狂気の恋愛

第 話 魔法の時代~戦史と好奇心~

イルモニカ側のシル・ビーの森が火の海に変わると、


イルモニカ側の魔術師が掛け声を上げながら、


国境沿いに集まったアルル・ダード側の魔導師たちに風の魔法を放った。


それにより勢いよくアルル・ダードの傭兵100人以上が吹き飛ぶと、そこにその魔術師が走って向かい、


2発目の魔法を発動させようとした。


それを見た上空にいるシル・ビーを火の海に変えたさっきの魔導師たちが、


その地上に向かって火の玉を作り出し放とうとするも、


地上にいたイルモニカの魔術師等ミドルクラスの


そのハイクラスの火の魔導師に向かって飛び上がり、風の魔法を叩きつけるように放つ。


すると10人の火の魔導師は地上にいるアルル・ダードの魔導師たちの群れに落ちて行き、


アルル・ダード側に混乱を招いた。


そこに


今度は、イルモニカの魔術師が一斉に地の魔法を放ち大地を揺らすとその場所に地割れが起き、


アルル・ダード魔導師400人以上がその地割れに呑み込まれると、


さっきの魔導師の作り出した火の玉が中で引火したのか、その地割れで出来た穴の中で大爆発が起きたのだ。


それは、たった3分足らずの出来事である。


その瞬間、アルル・ダード側の国境に出来た大きな穴の中で死体となった、400以上のアルル・ダード傭兵団の姿を見るなりイルモニカ傭兵団から歓声が起きた。


イルモニカ魔術師d「.....やったぞ!?


.....ざまぁ見やがれ!


何がエリート傭兵団の魔導師だ?!」


魔術師g「何処がハイクラスの魔導師だ?!


所詮はアルル・ダードの基準での話ではないか? 何も怯える必要などは無い!


現にこうしてミドルクラスと呼ばれる我々、魔術師が奴等を葬ったではないか?」


魔術師c「その通りだ...我々の作り出した魔法が奴等を上回ったのだ...」


そんな興奮の中を掻き分けるように長官が声を上げる。


イルモニカ傭兵団長官「...皆の者!


いいか?! よく聞け!


この先、アルル・ダード国境を越え5キロほどの場所に町がある。


先ずは、そこを攻め込み占領するのだ?


情は捨てろ...


例え市民であろうと、情けは不要だ。


女、子供は捕虜として捕らえろ!


あとになって利用できる..


そして、


この我々イルモニカの勝利の為に..


アルル・ダード側の命なるものは、


徹底的に叩き潰せ!


いいな?!」


こうして魔法戦争の先手を取ったイルモニカ政府は、アルル・ダード国境を越えた先にある町オースカを占領し、


戦争が始まって半年間ほど、その優勢を保ったのだ。


しかし、約3年間続いたこの魔法戦争の中でイルモニカ政府が優位に立っていた時期は、あとにも先にもこの半年間だけである。


では、何故そんなイルモニカ政府が一時的とは言え優位に立つことが出来たのか?


それは、偶然である。


アルル・ダード側にとって大事だったのは、最初の攻撃を必ず成功させる事にあったのだ。


それが最初のハイクラスの魔導師達がやってのけた魔法でイルモニカ側の森を焼く事だった。


伝言となる意味を込めて..


"そんなに、その森が欲しいのならくれてやろう...


火を放ってな?"


それにここに集まったアルル・ダードの傭兵達は、言わば犠牲を覚悟の上に集結した特攻隊のようなもので、


アルル・ダード政府からすれば、


最初に先手を取って伝言を伝える役割さえ済めば、


それで良かったのだから、多少の犠牲等はやむを得ないと考えていた。


それが、偶然にもイルモニカ側の魔術師に


風と地の魔法を上手に扱う者がいたとして、


優位に立たれようともアルル・ダード側にとって何の問題も無かったのだ。


悲しき事に...


アルル・ダード政府は、つまり最初にイルモニカ政府側の出方を見ていたのだ。


犠牲者と引き換えに..


この魔法戦争が特殊なものである事はお互いに重々承知していた。


魔法石や領土権の争いは勿論の事..


本当の狙いは、他にもある事をお互いに知っていたのだ。


要は、魔法を使いたかったのだ。


その魔法の存在でどれほどのものを奪えるのかを確かめたかったのだ。


私たち人間は、与えられた力で何か試したいと思う好奇心と畏れ併せ持つ。


時として、狂気の沙汰と呼ばれるものであってもだ..。


"アルダ・イディオル・カウト"とは、


そんな意味を持つ好奇心から生まれた戦争でもあるのだ。


それと同時に、この魔法戦争を最後まで見届ける覚悟は果たしてイルモニカ政府側にはあったのであろうか?


魔法を単なる道具としてではなく、


恐るべきものでもあるという事を理解していたであろうか?


アルル・ダード政府は200年以上前からこの魔法なるものを尊い恐れ、学者を集め研究に研究を重ねてきたのだ。


例え、それが利用価値のある古代魔法であろうと伝説上の召喚獣であっても、


常に、それらを恐れ尊いものとして200年以上を掛けて、それら魔法を理解しようとしていたのは、


アルル・ダード側の方だったのだ。


仮に、1人の魔法使いが古代魔法を発動させる事が出来ても、その発動させた古代魔法を放ったまではいいが、


その衝撃に耐えきれず身を滅ぼし、もしその飛んでいった古代魔法が目的地には程遠い場所に落ちて、


それに因って起こる、甚大な被害は、いったいどれ程のものなのか...


イルモニカ政府は理解していたであろうか?。


召喚獣にしても同じである。


召喚師によって呼び寄せた後にその魔獣に食い殺されぬよう(又は、叩き殺されぬように)魔獣を飼い慣らし、それが出来たら次に、


いったいどれくらいの時間でこの世界の動きが鈍り始めるのか?


その年月を得て熟知された魔法を扱う慣らすアルル・ダードの魔導師達と、


魔法を便利な道具として捉えるイルモニカ側の魔術師では、この魔法戦争に置ける優劣など最初から無意味であったのだ。


イルモニカ政府の傭兵団が次々とアルル・ダード側を占領して、


半年が経とうした時、アルル・ダードの大広場なる場所でイルモニカ側の召喚師が見せしめの為に異界から呼び寄せ魔獣なる物を召喚した時、


この戦争は勝敗は決したようなものだった。


そのような大広場で召喚獣を呼び寄せた時点でイルモニカ側の魔法に関する知識(又は戦略)の無さを露呈する形になったからだ。

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