第4話 魔物に嫁入り


 「ちょ、ちょっと!! あ、あんた分かってるの!? 人の寿命は人魔よりもずっと短いのよ!?」 



 「ん? そうなの??」



 目の前の少年は焦るあたしに対してあっけらかんとした表情を向けてくる。こんなに感情を顔に出したのはいつぶりだろう。それほどにあたしは焦った。何故ならあたしは今、死にかけていたから。



 「そうなの!! ……しかもあたし、もうすぐ死ぬけど」



 「え? またまた~~♪ ルーニャは今もこうして元気に僕の前に立ってるじゃないかぁ♪」



 にこやかな表情を向けてくる少年にあたしを背を向ける。



 「…………これが元気に見える?」



 「え? ……う、うわぁ!! ち、血がぁ!!!」



 あたしの背中を見て少年が叫ぶ。そう。あたしは先ほどの魔王竜ヴァロルグとの戦いで背中に致命傷を負った。このまま何もしなければあたしは失血死するだろう。

 そんな死に際でもこんな少年とのくだらない会話に付き合ったのは……なぜだろう?

 自分でもよく分からない。

 きっとこの少年の目に惹かれたのだと思う。少年が見せる無垢で綺麗な黄色の瞳に…………。







 『ドサァア!!』



 そんなことを考えながらあたしの身体は硬い地面に叩きつけられた。






 ♦ ♦ ♦






 「………………」



 「……………………ん、こ、こ……は?」



 目を開けると視界には茶色の物体が見えた。土の色ではない。あれは木の色。



 「ここは…………家の、中?」



 まだぼんやりとする意識であたしはそれが家の天井であることを理解した。



 「あ!! 良かった、起きた!!」



 が、そんなぼんやりと見えていた優しい木の色の次にあたしの視界に入って来たのは眩いほどの黄色い瞳だった。



 「あっ……」



 それは先ほどの少年だった。あたしはこの少年に運ばれてここまで来たのだろう。ふと自分の身体が柔らかい布の上にいることにも気がついた。あたしはベッドから身体を起こし、少年を見る。



 「あんたがあたしを助けたの?」



 「そうだよ?」



 「ど、どうして……あたしはもうすぐ死…………?」



 そう言いかけて気がついた。背中の痛みが……消えている。あたしは咄嗟に背中を触る。そこには先ほどの魔王竜ヴァロルグにやられた傷がなかった。



 「傷が……ない?」



 「えへへ♪ それは僕……じゃない。俺が治療したんだよ?」



 「……慣れてないなら無理に『俺』って使わない方がいいわよ。さっきからずっと変だから……」



 「ん~~、で、でもぉ。僕っていうと他の魔物に舐められちゃうからぁ……」



 「ふぅ……。だったら大丈夫。あたしは人間だし、あんたを舐めたりもしないから」



 森で会った時から違和感はあったが、そんなことをこの少年は気にしていたらしい。が、いくら一人称を『俺』にしていようともこの身体の小ささでは意味はあまりないように思える。 



 「そ、そっか! あっ、あとさっきからあんたって言ってるけど僕はリュナードだ。リュナード・アーテリウスだ!」



 『ガチャアン!!』



 「ああ!! 薬品がぁあ!!」



 あたしは勢いよくベットから飛び降りた。その時に横にあった机に勢いよくぶつかり机の上に置いてあったあたしの治療に使ってくれたであろう薬品が倒れた。



 「……そっか…………だから」



 「ん? なに? 僕の顔になんかついてる?」



 あたしはまじまじと少年を、リュナードを見つける。……綺麗な黄色の瞳。久しぶりに見たこの綺麗な黄色の瞳。どことなく思っていた。そうなんじゃないかと。

 でも、それが確信に変わった。リュナード・アーテリウス。

 この少年、リュナードはあの魔王の息子だ。あたしの宿敵であり、あたしの友であるリュゲルド・アーテリウスの。



 「リュナード……」



 「ん? 何? ルーニャ♪」

 


 これは運命なのだろうか? 



 あの時、あの日あたしが勇者になった罪を償えと……



 もしそうだとするのならあたしはこの子に、リュナードにすべきことがある。



 「リュー……」



 「ん? 何?」



 「あたしを……リューの妻にして欲しい……」



 「うん!! そんなこと言わなくてもこの指輪をはめた時からルーニャは僕の妻だぞ♪ ルーニャ♪」



 静かな小さな小屋の中であたしはリューの妻になることを決意した。これが今、この子に……リュゲルドのためにできるすべてのことだから。


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