ヤマメとぽち

やわらか枝豆

第1話 空白




第一話 空白










【たまご丸の怪奇ブログ】



引っ越してからというもの、心霊現象に悩まされていた。

同じ悩みを抱えている人はいないかとTwitterを探していたら、とあるアカウントを見つけた。「心霊相談承ります。お気軽にご連絡ください」とある。

DMを送ったら、すぐに返事が来た。


「相談したいです。最近都内に引っ越してきたのですが、家の中で物が落ちるような音や、足音が聞こえます。私は一人暮らしで、同居人はいません。怖くて眠れないです」


「ご連絡ありがとうございます。それは心配ですね。最近人間関係で困ったことはありましたか?」


人間関係…?特にないが、強いて言えば…


「うーん…ちょっと合わない同僚がいます」


「その同僚とは頻繁に連絡を取っていますか?」


「仕事の話なら、まあまあ」


「最近、メッセージで空白だけが送られてきたことは?」


「あります」


言われて思い出した。

そういえばそんなことがあったが、その後すぐに仕事の話が来たので、入力ミスかなと思ってスルーしたのだった。


「たぶんそれです」


「え?」


「一応、そこのスクショを送っていただけますか」


言われるがままに、空白部分のスクリーンショットを送る。


「ありがとうございます。やはりこれですね。人には見えない文字で書かれています」


「そんなことが…」


にわかには信じがたい。だが、他に頼るものもない。


「これに対抗するには、ある方法があります。もし私を信用していただけるなら、直接お会いしましょう」



───



駅前のファミレスにて。

ヤマメと名乗るその男が現れた。


「あ、こんにちは。たまご丸さんですか?」

「あ、はい…よろしくお願いします」

「よろしくお願いします」


席につくなり、ヤマメはポテトフライ大盛りを注文した。初対面でこういう時は飲み物とかだろう…ちょっと変わった人なのだろうか。


「好きなんですよ、ポテトフライ。良かったらどうぞ」

「あ、どうも…。というか、ヤマメさんは霊媒師…とかそっち系なんですか?」

「そっち系と言われれば、そっち系です」

「なんか…思ったより普通ですね」

「そりゃまあ、そっち系なこと以外は。普通ですよ」

「よかった…霊感商法とかで、変なもの売りつけられるのかと」

「あはは。じゃあまず、そのメッセージの画面を出してもらえますか」

「あ、はい」


画面を上向きにして、テーブルの上に置く。

ヤマメはその空白の部分に指を乗せた。

正直塩と油でギトギトの指をスマホに乗せないで欲しかった。

そのまま、スッと掬うように持ち上げる。


「え…」


蓋がズレるように開いた空白の下から指に絡みつく、黒い紐のようなズルズルとした物体。思わず目を見張る。


「見えますね?これが悪意の実物です」

「悪意…」

「目には見えなくても、悪意そのものは伝わります。これがあなたに霊障を引き起こしている原因というわけです」


自分が今見ているものが、現実のものだと信じられなかった。しかし、目の前でおぞましく蠢いているそれは、作り物にしてはできすぎていた。


「そ、それ…どうするんですか?」

「どうって…」


もう片方の手でカバンをごそごそと漁り、ジップロックを取り出すとその中にしまった。


「えぇ…」

「持って帰りますよ。私、これ食べて生きてるんで」

「は?食べる?それを…?」

「いやいやさすがに生では食べませんよ」

「調理して?」

「調理して」

「あぁ…」


悪意が目に見えたこと、それを食べる人間?がいること。

自分の中でも理解しづらかったが、東京だしそういうこともあるのかなと思うことにした。


それから数日後、あれほど続いていた怪奇現象はぴたりと止み、私は約束の報酬を支払った。


ヤマメとはLINEを交換した。


「先程はありがとうございました」


アイコンが魚だった。

私から採れた悪意は天ぷらにしたらしく美味しそうな写真が送られてきていた。

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