第8話 笑顔

「もう大丈夫よ。あとはセラフがなんとかしてくれるわ。」

ジャンヌを抱えたガブリエルとヴァーチは、元のヤニックの家に戻ってきた。

「ガブリエル様。あの、降ろしてもらえますか?もう大丈夫なので。」

「あらそう?わかったわ。」

ジャンヌがガブリエルから離れたとき、一階のドアが開く音が聞こえる。

「ジャンヌちゃん!」

リタとエンゾが家に入ってきたようだ。二人は急いで二階に上がる。

「大丈夫!?ってか鎧はどうしたの!?」

「悪魔に壊されてしまって…でも、大丈夫です。悪魔は倒しました。」

「そ、そう。良かったわ。ジャンヌちゃんが無事で。」

すると、エンゾが焦った表情で、

「ごめんなさい、一つ聞きたいことがあるんです…。」

ジャンヌに質問した。


「ヤニックは、本当に死んだんですか…?」


その言葉は、ジャンヌの心に深く突き刺さった。

魂はウァントから助け出せたが、肉体自体はもう死んでいる。しかも、彼はイシュタムによって無理やり自殺を図った。

以前聞いた通り、自殺した魂は、天界へ行かせるのは難しいと言われている。助け出せても、彼の魂は危険な状態に変わりはない。

すると、

「魂は助けることができた。」

ヴァーチが代わりにその質問を返した。それに対し、エンゾは、

は…?どう言うことだ…?」

「君の弟は残念だが、死んだことに変わりはない。あの残酷な神…いや、によって、自殺を図ってしまった。」

躊躇いもなく死んだと言う真実を教えるヴァーチ。エンゾは膝から崩れ落ちた。

「落ち着いて聞いてくれ。エンゾ・フォーレ。魂は救出できたと言ったが、自殺した人間の魂は、天使から話しかけるか、声を聞かない限り、死場所から永遠に留まることになる。しかし、その魂は天使や声に気づかない場合もある。

つまり何が言いたいか、それは、天国へ行ける確率が低い。」

ヴァーチの話を聞き、エンゾは涙を流した。死して尚、弟は苦しみを味わう事実に、ショック、絶望、そして混乱が彼を蝕んでいく。

「エンゾ君…。」

リタはエンゾを心配そうに呼びかける。

「…すか?」

「え?」

「弟を…生き返らせることは…できないですか…?」

エンゾはどうしても、自分の大切な弟が死んだことを受け入れられなかった。その願いは、叶わない。

ガブリエルが返す。

「貴方の気持ちは痛いほどわかる。でも、それはできないわ。人間を生き返らせることができるのは、天界には誰もいないの。」

それを聞いた直後、エンゾは頭を抱えながら、泣き叫んだ。

ヴァーチは申し訳なさそうに俯く。ジャンヌとリタも、少しだけ涙が溢れる。

ジャンヌは、こんな時に何も言えない自分の無力さに腹が立った。


その時、突然一階のドアが開いた。複数人の足音が二階に迫ってくる。


「あら、貴方たち。」

二階へ上がってきたのは、五人の騎士天使アークエンジェルたちだった。

「なんでここに来たの?」

「はい。我々は様の応援でここに参上致しました。自殺した魂の保護と、今回の件の元凶である、イシュタムの確保に。」

〔ズズズズッ〕

「なに!?」

ジャンヌとヴァーチが身構える。背後の空間への入り口から気配を感じたが、そこから出てきたのは、何者かを抱えたセラフだった。

「セラフ様!」

「はい。セラフですよ。イシュタムの拘束は完了しました。では、お願いします

。」

セラフが言うと、騎士天使たちは空間の中に入っていった。その後、彼は抱えていた男を床に優しく寝かせた。

「この人は…?」

不意にエンゾがそれを見ると、目を大きく見開き、勢いよく立ち上がり、その男の方へ駆け寄る。


!!」


その名を叫び、ヤニックの手を握るエンゾ。

「この人が…!」

「エンゾ君の弟…!?」

ジャンヌとリタも驚く。そして、セラフは片膝を立ててしゃがみ込み、エンゾに話しかける。

「エンゾ・フォーレさん。ヤニック・フォーレさんの事は心中お察しします。ですが、このままでは、ヤニック・フォーレさんは天国へ行けず、永遠に死場所に留まることになります。ですので、最後はせめて、貴方の手で、天国に行かせてあげてください。」

