジャンヌは家のドアを開け、宮殿に向かおうとしていた。
「行ってらっしゃい。ジャンヌ。」
後ろにはイザベラ、ジャック、カトリーヌが手を振っていた。ジャンヌも手を振りかえし、
「また帰ってくるからね!」
と言って、そのまま家を出た。
「あの子は、本当に強い子ね。」
「あぁ。本当に、立派になったもんだ。」
(無理しないでね、か。)
ジャンヌはさっきの言葉を思い出しながら、宮殿へ向かっていた。あと数分で着こうとした時、ふと上を見上げた。
三人ほどの
その時だった。
「おーい!!ジャンヌー!!」
前を見ると、宮殿のドアの前にケルヴィとヴァーチが立っていた。ケルヴィは手を振ってジャンヌを呼んでいた。
「ケルヴィさん!ヴァーチさん!」
やがて二人の元へ辿り着くと、ジャンヌは敬礼した。
「申し訳ありません!遅くなりました。」
「あぁ、それは問題ないんだが、その、特訓をすると言っていたんだが…」
二人は何故か困惑したような様子だった。
「どうかしたんですか?」
ケルヴィの代わりにヴァーチが説明した。
「本来、君の特訓の担当はセラフ様とケルヴィ様だった。でもね、あの方が急遽、ジャンヌの特訓の担当になると申し出たんだ。」
「あの方?」
すると突然、宮殿中に鐘が鳴り響く。鐘を鳴らした天使が何かを伝えるように叫んでいる。
「あの方が帰還する!!任務中以外の全騎士天使たちはヤハウェ像の間に集まってください!!」
「まずいな…。ジャンヌ。悪いが説明してる暇は無い。俺たちについてきてくれ!。」
「これは…!?」
ヤハウェ像の間に着いた時、ジャンヌは驚愕した。
そこには、この宮殿中全員の騎士天使たちが整列していた。整列している天使の1番前には、セラフとガルガーリンが立っていた。
「ヴァーチ、お前は持ち場に戻るんだ。ジャンヌはセラフの後ろに並んでくれ。」
二人は言われた通りの配置に着いた。ジャンヌは状況を把握できていないため、セラフに聞いた。
「えぇ。これから起こるのはとある行事です。私も急に行うと聞いたので、少々驚きました。ジャンヌ・ダルク。貴女はこの
「リーダー…?そういえば確かに、一度も会ったことはないです。え?ガブリエル様じゃないんですか?」
「いえ、現在あの方は半分居候のような形でこの宮殿にいます。まぁ確かに、騎士天使の特訓の担当をしたり、偉大なる四大天使でありますので。
でも、良いところに目をつけましたね。ジャンヌ・ダルク。半分正解ですよ。」
「四大天使…?」
その時、騎士天使がざわつき始めた。
「来たぞ!!」
上空を見ると、黄色い線のような物体が飛行機雲を引きながらこちらに近づいてくる。それはやがて、ヤハウェ像の間に向かうように、超高速でこちらに落ちてくる。
物体は勢い良く落下し、ヤハウェ像の間の床に衝突した。
巻き上がる煙、そこから溢れる光の粒子。煙から、こちらに向かってくる人影が見えた。
「あの方が、騎士天使軍フランス支部リーダー。そして、四大天使の一人。
“
煙を遮って出てきたのは、顔や方、腕に紋章が描かれた砂色の肌で、茶色いシャツとブカブカなズボンを身につけた屈強な男の天使だった。
彼がおそらく、ミカエルという大天使なのだろう。
ジャンヌも四大天使のミカエルを初めて見た為、緊張で少し寒気が走る。
(あの天使が…!)
