第6話 一目惚れでした

 食堂では俺以外の人達が既に着席済みだったが、爺さんは俺を見るなり「これが孫娘だ」とザックリな紹介で終わった。まあ、俺としてはそれだけで終わったことがラッキーと思ったが、当の孫娘達はそうもいかないらしい。


 何せ、現当主でもある爺さんが俺のことを孫娘に紹介したまではいいが、名前を言うわけでもなく単に『孫娘』として紹介するだけで終わったのだ。だが、当主が態々紹介するのだからコータには何かあるはずだということを直感的に悟ったのだろう。それだけでは終わらせるものかと孫娘の一人が席を立ち爺さんにものを申す。


「お爺様、いくらなんでもその紹介はあんまりではないでしょうか。これでも私達はクレイヴ領当主の孫として恥ずかしくない教育は受けているつもりです」

「そうだな。だがな、コータがそういうのは興味がないというのだ。なので、これ以上は当人達の間で解決してくれ。そういうことだ、コータ」

「え?」

「分かりました。では、コータ様、後ほどお時間を取って頂きますがよろしいですね」

「あ、はい」


 本当は断りたかったが、断れば断ったで面倒臭いことになりそうなのでイヤなことは一回で済ませたい俺は承諾してしまう。


「じゃあ、孫娘の紹介は終わったな。次に約束していたワシの娘だ。ワシが言うのもなんだが、一癖も二癖もあって忘れられない存在になることは間違いなしだぞ。まあ、一度婚姻に失敗したという欠点もあるがな」

「ふう~シュリと言います。父様が言うようにバツが付いている身ですがよろしくお願いします」


 さっきの姦しい孫娘とは違い、その佇まいに容姿に俺は自分の胸を撃ち抜かれた気がした。

 今まで一目惚れと言うのをしたことがないからハッキリしたことは言えないが、多分これがそうなのだろうと前世も含めてのにドギマギしてしまう。


「コータ、どうしたの?」

「コータ様?」

『コータ?』


 タロに名前を呼ばれたところでハッと我に返る。そして、シュリさんをジッと見据えて「お歳をお聞きしても?」と言えば「ふふふ」と軽く笑い「もうすぐ十八になります」と答えてくれた。


「あの、年下はお好きですか?」

「はい?」

「ですから、年下の爵位も持たない男はどう思いますか? もし、爵位が必要であれば明日にでももぎ取って来ますが」

「あ、ふふふ。そうですね、私は歳は気にしませんが、あなたは気にならないんですか?」

「気にしていたら、こんな質問はしません!」

「あ~それもそうですね。ふふふ」

「コータ!」

「何? 今じゃなきゃダメでも後にして!」

「え~何ソレ。ヒドくない!」

「ゴメン、視界に入らないで!」

「……」

「コータ様、それは少しばかりどうかと」

「え? 俺何を言ったの?」


 シュリさんに夢中過ぎて自分が何を言ったのか分からなくなってしまったようだ。そのシュリさんはと言えば、俺を見て少しだけ頬を赤らめて笑っている。


 正直、シュリさんの外見は姫さんほど綺麗だと言えないと思う。顔は所謂狐顔で細目のキリッとした面長の顔にこれまたほっそりとした凹凸が乏しい身体だったが、その雰囲気にやられたと思った。


 だけど、面白くないのは散々俺にアピールしていた姫さんにあわよくばと俺に興味が無くても爺さんが勧めるのであれば何かあるかもしれないと触手を伸ばしてきた孫娘達だろう。


 そんな俺に水を差すようなメッセージが流れる。

『魅了されています』


 そのメッセージを確認した途端に俺は自分の状況がどうなっているのかを確認する。

 落ち着くと何故か俺は目の前のシュリさんに片膝を着いて求婚プロポーズしていた。


「あっ違う! いや、そうじゃないけど、え? ちょっと待って、あれ? なんで?」

「ちっ」

「え? 今「気のせいですよ」……いや、でも」

「そんなことより、さっきまで私に熱烈なプロポーズをしていましたよね。続きをお願いしてもいいですか?」

「え?」


 確かにさっきまで目の前にいるシュリさんに対し一目惚れしたかたの様な錯覚に陥っていたのは記憶にある。でも、今から続きをと言われても、その熱意は今の俺にはない。なぜかと言えば、駆けられていた魅了が解けたからだろう。


「あ~すみません。ちょっと疲れていたみたいです。ごめんなさい」

「えっ嘘っなんで」

「えっとなんでって言われても……」

「だって……」

「ごめんなさい。俺は『魅了』は受け付けない体質みたいなんです」

「え、ちょ、ちょっと「待て、魅了と言ったか?」……」

「はい。さっきからジュリさんから魅了が「コータ!」……はい?」

「それに嘘はないのだな」

「ええ。だってそれは本人に聞けば……ってどうしたんですか?」


 俺が魅了に掛かりシュリさんに跪く寸前で正気に戻った結果、どうしてこうなったと自分でも訳が分からない。


 そして俺が『魅了』とハッキリ口にしてしまったことから、爺さんの顔付きが険しくなる。そして言った言葉が「お前は誰だ」とシュリさんに対して言ったのだ。


「え? 娘じゃないんですか?」

「ワシに息子はいるが娘は一人だけだ」

「へ? じゃあ……」

「ああ、お前は誰だ?」

「そんな、お父様。シュリですよ。どうしてそんなことを言うんですか?」

「……ぐぅ、ワシに何をした?」

「あれ?」


 なんだか不可思議な世界に閉じ込められてしまった感覚に陥った俺は「確かめればいいんじゃね」と先ずはこの場にいる人達を鑑定したところ、シュリさんを見てから驚愕する。


「あら、もしかしてバレちゃったのかな」

「分かりますか?」

「うん、だってね。顔が強張っているもの。ふふふ」

「じゃあ、なぜこんなことをしたんですか?」

「あ~そうね。話せることと話せないことがあるけど、今は話せないことの方が多いわね」

「なんで俺に魅了を掛けたんですか!」

「ふふふ、なんとなくかな」

「俺にちょっかい出さなかったら、お姉さんは……」

「そうね。そうかもしれないけど、そうじゃないかもしれないわね。でもバレてしまったのなら、長居は出来ないわね。じゃ「ダメです」……え?」

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