数秒の沈黙の後、エンゾはヤニックに声をかける。

「なぁ…起きてくれよヤニック!俺だよ!」

エンゾは何度も、ヤニックの体を揺さぶる。その直後、ヤニックは少しづつ、目を開けた。

「兄貴…?」

「あぁ…そうだよ…。」

ヤニックは起き上がり、自分の両手を見つめる。胸には、包丁で刺した傷が残っていた。

「ヤニック。お前になにがあったか、教えてくれ。全部だ。」

エンゾがそう言うと、彼は申し訳なさそうに、自殺を図った経緯を話し始めた。

「職場で、いじめられてたんだ。罵倒されて、無能扱いされて、打たれて。この事はもちろん、兄貴にも相談しようとしたよ。でも、あいつらの声と、打たれたことがフラッシュバックして、家の中じゃ、ずっと頭を抱えてる毎日だった。スマホも手が震えて、触れなかったんだ。」

ヤニックは俯く。

「俺はもう限界を迎えて、死のうとした。でも、俺が包丁を胸に刺す直前、奇跡的に正気に戻った。ここで死んだら、兄貴や、親父もお袋も悲しんでしまう。死にたくない。もう一度やり直したいって思ったんだ。だけど…」

彼の目から、ポロポロと涙が溢れる。


「俺は、いつの間にか、自分の腹に包丁を刺していた。」


経緯を全て聞いていたら、ジャンヌは胸が苦しくなってくるのを感じた。現代のフランスは平和に見えたが、残酷な出来事も起こっていた。

「兄貴…ごめん…本当に…ごめん…!俺がもっとしっかりしていれば…いつも通り…笑っていたら良かった…!」

すると、何故かエンゾはヤニックの頬を叩いた。

「なにしてんの!?」

ヤニックも、ジャンヌとリタも急な出来事に少し驚く。

「あに…」

エンゾはヤニックを抱きしめた。

「馬鹿野郎!なにがごめんだよ!!お前はなにも悪くねぇじゃねぇか!!謝るのは俺のほうだ!!俺がもっと早く気づいていれば!!こんなことにはならなかった!!」

エンゾが抱きしめる力はもっと強まる。彼の涙が床にこぼれ落ちる。

「ごめんな…!!俺がもっと早く気づけりゃ…!!ちくしょう…!!」

「…兄貴…。」

ヤニックはエンゾの泣き顔を見ると、何かを思い出すようにハッと息を呑んだ。

それは、幼少期に公園で遊んだ記憶。

トマトスパゲッティを頬張り、ヤニックの口周りがひどく汚れ、二人で笑い合った記憶。

バイクで二人乗りをして、ルーランの夜景を見たこと。


二人はいつだって、だった。


「なぁ。兄貴。」

ヤニックの呼びかけに、エンゾは顔を上げる。

「俺らさ、やっぱり泣き顔より、笑顔の方が似合ってるよな。」

そう言って、エンゾに向けて笑みを見せた。

「ヤニック…?」

「兄貴。俺、このまま泣きっぱなしだったら、気持ちよく天国に行けないんだ。だってよ、ずっと悲しいやりとりが続くなんて俺は嫌なんだよ。みんなもそう思いますよねぇ?」

ヤニックはジャンヌたちの方へ振り返る。

「え!?あ、そうですね。」

ジャンヌは戸惑いながらも、その意見を肯定した。リタもうんうんと頷く。天使たちも、同意見のようだった。そして、

「えっと、この人たちは、天使様…?」

ヤニックはガブリエルとセラフ、ヴァーチに問う。ガブリエルが前に出る。

「えぇ。その通りよ。」

「俺は、どれくらいの時間まで、この世界にいれますか?最後は兄貴と遊びたいんです。」

「そうね。タイムリミットは、明日の深夜三時までかしら?」

