54.言わなくて叱られ、言っても怒られる
結婚式を行うと告知したところ、街中がお祭り騒ぎとなった。まだ結婚前なのにセールが始まったり、街の人からお祝いが届いたり。セールに関しては便乗商法だと思うけど。
アイカが苦笑いする一方、ブレンダはほくほく顔で帰宅した。通りを歩くだけで、皆から野菜をもらえたらしい。それは助かるし、素直に嬉しい。
何に加工するか盛り上がりながら、サラダを作った。一部の果物はジャムで保存すると決まり、明日は砂糖の買い出しだ。葉物野菜を手でちぎりながら、アイカはちらりとブレンダを見た。気づいたブレンダが首を傾げると、おずおずと尋ねる。
「ここを出ちゃうの?」
「ああ、放置すると家が荒れるし。ここはアイカのお金で借りた家だからね」
「でも……」
最初に住んだログハウスより、この家で暮らした時間の方が長くなった。実家のような感覚で、維持したいと思う。贅沢だけど。夫になるレイモンドがいる屋敷に住むんだけど。それでも寂しい感じがした。
「どこに住んだって、私だよ」
「うん、わかってるけどね。寂しいなって感じるの」
でも気にしなくていいよ。そう付け足して、アイカは水音を立てて野菜を洗った。勢いよく水を切り、お皿に盛り付ける。慣れた手つきで彩りを整え、食堂へ運んだ。今日はトムソンだけで、レイモンドは自宅に帰っている。
「はい、サラダ」
「うむ……葉っぱは好かん」
「贅沢言わないで」
笑いながら、ひとつ摘んで口に入れる。思ったより酸っぱくて顔をしかめながら、アイカは猫達の餌の支度を始めた。
焼いた魚をほぐし、鶏肉っぽい正体不明の肉を茹でる。キャットフードがないので、魚と肉中心になった。時々パンも食べている。樹液だというミルクを用意し、猫達を呼んだ。
「オレンジ、ブラン、ノアール。ご飯よ」
ぶぎゃああ、派手な声でオレンジが突進する。後ろからのそりと顔を見せたのはノアールで、勢いつきすぎて足を滑らせたのはブランだ。しかも失敗を取り繕うように、白猫は毛繕いをした。
「アイカ、考えてみたんだけど」
食事の席についてすぐ、ブレンダはさっきの住居問題を持ち出した。
「森の家はやっぱり別荘にしようかね。この家を借りる手筈を……」
「この家なら、買う手配をしてしまったぞ」
「……え?」
「……は?」
トムソンは肉を噛みちぎるついでに、思い出したように口を挟んだ。その内容が思いがけないものだったので、顔を見合わせた二人が間抜けな声をあげる。
「ん? レイモンド君とも相談したんじゃが……聞いておらんかったか」
知らない間に決まった内容にをよく噛み砕いて飲み込み、二人で肩を落とした。そういう重要な話はもっと早くして。ブレンダの苦情を受け、トムソンはさらに情報を漏洩した。
「そういや、結婚式で揃いの首輪を交換するので準備していると聞いたぞ」
「首輪……」
想像したアイカが微妙な顔をしたことに気づかず、ブレンダはトムソンの口を押さえた。
「ダメだよ、それは秘密だと念を押されたじゃないか」
もごもごと謝罪するトムソンだが、さっき話せと言ったのに……とは賢明にも口に出さなかった。
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