第30話 囓っちゃダメ!
ヒュドラが息絶えるとほぼ同時に霧が晴れていく。霧が晴れるとそこにはかつての美しい沼の様子が……とはならない。
そこにあったのはヒュドラの餌食となったリザードマンと思わしき骨の類が山と積まれていた。逃げ遅れ被害にあったのだろう。キュリもそれを認めると片膝を着いて両手を組み何かに祈っているようだ。
俺は縁もゆかりもないが、これも何かの縁だろうとキュリの後ろで両手を合わせ、あのロリ女神に「ちゃんと成仏させろよ」と毒づいてみる。
『承知しました』
どうやら祈りは無駄にはならないようだなとキュリには、どこか埋葬に適した場所はないかと聞いてみる。
『埋葬か。この辺りは沼地だからな』
「でも、亡くなった場合はどこか埋葬するんじゃないの?」
『いや、そんなことはしないぞ』
「え?」
『何も驚くことはないだろう。まあ、大体はそうだな、埋葬じゃなくて……なんて言えばいいのかな。確か森の奥深くに連れて行って放置とかだったと思うぞ』
「ええ、まさかの鳥葬ならぬ獣葬なの?」
『まあ、そういうことだな。今まで数多の命をもらって来たのだから、最後は自らの身体を差し出そうとか、確かそういう考えだったと思うぞ』
「あれ? でもさ、そういうことなら恩恵を受けているのは水辺なんだから、水の中とか沼の中じゃないの?」
『……言うなよ』
「え?」
『そのくらいは分かっているさ。でもな、もう分かっていると思うが、俺達はその沼なり川辺で過ごすんだぞ』
「うん、知っている。それで?」
『そんな日常に死体があるのはダメだろ』
「あ~」
リザードマンの考えとしては分かったが、普段の食事は水辺での採取だろうから森に放置はちょっと違うんじゃないかと思ったが、キュリから聞いて「まあ、そうだよな」と納得出来てしまった。
「じゃあさ、この亡骸はそのままにしておくの?」
『いや、ここには戻ってくる予定だからな。そのままって訳にはいかないだろ』
「え~じゃあ、どうすんの?」
『ちょっと待て、考えるから……』
『ちょっと囓ってみたいかも「止めてね」……ワフゥ』
キュリが亡骸をどうするのか考えている横でタロがリザードマンだったであろう骨を見て涎が出そうになっているのをキュリに気付かれないように止めさせると、キュリも考えが纏まったようだ。
『よし、分からん!』
「え~考えていたんじゃないの?」
『そうだ。考えた結果、分からないな。そもそもこういう場合はどうするべきかなんて初めてすぎて分からん!』
「いや、そんな胸張っていうことじゃないでしょ」
『じゃ、コータ。お前が考えてくれ』
「丸投げかよ!」
『いいじゃないか。解決してくれたのはお前なんだから、この同胞達も文句は言うまい。まあ、言えないがな……』
「あ~もう分かったよ」
『おぉ! 受けてくれるか!』
「やるよ。やるけど苦情はキュリに行くように祈りながらやるよ!」
『そこは勘弁してくれよ……』
キュリから丸投げされた形だが、俺なりに関わってしまったのだからこのままにしておくのは忍びない。
「うん、こういう場合はやっぱり慰霊碑だよな」
『いれいひ?』
「まあ、見ててよ」
俺は沼の近くで地面が適度に固い場所を選ぶと、そこに一辺が二メートルほどの正方形になるように線を引くと『
「あ、降りたけどどうやって上がればいいんだ?」
『おい、どうした?』
『コータ、どうしたの?』
俺の様子を穴の上から見ていたキュリ達に早く上がれと言われるが、三メートルも垂直跳びは出来ない。あれ、積んだのかと一瞬、考えたがあることを思い出した。それは『身体強化』だ。そう、ここで足の筋力を強化出来れば、三メートルも苦じゃ無いはずだと俺は早速試すことにした。
「確か、身体の強化したい部分に魔力を浸透させるイメージだったよな」
『お~い』
『大丈夫?』
穴の底で俺がぶつくさ言っているのが聞こえたのか、また心配するような声が聞こえてくる。今から出るからちょっと待ってて欲しい。
「よし、イメージは出来たから、ちょっとやってみるか。足だから、太腿とふくらはぎを強化させるんだよな。うん、いけそうだ。じゃあ、この状態で屈んでからの……えい! え?」
『お、出て来た……あ~』
『なに、新しい遊びなの?』
身体強化は上手く出来た。出来たから穴から飛び出すことは出来た。でも……また、穴に落ちた。
そうだよ、垂直に上がった物は何もしなければ、そのまま垂直に落ちるに決まっている。俺が穴から脱出したのを見たキュリとタロの顔が一瞬で残念な物を見る目に変わったのを俺は穴の中に落ちながら見てしまった。
「垂直跳びはダメだから、少し斜めになるように跳べばいいんだから……よし、今度こそ。えい!」
『やっと出て来たな。余計な心配させるなよ。まったく』
『ねえ、さっきのボクにも出来る?』
「ちょっと待ってね。今、穴を埋めるからさ」
俺は土魔法を使って掘った穴を埋めてから、その上にお墓を象った立方体を用意すると、その表面に『慰霊碑』と彫り、後は犠牲になったリザードマンの名前を裏に彫ればいいよとキュリに言えば『字なんぞ知らん』と言われてしまったので、まあ形だけでもいいかと納得する。
俺は近くに咲いていた花を摘むと慰霊碑の前に置いてからもう一度手を合わせる。
キュリも何かを感じたのか、さっきと同じ様に片膝を着いてから手を合わせる。
「じゃあ、これで万事解決でいいのかな?」
『まあ、そうだな』
「じゃあ、今から俺に着いて来てもらって、湖までの運搬について話し合ってもらうってことでいいよね?」
『それはいいんだが……』
「何か問題が残っているの?」
『まあ、俺だけの問題じゃないから、一度長の元に戻ろう』
「分かったよ」
『ご飯は?』
「……」
『……』
『ねえ、ご飯!』
タロにご飯を約束していたのを思い出したが、今は早く里に帰って報告するのが先だと自分に言い聞かせる。キュリも多分同じ思いだろう。決して魚料理に飽きたからとかそういうのじゃないんだからね。
『ご飯!』
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