一歩ずつ、ミカエルがセラフのところへ歩み寄ってくる。セラフは相変わらず無表情だが、横にいるガルガーリンはガクガクと震え、汗が滝のように流れていた。
ケルヴィも汗をかいていたが、唾を飲み込み、集中を保つ。
「奈落の調査から帰還した。ド・ミニオは欠席か?」
「彼女はただいま任務中で、フランス、ルーアンへパトロール中です。」
「そうか。それよりも、俺がいない間、色々と事件が起こったようだな。すまなかった。お前たちにここを任せっきりだったな。」
すると、ミカエルは突然後ろへ振り返り、
「では、早速あれを始めるとしよう。」
ヤハウェ像の前まで歩み寄ると、後ろに手を組み、息を大きく吸い込んだ。そして、
「問おう!!!我々の目的は何だ!!?」
『人間の魂と下界を守ることです!!!』
「神を守る為に強くなれ!!!人間の為に強くなれ!!!この天国を守るために為に強くなれ!!!勇気の無い天使はいないか!!?答えろ!!!」
『我々は全てを守る勇気を持っています!!!!』
「よろしい!!!貴様らの勇気確かに受け取った!!!我々はどこまでも強くなるのだ!!!その証明を見せてみろ!!!咆哮を始めろぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!」
『おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!』
(なにこれ…。)
思わずツッコもうとしたが、凄まじい迫力にジャンヌは黙り込む。セラフ、ケルヴィ、ガルガーリン以外の騎士天使たちが鬼のような形相で咆哮している。
耳をつんざくような轟音が数十秒も続いた。
「貴様らの勇気は伝わった!!咆哮を止めろ!!!」
咆哮を止めたほぼほぼの騎士天使たちはゼェゼェと息を切らしながら過呼吸状態に陥っていた。
「すまないな。お前たち。久しぶりに会ったもので感情が昂ってしまった。このフランス支部の伝統、勇気の証明だ。如何かな?オルレアンの少女よ。」
ミカエルの視線がジャンヌの方へ向いた。
「あっ…はい!!何というか!すごかったです!!」
「なるほど。それは良かった。貴様の話はきいれいる。神の声を聞き、フランスを救った英雄がもう一度フランスを救うために、わざわざメルカバーになるとはな。貴様のその勇気は賞賛に値する。しかし!!わかる!!俺にはわかるぞ!!貴様はまだまだ
ミカエルがビシッとジャンヌに指を指す。
「だが安心しろ!!この俺が直々にお前の特訓の面倒を見てやる!!共に強くなっていこうじゃないか!!」
「相変わらず声がデケェな…」
ケルヴィがボソッと呟く。
「ケルヴィ!!聞こえているぞ!!またアンダーワールドの入り口付近まで放り込んでやろうか!!?」
「勘弁してくださいよ!?アンタのその行動は天使というか鬼の所業っすよ!!?」
すると、ジャンヌは肩に違和感を感じて不意に後ろを見る。どこから現れたか知らないが、ガブリエルがジャンヌの肩に優しく手を置いていた。
「ガブリエル様!?」
ガブリエルはヒラヒラとジャンヌに手を振った。
「ハーイジャンヌ♪元気してた?久しぶりねミカエル。貴方あんまりジャンヌとケルヴィをいじめないでちょうだい。」
「ふん。貴様はさっさと服を着たらどうだ?」
「あら失礼ね。前も言ったでしょ?これが天使の本来の姿なのよ。でも、裸ってわけじゃ無いけどね。」
今さらっとすごい事を言った気がしたが、ジャンヌはスルーすることに決めた。
「あの、ミカエル様!私の特訓を見てくれるというのはすごくありがたいんですが、セラフさんに聞いたのが1つしかなくて、具体的にはどんな
「いい質問だな。それは…」
その時、ヤハウェ像の間にいる全員に悟り(電話の機能を持つ光技)が送り出された。
{ザザッ}
「こちら、フランスのボルドーに現れた大型の悪魔の討伐を任された騎士天使です!現在、私以外の二人の騎士天使がその悪魔に負傷を負わされ戦闘不能!申し訳ありませんが、応援を要請したいです!!」
「…僕が向かいます。」
ヴァーチを含めた数名がその応援に向かおうとした時、
「いや、俺が行こう。」
『え?』
ミカエルの突然の発言に、ヴァーチたちが間の抜けた顔をする。
「ちょうど良い。俺がジャンヌ・ダルクに教えようとした光技の一つを見せてやろう。着いてこい。ジャンヌ・ダルク。」
「は、はい!」
そのまま、ジャンヌはミカエルに着いて行った。
「あ、皆さんはもう持ち場に戻って構いませんよ。」
とセラフが言うと、騎士天使たちは帰っていった。
現在、二人の目の前には悪魔がいる証拠である黒い
「入り口を開けます。」
「あぁ。すまんな。」
ジャンヌはシュプリームを引き抜き、靄を切り裂き、穴を開けた。
二人はその空間の中に入る。中はドロドロとした床と紫色の壁で出来ていた。空間の中央には、騎士天使が悪魔と戦っている様子だった。
端には負傷したであろう騎士天使が二人いた。
