第27話 これでも地図
ノエルさんに解体場に案内されると、そこにいた男性を紹介された。
「おう、お前さんか。俺の名はリックだ。話はダリウスから聞いているぞ。ヒュドラはそこに出してくれるか」
「あ、はい。分かりました」
俺がリックさんと挨拶を交わすとノエルさんはアオイに「じゃあ、着けようね」と言うとアオイの手を引き、どこかへと連れて行った。
俺は「着けてなかったからだったんだな」と納得してから、リックさんの指示した場所にヒュドラの本体をアイテムボックスから取り出す。
「お~話には聞いていたが、本当に首がないんだな。それに体には一切傷がないとはな」
「じゃあ、頭の方はどうします?」
「ん? 頭か……」
どうせなら、頭の方も引き取って貰えないかとリックさんに聞いてみた。リックさんは少しだけ考えて俺に言う。
「あのな、ダリウスからも聞いていると思うんだがな。そんなには買い取れないぞ。それに全部が掛け売りになるんだぞ。それでもいいなら、置いてけ」
「え? いいの? ホントに?」
「あ、ああ。いいぞ」
「後でナシはダメだからね」
「構わん」
「分かった」
リックさんに念押ししてから、ヒュドラ本体の横にアイテムボックスから取り出したヒュドラの頭を山積みにする。
「おい、これはどういうことだ?」
「え? 話は聞いているんじゃないの?」
「ヒュドラを倒したっていう話は聞いたぞ。だが、この頭の数はどうした? ヒュドラの首は七つのハズだろ?」
「あ~ソコは聞いてないんだ」
「あ? 何をだ?」
「あのね……」
俺はなんでこんな数のヒュドラの頭があるのかをリックさんに説明した。
「あ~だから、体自体に傷がないのか。しかし、こんなやり方があるとはな。まったく長生きするものだな」
「長生き?」
「そうだ」
「え、でも……」
「見た目がそうは見えない……か?」
リックさんの問い掛けに俺は黙って頷く。だって、目の前にいるリックさんの見た目はいって四十歳手前かなとしか思えないのだから。長生きというほどの皺もなく、肌つやもいい。身長も百八十センチメートルを超えて細マッチョな体付きだ。
「まあな。大抵のヤツは俺の年齢を知ると驚くから慣れてはいるが、坊主……確か、コータだったな。お前の様な反応は久々だな。だが、お前のヒュドラの倒し方に比べたら俺の歳なんて小さい話だ」
「ん? どういうこと?」
「まあ、カラクリはこれだよ。分かるか?」
「え?」
リックさんは俺の目の前に自分の耳を近付けてくる。
「分かるか?」
「ちょっと……」
「ほら、ここだよ。ちょっとだけ尖っている様に見えないか?」
「あ! 言われてみれば……」
「そうだろ。コレがカラクリだよ」
「えっと……」
「ほう、山の中から出て来たってのも本当みたいだな。あのな、俺はハーフエルフなんだよ。だから、耳が少しだけ尖っているし、寿命も人よりは少しだけ長いんだ。多分な。そんな俺は今年八十歳を迎える。どうだ? 十分、長生きだろ」
「はい」
リックさんは俺にそう言うと満足そうに笑うと「おい、手伝え」と手の空いている人を呼ぶとヒュドラの解体と頭の仕分けに取り掛かる。
「確かにヒュドラの本体と頭は預かった。後で、ノエルの方に預かり証を渡しておくから、忘れずにもらっとけよ。じゃないと、掛け売りの代金が払われないからな」
「はい。ありがとうございます」
リックさんにお礼を言うと解体場の外に待たせていたタロと一緒にノエルさんを探す。
「アオイに着けるって言ってたけど、宿に戻ったりしてないよね」
『ワフ?』
冒険者ギルドの受付でノエルさんがどこにいるのかを聞いてみる。
「ノエルなら、さっき女の子を連れて宿に行くって言ってたわよ」
「ありがとうございます」
応対してくれた受付のお姉さんにお礼を言って冒険者ギルドを出ようとしたところで、ギルマスに声を掛けられる。
「コータ、ちょっと来い!」
「イヤです」
「……いいから、来るんだ!」
「イタいことされるから、イヤです」
「お、おい! お前、何を言ってるんだ。あ、違うぞ」
俺の言葉がいい感じに変換されたみたいで受付のお姉さん達がギルマスを見る目が変わる。中には「やっぱり」や「確か、独身だったわね」「だからか」とこのままでは人格が破壊されてしまいそうな気がする。そんな風に冷ややかに様子を観察している俺の横でギルマスが焦り出すので、俺からも一言だけ言わせてもらう。
「コイツの言っているのは冗談だからな。おい、コータどうするんだよ、コレ!」
「もう、しょうがないな。皆さん、お騒がせしてすみません。でも、大きな音がしたら助けてくださいね」
「コータ!」
ギルマスを揶揄い過ぎて爆発される前にいつもの部屋へと向かう。
「まったく、勘弁してくれよ」
「だって、部屋に呼ぶなんて悪い予感しかしないし」
部屋に入るなりギルマスに愚痴られるが、この部屋に呼ばれるのはいい感じがしないからしょうがないよね。
「それで用事ってなんなの?」
「……ハァ~お前な。これでもお前のことを少しは考えているんだからな」
「ごめんなさい」
「いや、素直に謝られるのも怖いな」
なら、どうしろと思っているとギルマスは大きな羊皮紙を広げる。そこには大まかな山や川に海と分かるモノが描かれていた。もしかしなくても地図だろう。だが、大雑把すぎる。
「コレってもしかしなくても地図なの?」
「ああ、そうだ。詳細な地図は持っているだけで罪になる。理由は分かってくれとしか言えない」
「あ~なんとなく分かるけど、大雑把すぎない?」
「言うな。だが、所有するとなれば、これが精一杯なんだ。それよりも先ずは地図を見てくれ」
「うん」
地図を見ろと言うが、俺には
「先ずはここが俺達がいる『トガツ王国』な。それで、ここからず~っと山を越えた所に『ガウル獣王国』がある。王都を出たら、お前はここを目指すんだろ?」
「一応、そのつもりだけど……結構、遠いし険しいね。徒歩だと王都からどれくらいなの?」
「徒歩か。それは止めた方がいいだろ。王都では多少無理しても馬車を買うなり、借りた方がいいぞ」
「そうなんだ。タロに牽いてもらうのは?」
「止めた方がいい。目立つことは止めておけ」
「そっか。じゃあ、王都では馬車の入手が最優先だね」
「そうなるな……って、違うぞ! 先ずは統轄に会うんだ。国を出るのはそれからだからな。忘れるなよ」
「出来れば忘れたいよ」
『否定します』
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