「よし!じゃあ兄貴!今から遊びに行こう!!」

エンゾは終始、ポカンとしていたが、フッと笑った。



「…お前らしいな。」




それから、エンゾとヤニックはジャンヌたちにお礼をしたあと、家の外へ出ていき、二人はバイクに乗ってどこかへ走り去っていった。

ヴァーチ、セラフ、ガブリエルはまだ仕事が残っているため、空間の中へと消えていった。

ジャンヌとリタは、車に乗ってこのまま家に帰ることにした。



「リタさん。」

「ん?どうしたの?」

助手席に座ったジャンヌは、少し悲しそうな顔をしていた。

「私はさっき、ヤニックさんの話を聞いて、すごく心が痛みました。激しいいじめを受けて、精神が限界を迎えて、自殺を図ってしまった。でも彼は、殺されてからですけど、苦しみを。どうやって、乗り越えたと思いますか?」

その質問に、リタはうーんと唸る。数秒後、彼女は口を開いた。

「ヤニック君が、苦しみを乗り越えられたのはきっと、を思い出したからだと思う。ヤニック君にとって、大切な人は、家族。特にエンゾ君だね。人間って、大切な人が一人でもいると、生きる希望が湧いてくる。私も、愛する娘がいるから生きる希望が湧いてくる。だから、辛い時に、大切な人を思い出せば、苦しくなくなるって事かな。」

「そうですか。大切な人…。」

ジャンヌにとって、大切な人はたくさんいる。天界にも、前世でも、今世でも、下界にも。

しばらく車の窓を見ていると、何かを見つける。それを見て、ジャンヌは微笑んだ。

「大切な人がいるって、素敵ですね。」

リタもそれを見ると、笑みが溢れた。




そこには、エンゾとヤニックがベンチの上で、楽しそうに談笑している姿が見えた。




数日後、ウァントの棺に入っていた魂全員は無事に天界へ行くことができたそうだ。

そして後日、エンゾによるとヤニックは、笑って手を振って天界へ行ったとのことだった。


エデンの宮殿にて、セラフとケルヴィ、そしてイシュタムを拘束した騎士天使二人が回廊を歩いていた。

イシュタムは怒りの表情でセラフを睨みつけていた。それに気づき、セラフは振り向く。

「もうそろそろ落ち着いたと思ったのですが、まだまだ怒りがおさまっていないようですね。」

「今に見ていろ…!!殺してやる!!潰してやる!!貴様らを必ず…」

その瞬間、ケルヴィがドスの効いた声でイシュタムを威圧する。

「口を動かす前に足を動かせ。神ならそれぐらい出来て当然だろうが。地獄に行かせる前にまず、お前が持っている情報を全て吐かせてもらうぞ。」

「偉そうな口を聞くなクソ虫が!!私は神だぞ!!貴様らの思い通りにはさせん!!何をやられても情報は…」

罵詈雑言を浴びせ続けるイシュタムの大口は、ケルヴィの大きな掌によって無理やり閉じられた。あまりの痛みにイシュタムは顎を抑えながら唸っていた。

「とっとと行こうぜ。うるさすぎるぞあの神。」

ケルヴィの一言で、セラフたちは歩き出した。

「ケルヴィさん。ジャンヌ・ダルクから聞きましたか?」

「あぁ。後からド・ミニオから聞いた。が絡んでいるらしいな。」

「はい。戦争で戦死したと思われましたが、逃げ延びていたそうですね。どうやら彼は、サタンを復活させようとしています。それを阻止するべく、イシュタムにはマモンの居場所を聞こうと考えています。」