カタツムリの目を持った人型の大きな悪魔だった。悪魔はひたすら騎士天使に向けて攻撃を繰り出し、もう一方の槍を持った騎士天使はそれを防いでいた。
「ギチュッ。」
鳴き声を繰り出しながら、悪魔は勢いよく打撃を繰り出す。
「グァッ!!?」
騎士天使は衝撃でぶっ飛ばされる。
床に激突。騎士天使は槍を落とし、そのまま地面に倒れ込んだ。
「チクショウ…!!」
「ぢゅぢゅ?ヂュヂュヂュ!」
悪魔が少しづつこちらに来る。拳を振り上げ、もう終わりかとこれまでかと思ったその時、
{パンッッ}
「ヂュバァァッッ!!!??」
一瞬だった。ジャンヌの横に居たはずのミカエルが悪魔の腹に拳を叩き込んでいた。
悪魔はそのままぶっ飛び、壁に勢いよく激突した。
「ミカエル様!!?どうしてここに!?」
「説明は後だ。貴様は仲間を連れて逃げろ。お前たちは明日特訓だ。」
「ヒィ…!りょ、了解しました。」
騎士天使はそのまま倒れた仲間を連れ、空間から脱出した。
「ではジャンヌ・ダルク。ここからは少し勉強の時間だ。」
「え?でも悪魔が…」
「悪魔なら心配するな。
「はい。セラフさんに教えてもらいました。」
「改めて説明するが、光技とは光を操る天使たちの術だ。ジャンヌ・ダルク。お前は光技をどのように使用している?」
今思い返すと、ジャンヌは光技を扱う際、球状にしてそれを飛ばし、遠距離攻撃に使用していた。彼女はそのことを全てミカエルに説明した。
悪魔が立ち上がる。奇声を発しながらミカエルに襲いかかる。
無駄だった。ミカエルの強烈な拳が悪魔の頭部に直撃する。
「––なるほど。球状の光を作り、遠距離攻撃を仕掛ける。だが、その扱い方は
基本すぎる。」
「基本すぎる…?」
「単刀直入に言おう。お前はまだまだ光技の真髄を理解していない。お前は今まで光を他の形に変えなかったのか?」
その言葉を聞き、ジャンヌはあることを思い出した。自分は確かに、光を球状にして使用する以外の使い方を知らない。
一瞬だけ、以前にマクスウェルと戦った時に、シュプリームから三日月状の光が現れたが、あれは光技というより、シュプリームの力だとジャンヌは思った。
「確かに、球状以外の光を作ったことがありません。」
「光技に必要な物。それはイメージだ。」
「イメージ、ですか?」
「そうだ。では聞こう。セラフは光技を使う際、光をどんな形に変えているのか覚えているか?」
ジャンヌはセラフとの修行を思い出した。まだフランスに降り立つ前の話だ。剣術の特訓をしていた時が頭の中に映る。
「ッ!剣です!セラフさんは光を剣の形に変えていました!」
「その通り!セラフは頭の中で剣をイメージし、光技を使用して光を剣に変えて悪魔と戦っている。天使は頭の中で自分にあった何かをイメージして、それを光で作成して戦う。それが光技の真の扱い方だ。」
ミカエルは悪魔と戦いながら自信満々に話していた。
彼は悪魔からの猛攻を平然のように回避している。
「ジャンヌ・ダルク。球状というのは光で一番作成が簡単なため、他の天使たちも球状の光を作成する。球状以外の光を作成するのは難しいからな。
だが!貴様ならそれが成功できると信じている!!では見せてやろう!俺の光技を!!」
悪魔に向けて指を刺しながらミカエルは言った。
「ヂュヂュヂュヂュヂュゥゥ!!!」
悪魔がミカエルに向けて踏み込む。
「ふはははははッ!!!良いぞその覚悟!悪魔にしては威勢がいいな!!」
すると突然、ミカエルは左腕を上にあげた。彼が瞬きをすると、左腕から大量の光が溢れ、それはギザギザした歯車のような光に変形した。
{グルルルルルルルルッ}
光は回り始め、さらに少しづつ大きくなっていく。そして、
「––
ミカエルが大きく腕を振り落とすと、光は振り落とされた。それは悪魔をズタズタに切り裂き最後は光ごと爆散した。光が爆散した影響で突風が起こった。
ジャンヌは目を見開き、彼の力の凄まじさを改めて思い知った。
(すごい…!これがミカエル様の力…!!)
悪魔の姿はもうそこには無かった。
「ジャンヌ・ダルク。」
ミカエルはジャンヌの方へ歩み寄ると、優しく手を差し伸べた。
「え?」
「貴様の勇気、そして人間に対する思い。貴様は人間の誇りだ。メルカバーになった事を誇ってくれ。
改めて、俺のフランス支部へ来てくれた事を深く感謝する。俺たちや、セラフたちがお前を鍛える。共に、強くなろう。何があってもお前を支えよう。」
ジャンヌは戸惑ったが、偉大な四大天使からこんな言葉を貰った。彼らが味方となってくれるなら、自分も、役に立たなければならない。
彼女はミカエルの手を握り返した。
「よろしくお願いします!!」
あとがき
良い話を作るのはとても難しいです。
今回も、読んでくれて本当にありがとうございました。
次回へ続く!!
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