第45話 高校一年・九月 その6


「ここが英語部の展示でーす」


 篠川しのかわ瀬奈せなの間延びした声が響く。


 英語部の展示は、比較的小さな教室でなされていた。


「井神くん、どれにする?いまなら全部、空いているわよ」


 瀬奈の言うように、このコロナ禍も原因なのだろう、ガラガラだった。


「なんか、二人だけで専有しているみたいね」

「てか、英語部員すらいないのかよ」


 普通、こういう展示は一人くらい待機しているものじゃないのか。いや、でも天文部は誰もいなかったか。どこもいまはそんな感じなのかな。


「じゃあまずはこれで」

 俺は入り口のいちばん近くにあった展示を指さす。

「はいはい、難易度マックス!英単語チャレンジね。これ、わたしも一問だけ製作したのよね。それじゃ、どうぞ。わたしはぜんぶ答えが分かっているから、なにも喋らないからね」


 ということで、やたら難しい英単語がいくつ分かるか?という問題に挑戦する俺。


「えーと、まずこれか。 “centipede”・・・・・・あ、これなら分かるぞ。百足むかでだろう」

「せいかーい!よく分かったわね」

「これは、割と知っているだろう」


 単語がデカデカと書かれた画用紙の紙の裏を見ると、そこには単語の語源が解説されている。


 centiは百を意味する。世紀を意味するセンチュリーとかと同じ語源。で、pedeはペダルとかと同じ語源で、足の意味。よって百と足で百足むかでというわけだ。


「よく分かったわねえ・・・・・・それじゃ、次」

「アンチ・・・・・・ボディ?なんじゃこりゃ」


 画用紙に書かれたanti-bodyという文字に、首をかしげる。


「ヒントは、生物の授業とかで出てくる用語よ」

「だったら無理だ。俺、生物取っていないし」

「でも普段、ニュースとかで聞いたりしないかな、この単語」


 うーん・・・・・・?アンチって、反対とかいう意味だろう。そしてボディは身体・・・・・・反身体?反物質みたいなものだろうか。


 俺は両手を上げて降参の意を示す。瀬奈は画用紙を裏返す。


「はい、それでは正解をどうぞ」

「・・・・・・なるほど、“抗体”か」


 納得だ。アンチは「抗」を意味するのか。


「お次は、わたしが考えたのよ。これはノーヒントね」


 次の問題は“romcom”という単語だった。


「なんだこりゃ?ロムとコム?CD-ROMとコンピューターとかか?」

「ぶっぶー。大ハズレよ」


 楽しそうにそう告げる瀬奈。それを見ていると、意地でも正解にたどり着きたくなるな。


 だが、どうも瀬奈の口調から察するに、コンピュータ関連のことではなさそうだ。となると・・・・・・ROMって他にどんな意味があるか?


「なあ瀬奈。なにかヒントくれないか?」

「えー・・・・・・そうねえ。これ、略称よ。以上」


 ロムとコム。でもコムはコンピューターじゃないし・・・・・・コミュニケーション?いや、それだと意味が分からないかな。


「これも降参だ」

「えー、もうちょっと考えて欲しかったなー。ま、いっか。正解は、romantic comedyの略――つまり“ラブコメ”という意味でした」

「はい?」


 予想外の解答に、妙な声を出す俺。


「なにかご不満でも?」

「いや、不満じゃないけれど・・・・・・ラブコメってのが英単語にあったというのが衝撃で」

「そうよねえ。わたしもこれ発見したとき、すごく意外だった。ラブコメって、いかにも日本の漫画やアニメの専売特許ってイメージだものね」

「だな」

「それじゃ、次の問題に行くわよ・・・・・・」


 英単語クイズは続く。


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