第三章 旅の始まり

第1話 始まったばかりなのに

 船底でゆったりしているタロ、涼しい顔で目を瞑り腕を組んでいるアオイ、船の縁を両手で掴みガクブルなガイルさん、そして俺はそんな皆を見ながら、原因はコイツなんだよなとキュリを見詰める。


 そのキュリはアオイの涼しい顔を崩そうと何やら必死で頑張っているが、当のアオイは凄く気持ちがよさそうだ。


「クソッダメか。こうなったら「いや、ダメでしょ」……コータ」

「今、引き返そうと思ったよね。ダメだからね。ほら、もう船着き場が見えて来たでしょ。素直にアソコに着けてね」

「いや、だが、このままでは「いいから」……コータ……」

「そういう顔をしてもダメ。どうしてもアオイにギャフンと言わせたいなら、魔法の上達しかないよ」

「ぐぬぬ……」


 キュリは他の仲間に慰められ、ようやく諦めたのか船着き場へとゆっくりと船を近付ける。


 桟橋に船を着けると俺、アオイ、タロ、ガインさんの順で下りる。ガインさんは「やっと足が着いた」と桟橋の上で四つん這いになる。


「これもキュリのせいだからね」

「すまない……でも「アオイのことは分かるけど、それであんなに荒くしちゃダメでしょ!」……ぐぬぬ」

「それにね、荒いってことは無駄があるんだよ。もし、本当に速くしたいなら、船を安定させるのが一番だから」

「なに! それは本当か!」

「あ、うん。多分ね。知らんけど」


 俺が言ったことに直ぐに反応したキュリだけど、大丈夫だよね。ちょっとやる気になっているのが心配だ。


 何はともあれ、ここから王都までは馬車で直ぐだと言うが、俺達のことをジロジロと見ている視線の多さに気付く。


「なんだか、人の視線を感じるけど……」

「そうか? 気にすることはないんじゃないか」

「もしかしたら……まあ、念の為だ」

『ワフ?』


 俺は頭から布を被ると急いで『変身メタモルフォーゼ』を使って髪色を緑色に目の色も緑色に変える。


「ん? コータ、なんだそりゃ?」

「一応ね、一応」


 髪色が変わった俺に気付いたガイルさんが質問して来たので「ここではまだ」と濁して会話を終わらせた。


「先ずは王都の街門を目指そう」

「そうだな。腹も減ってきたしな」

『ワフ!』

「お前ら、食堂で食ってたんじゃないのか?」

「だが、足りぬ!」

『ワフ!』


 俺が先を急ごうと言えば、アオイ達は腹が減ったからと同意したが、それを聞いたガイルさんが驚く。


 それはいいとして、どうやって行けばいいのかと船着き場の近くにいた人に聞いてみると、乗合馬車が近くから出ているから、それに乗ればいいと教えてくれた。


 俺達はその人にお礼を言って、教えてくれた場所へと行けばちょうど馬車が出ようとしていたので、慌てて近寄りなんとか乗せて貰えた。


 だけど、その時御者の人が手元の羊皮紙を見て「違うな」と呟いたのが気になった。


「いいぞ。乗りな。従魔は勘弁な」

「タロ、ゴメンね。でも、ちゃんと着いて来てね」

『ワオン!』


 俺達は馬車に乗り込み、タロには馬車の後ろから走って着いて来てもらう。


 それにしてもさっきの御者の人の動きが気になる。


「まさかね」

『肯定します』

「え?」

「どうしたコータ?」

「ん、あ、いや、後で。それと……」


 俺は小声でアオイに伝えようとしたが、今は下手に騒がない方がいいような気がした。

『肯定します』


 とりあえず、王都に着いて用事を済ませたら、直ぐに出た方がいいなと考える。もし手配されているとしてもタロの大きさも違うだろうし、俺の髪色もまさかの為に変えているし、アオイにガイルさんという同行者も増えているから、直ぐには俺だとは気付かないだろうけど、名前までは今はどうしようもない。


 でも、誰が俺達を手配したんだろうか。クリフさんにはもう俺達には関わらないようにと約束してもらったから、多分違うと思いたい。じゃあ誰がと考えた場合、次に考えつくのは企み自体を潰された王妃達だろうか。


 なら、それは誰から伝えられたのだろうか。クレイヴ領で隊長は抑えたし、キンバリー領でその部下達は抑えた。そうなると、やっぱり別働隊がいたんだろうか。隊長達がことを成し遂げた後に始末する為に控えていた人達とか。

『肯定します』


 なんだか王妃達の執念深さにくらっと目眩がする。それにしても俺を捕まえてどうするつもりなんだろうか。単に自分達の企みを潰された鬱憤を俺で晴らすとかそういうことなのだろうか。でも、それだけじゃ単純な気がする。面倒臭いな~もう。


 ◇◆◇◆◇


「まだ、見つからないの?」

「はっ……あらゆる場所に手配書を配布していますが、まだ報告はありません。申し訳ございません」

「まったく使えないわね。何が第二、第三の策を講じていますよ。全部、潰されちゃったじゃないの!」

「はっ申し訳ございません」

「そんなことはいいから、さっさと私の目の前に連れて来なさいよ! いい? 絶対にあの女よりも先に私の元へ連れて来るのよ! 分かったの?」

「はっ必ず、お連れします」

「もういいわ。下がって!」

「はっ失礼致します」


 部屋の扉を閉じて廊下に出ると、配下の男が寄ってきて次は第二王妃様がお待ちですと、その男の耳元で囁く。


「内容は聞いているのか?」

「多分ですが、先程の件と同じ内容かと……」

「まあ、それもそうか。ハァ~」

「胃が痛みますか」

「ああ、だが心配するな。なんとかするから大丈夫だ。イツツ」


 その男は鳩尾の辺りを摩りながら、第二王妃の部屋の扉をノックすると、中から機嫌が悪そうな甲高い声で『遅いのよ!』と聞こえてきたので、その男は「失礼します」と言いながら部屋の扉をゆっくりと開き中に入る。


「隊長、ご無事で……」


 部屋に入ったその男、親衛隊隊長の背にそう呟く親衛隊隊員だった。

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