「なるほどな。」

二人の後ろで歩いていたイシュタムと騎士天使の二人。そのうちの一人が、異変を察知する。イシュタムが急に歩くのをやめて、ボーッと立っていた。

「何をしている?早く足を動かさないか!」

騎士天使の一人が注意をするが、彼はまるで聞こえていないようだ。その場所の突っ立っていた。小刻みに

「セラフ様!ケルヴィ様!イシュタムの様子が…」

騎士天使が二人を呼びかけたその直後、突然イシュタムは発狂し始め、そして、体から黒い液体を撒き散らした。

やがて液体は無数のカラスへと姿を変える。

「やめろ…!私はまだ終わっていない…!!お前の為に自殺した人間の心臓を集めたんだぞ!!」

イシュタムの言葉を無視し、カラスたちは彼の体を啄み始めた。

「痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い…」

苦痛の言葉をひたすら繰り返す。それでもカラスは肉を食べるのをやめない。それを見て唖然としていた騎士天使たち。セラフとケルヴィはこの現象に見覚えがあった。

「このは…!」

「えぇ。これは私たちも覚えています。」

イシュタムはもう声を発さなかった。食事を終えたカラスたちは再び黒い液体へと姿を変える。その液体は形を変え、今度は人の形へと変身する。


「サタンを復活させ、戦争を起こした張本人。の魔法です。」


液体は崩れ始め、そこからマモンの姿が現れた。

「ご苦労だったよイシュタム。まぁ、そのボロボロの肉体でも、サタン様の供物になる。ん?」

マモンはセラフとケルヴィに目線を向ける。

「久しいな。三百年ぶりか?」

セラフは背後にいた騎士天使たちに言う。

「ここは私たちに任せてください。それと、万が一の為にエデンに避難警告を出してください。彼ならエデンに被害を起こしかねません。」

騎士天使たちは敬礼し、その場を後にした。

「どうしたぁ?それが久しぶりに会った俺への対応か?別に戦いに来たわけじゃないんだがな。」

刹那、ケルヴィがマモンの眼の前まで踏み込み、拳を思い切り振り下ろす。しかし、その場にはマモンの姿が無く、後ろを振り返えると、マモンはセラフの背後にいた。

「セラ…!!」

セラフはマモンの首筋に光の剣を突きつける。同時にマモンもセラフの首筋に銃を突きつけていた。

「ほう。」

マモンはニヤリと笑みを浮かべる。

「前より動きが早くなりましたね。戦争後に特訓でもしたんですか?」

「まぁな。ギガスも執筆し、前よりも魔法の威力が上がったよ。」

その直後、マモンはセラフの腕を蹴り、その場からバク転をして離れる。

彼はイシュタムの無惨な亡骸を片手に持っていた。そして、マモンの背後に黒い穴のようなものが現れる。

「お前たちとやり合うのは、サタン様を復活させてからだ。」

彼はその穴に入り、姿を消した。

「セラフ…!」

「えぇ。今回はなんとかなりましたが、エデンの守備を強めましょう。悪魔が侵入しないように。」



ズズズズという音と共に、黒い穴が出現し、そこからマモンが出てくる。イシュタムの亡骸を投げ捨て、地面に足をついた。

「さぁ最後の仕事だ。イシュタム。」

マモンの目線の先には、自身の腹部に優しく手を添える首の無い巨大な妊婦の像があった。

しかし、その像の腹部だけは赤黒く、まるで生物のようにドクドクと音を立てながら蠢いでいた。

イシュタムの亡骸をもう一度抱え、その像の腹部の方まで歩み寄るマモン。そして、

『バチュッ』

亡骸を腹部目掛けて放り投げた。亡骸はグジュグジュという不快な音と共に飲み込まれていった。

「神として生まれて、最後は悪魔の王の供物として最後を迎えた。皮肉なものだな。

さらばだイシュタム。母体の中でゆっくり眠ってくれ。」

今マモンがいるのは、アンダーワールドの中で一番大きく、そして赤い色の城。

名をアヴァロン。元々は、サタンがこの城の主人だったが、現在はマモン率いる悪魔の軍が根城としている。

この部屋はアヴァロンの最下層にある部屋だ。真っ暗な空間の中あるのはこの妊婦像のみ。


そして、妊婦像からうっすらと見える胎児のような影。これは封印されているだ。


マモンはあの部屋を後にして、アヴァロンの大広間を歩いていた。外からは悲鳴と笑い声が響いてくる。これは、アンダーワールドにとっては日常的だ。環境音に等しい。

すると突如、アヴァロンの外から何かが衝突する音が聞こえた。


マモンは外を出てみると、そこには、血だらけの巨大な牛の悪魔が倒れていた。その背後から二人の人影が見える。

人影の正体は、薪を持ったグレモリー、そしてもう一人はの服装の女の悪魔だった。

「お前たち、何してる?」

「あぁマモン!なんか急にこいつ襲ってきたから返り討ちにしたんだ。んでね!こいつ牛でしょ?もしかしたら食べれるかなって思って、ちゃんと一緒に食べようって!」

修道女の服を着た悪魔、エストリエはマモンを見て、祈りの体勢をして挨拶する。

「ごきげんようマモン様。イシュタム様がしくじったとお聞きしました。彼にはどのような処置を?もしよろしければ私が…」

「いや、処置はもう済んだ。お前の出番は無いぞエストリエ。」

「まぁ!私の出番は無しですか!?本来なら私がその役目なのに…。グレモリーさん。私、機嫌を直したいので早く食べてしまいましょう。」

すでに火おこしの準備に入っていたグレモリーが「オッケー」と軽い返事を返した。

「エストリエ!お前ここ最近グレモリーと遊んでばかりだが、宝玉探しはやっているんだろうなぁ。それに、この前言っていた使はどうなった?」

「その件ですか?それなら、あと少しで準備が整いますわ。」

エストリエは悪魔の肉を木の枝で刺し、焚き火の近くに突き刺した。

「良い人間個体を見つけましたのよ。それも三人。これを囮に、天使狩りを開始します。まずは、相手の心に問いかけないと。叶うはずのない願いを祈りながら、嫉妬に狂う惨めな生き物になるか、悪魔になるかを。」

