第14話 俺の名は

 海龍神リバイアサンのお姉さんを旅の仲間に加えたけど、今後のことを考えて冒険者ギルドに登録して貰おうと思ったが、クレイヴ領ここの冒険者ギルドではなくある程度の事情を加味してくれそうなキンバリー領の冒険者ギルドへ向かうことにした。ついでに死蔵しそうなヒュドラも預けてしまいたいところだ。


 クレイヴ領の街門は俺の連れだということで外に出られたが、やっぱり海龍神リバイアサンの身分を証明する物がないと不便だ。というか、名前はなんだろうかとこっそり鑑定してみたのだが、名前の欄は意味不明な文字の羅列だった。最初に話しかけられた言葉も全言語理解スキルが仕事してくれなかったことも考えれば、文字化けなんだろうな。そもそも名前があるのかすら怪しい。他に読めたのは種族と性別と年齢だけだった。


 街門を出てからはキンバリー領に向かう為に船着き場まで歩くのだが、お姉さんは機嫌良さそうに俺の隣を歩いている。だが、そのお姉さんの格好はと言えば何も履いていない裸足で、あまりにも飾り気のないシーツを纏っただけの格好だ。知らない人が見れば、子供が若くて綺麗な奴隷を購入したと思われるかもしれない。


 だが、本人は格好に無頓着なこともあり、そんなことは気にしない。もちろん他人の目を気にすることもない。俺一人だけが非常に場が悪い空気を感じながら俯きがちに歩いている。


「コータ、どうしたのだ」

「別に……ただ、お姉さんの格好を早くどうにかしたいと思ってね」

「格好? ああ、これか……俺はいらないんだけどな」

「あ~だから、脱がないで! 頼みます。お願いです!」

「ほぉ~そうか。コータは俺がコレを脱ぐと困るのか?」


 お姉さんは俺が焦っているのを見て、楽しいモノを見つけたとでもいうようにシーツの端をぴらぴらとさせながらニヤリと笑う。


「あのね、言っておくけど、そうやって俺を揶揄っているつもりだろうけど、俺がどこかに連れて行かれたらお姉さんは一人だよ。そうなったらどうするの?」

「ふむ、そうか。それは困るな」

「でしょ。だから、頼むから次の町の知り合いに会えるまでは大人しくしていてよ。お願いだから!」

「分かった。だが、何もナシでお願いと言われてもな」


 お姉さんはそう言ってニヤリと笑う。


「ハァ~あのさ、元々はそっちがお願いしてきたんじゃないの? 俺はタロがいるから淋しいとは思わないからね。俺がお姉さんにお願いした訳じゃないのは分かっているよね?」

「すまない」

「分かってくれたのなら、なるべく俺を困らせないようにしてよ」

「ああ、分かった」

「じゃあ、手始めに名前を教えて」

「ああ、ないぞ」

「え? 名前だよ」

「ああ、ないぞ」

「……もう一度、聞くよ。お姉さんの名前はなんて言うの?」

「だから、俺に名前はないと、さっきから言っているだろ」

「え? だって親から着けて貰ったんじゃないの?」

「親……親とはなんだ?」

「あれ? 俺がおかしいのかな?」

『否定します』

「だよね、じゃあ海龍神リバイアサンが言っているのは本当なんだ」

『肯定します』

「え~」

「さっきから、どうした? そんなに大変なことなのか?」

「……」


 俺はお姉さんに名前がないと、これから色々なことに支障が出るからと説明し、出来れば名前を自分で考えて欲しいとお願いする。


「俺が名前を考えるのか?」

「そうだよ。だって、お姉さんの名前だもん」

「しかし、名前を考えろと言われてもな」

「どうしたの?」

「……コータ、お前が付けろ」

「え?」

「俺にはどんな名前がいいのかが分からない。だから、お前が付けてくれ」

「……怒らない?」

「怒るものか、お前が付けてくれたのなら、嬉しいとは思うがな」

「お姉さん……」

「ついでに言っとくが、ひどく恥ずかしい名前とか格好悪い名前でも構わないが、それを呼ぶのはお前だと言うことをよく考えてくれると嬉しいがな。ふふふ」


 ニヤリと笑うお姉さんを見て「コイツ、確信犯だな」と思う。いい名前なら単純に嬉しいが、もし俺が嫌がらせ目的で恥ずかしい名前でも受け入れるということは、必然的に俺がその恥ずかしい名前を呼ぶことになる。まだ、よく分からないコイツの性格だが、俺が大声で呼ぶまで返事をしないだろうことは想像に難くない。


「あ~もう、分かったよ。考えるから!」

「おう、頼んだぞ。ふふふ」


 俺が名付けをすることが嬉しいのかお姉さんはご機嫌に鼻歌まで歌い出した。


 そんな様子を見せられたらマジメに考えるしかないじゃないかと名前の材料になりそうなことを思い出す。お姉さんの年齢は下二桁が十九歳だ。全部の桁を言えばデーモン閣下並になるので下二桁で通そうと思う。


 年齢からだと古風な方が合うのだが、今のお姉さんの容姿と下二桁の年齢からだと、若いというよりは綺麗な感じの名前にしてあげたい。


 でも、洋風の綺麗な名前ってなんだと色々と足りない前世の記憶の中から探りだしてみる。


「可愛いのならシャルロッテとかシャルロット……でもシュリと被る感じで俺がイヤだ。エヴァは人型な感じだし。エイミーだと幼く感じるかな。なら……」

「おい、まだなのか」

「今、考えているでしょ。ちょっと待っててよ」

「早くしてくれよ」

「もう急かさないでよ」

「おう、コータ!」

「だから、急かさ……あれ、キュリ。どうしたの?」

「どうしたのって……大丈夫か?」


 知らない内に船着き場に着いたようでキュリに声を掛けられる。


「どこに行くんだ。よければ送っていくぞ」

「あ~じゃあ、キンバリーまでお願いね」

「はいよ」


 キュリが抑えている川船にタロと一緒に乗り込むとキュリが一緒にいたお姉さんに声を掛ける。


「そっちのお姉さんはコータの連れなのか?」

「ああ、そうだ。俺はコー「あ、説明はあとでするから。お願い」……なにをするんだ」

「いいから、今は大人しくしててよ」


 俺はお姉さんが話すのを止めると川船に乗せて座らせる。


「また、訳有りのを拾ったみたいだな。まあいい、後で聞かせろよ」

「気が向いたらね」

「ふふふ、じゃあ気が向くようにサービスしますかね。よし、行くぞ!」

「「「おう!」」」

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