エストリエの左手には一冊の書物を持っていた。それを見たマモンはニヤリと笑う。

か。」


。その言葉を吐き出せば、人間はどこまでも対象をしつこく付け狙う。これほど恐ろしい言葉はありませんわ。」




その夜、ジャンヌとキュリオはリビングでババ抜きをしていた。

「ねぇ、ジャンヌ…。さっきから顔でどこにジョーカーがあるかバレバレなんだけど…。」

キュリオはもうジャンヌのことを呼び捨てした。しかし、ジャンヌは悪い気はしなかった。何故ならとても親しくなったような気がしたからだ。

「え?そう?」

「当たり左でしょ。」

「ど、どうだろうねぇ?」

誤魔化そうとするジャンヌだが、顔から汗が滴り落ちてくるのがわかる。キュリオは容赦なくその札を取った。

「いやぁ!」

「やっぱり。ババ抜き苦手なの?」

「あ、あんまりこういうのはやったことないから…。」

「誤魔化すのが下手なんだね。」

「あはは…。」

すると突然、家のインターホンが鳴った。リタは入浴中なので、ジャンヌが出ることにした。ついでにキュリオも一緒について来る。


「はい。今出ます。」

ジャンヌがドアを開けると、スーツを着た紳士的な雰囲気の男と眼鏡を掛けた緑のスカートの女性が立っていた。

「え、どなた…?」

「こんばんわ。私です。」

男は何故かジャンヌの名前を知っていた。一瞬違和感を感じたが、その声を聞いて誰かを思い出した。

さん!?」

「ド・ミニオもいるなのです!イェイ。」

ダブルピースをするド・ミニオ。おそらく二人の人間の姿なのだろう。

「なんか、ガルガーリンさんと同じで、びっくりしますね…。ところで、なんでここに?」

「えぇ。以前、ウァントとの戦闘で、貴女の鎧が破壊されてしまったのは覚えていますね?我々騎士天使アーク・エンジェルには、と呼ばれる仕事を持つ天使がいます。」

加工屋という言葉を聞いたキュリオのテンションが妙に上がる。

「加工屋!?ゲームで聞いたことある!武器とか装備とか作るんだよね!」

「その通りでございます。朗報ですよジャンヌ・ダルク。貴女の鎧は加工屋が新しく作り直したとのことです。」

「本当ですか!?」

「それともう一つ。」

次の話題に移るのが早いセラフに若干ずっこけるド・ミニオとジャンヌ。

「貴女には、新しい光技を手に入れるためのを行います。」

「修行…!?」

すると、浴室から出てきたリタが現れた。

「ねぇ。シャンプー切れたから新しいの…」

人間の姿の天使二人と目が合う。風呂上がりなので頭がぼーっとするが、出てきた言葉はただ一つ。

「だれっ!?」



数分後、リタは二人を家へ上がらせ、お茶を用意した。全員はリビングの椅子に座る。

「修行?ジャンヌちゃんが?」

「新たに光技をいくつか習得させようと思います。これからの活躍のサポートになると考えているので、一つネタバレしますが、も取得できます。」

「え!?それ超便利!!だって前ジャンヌちゃんが悪魔と戦う時に鎧運んだけど、すごい重かったもん!」

申し訳なさそうにジャンヌが「ごめんなさい…」と軽く謝罪する。

「修行はガブリエル様も見守ってくださります。しかし、修行は何日間かかかりますので、しばらく天界にいることになります。」

任せろと言わんげにフンスと鼻息を鳴らすド・ミニオ。

「早速で申し訳ないのですが、明日の朝に私とエデンに向かいましょう。貴女が不在の間、ド・ミニオさんがこの家を守ってくれます。」

「え?ド・ミニオさんが?なんで?」

「フランスのパトロールも兼ねてです。何故かフランスでの悪魔の出現率はここ最近激増しています。それと、彼女はキュリオ・ランベールとお友達になりたいそうです。」

キュリオが反応して、首を横に傾げる。リタが質問する。

「天使様が友達に!?なんでキュリオと?」

フフフとド・ミニオが笑った後、椅子から素早く立ち上がり、

「キュリオちゃん!そのパーカーの胸に描かれてるマークはあの超有名アニメスタジオ!スクエアのマーク!私、下界の漫画やアニメが超大好きなのです!!」

「え!?天使様知ってるの!?」

キュリオが嬉しそうに立ち上がり、そして、

「ゴウキュー知ってる!?」

「漫画全巻揃えてるのです!!」

「仁魂は!?」

「もちろん!!」

「カバディのプリンス様は!?」

「大好きなのです!!特にあの二人のカップリング…♡」

同志よと二人はガバッと抱き合った。リタは引きつった笑顔を浮かべる。

「なんか、友達になろうとした訳、納得したわ…。」

「私、何故かわからないけどキュリオちゃんを取られた感が…」

ジャンヌは少しだけ喪失感を感じた。

「まぁとにかく!天使様がお友達になって心強いし、それと、ジャンヌちゃんがもっと強くなるってことね!良いニュースを届けに来てくれたのと一緒よね!」

「そういうことになりますね。」

「ジャンヌちゃん!」

リタはジャンヌの肩に優しく触れて、微笑みかける。

「頑張って来て。でも、無理はしないでね!」

「私も応援してるよー!」

キュリオも優しく手を振った。修行と聞いて少し緊張感があったが、二人の応援の言葉によって緩和されていく。

彼女は自信満々に頷く。


「ありがとうございます!強くなってきます!」




カンッという鉄の音が鳴り響く。この部屋の壁には様々な武器と鎧が飾られていて、周りのテーブルには金具、光り輝く石、そして人形が置かれていた。

ある女の騎士天使が金槌を床に置き、ブカブカなズボンのポケットから一本の針を取り出した。

その時、騎士天使が部屋に入り、

さん!今日ジャンヌ・ダルク氏が来るらしいですけど!鎧の方はもう完成していますか!?」

パリティという女の騎士天使は言う。


「もう後ちょっとだよん。そんなに慌てる必要はないよ。」





あとがき



こんなお話を最後までご覧いただき、本当にありがとうございます。最近絵も小説も自信がなく、ビクビクしています。しかし、メルカバー自体は続けようとしていますので、今後のお話も楽しみにしてくれたら幸いです。

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