第6話 【ASMR】添い寝とんとん寝かしつけ

   #右から、かがみの声がする。


かがみ

「じ~っ……。」


   #前方から、かがみの声がする。


かがみ

「じ~っ……。」


   #左から、かがみの声がする。


かがみ

「じ~っ……。」

「……うん。湯者さん、ここに来たときよりリラックスできてる感じする……。」

「い、今なら、ぐっすり眠ってもらえるかな……?」


「あっ、お布団かけてあげるね。」

「……はい。ふかふかで気持ちいいでしょ?」

「ふかふかお布団の中でぬくぬく……ぬくぬく……。ゆっくり寝てね……。」


「おやすみ。湯者さん……。」


   #10秒くらい間があって、変わらず左から。


かがみ

「じ~っ……。湯者さん、ちゃんと寝れたかな……?」


   #前方から、かがみの声がする。


かがみ

「じ~っ……。気になって離れられないよぅ……。」


   #右から、かがみの声がする。


かがみ

「じ~っ……。うぅ~、どうしよう……。」


   #かがみの声が遠のいて。


かがみ

「あ! こ、これじゃ、さっきと同じだね! こんなに近くで見られてたら気になるよね!」

「でもでも、わたしも気になるし……。湯者さんがちゃんと寝てくれるまでは、その……そばに、いたいし……。」

「あ……そうだ! 湯者さん、ちょっとごめんね……。」


   #かがみの声がぐっと近付く。

   #以下、右から湯者に囁き続ける。


かがみ

「えへへ……。同じお布団に入っちゃった……!」

「ちょ、ちょっと恥ずかしいけど、これなら湯者さんのそばにいられるから……。」

「ゆ、湯者さんも! あったかいほうが眠れると……思うし……。」


「そ、そうそう! まだ、砂和ねえに聞いたリラックス法が残ってるんだった!」

「わたしがまだ小さかった頃、おとうさんやおかあさんが、こうして添い寝してたんだって。」

「それでね、わたしの体を優しくとんとん叩いて、寝かせてくれてたの。」


「『添い寝とんとん』って言うらしいよ。」

「『とんとん』っていう音はね、赤ちゃんがお腹の中にいた頃に聞いた、おかあさんの心臓の音に似てるんだって。」

「わたしたち温泉むすめは、普通の人とは産まれ方がちょっと違うけど……それでも、なんかホッとしたのを今でも覚えてるんだ。」


「だから、湯者さんにも『添い寝とんとん』してあげるね♪」

「わたしの話を聞きながら、途中で寝ちゃうくらい……ぼぉーっとしてくれると嬉しいな……。」

「今度こそおやすみなさい。湯者さん……。」


   #かがみが添い寝とんとんを始める。

   #赤ちゃんに語りかけるように、右から。

   #優しく囁き続ける。


かがみ

「とんとん、とんとん……。」

「ここは湯者さんのふるさとだよ。湯者さんが安心して眠れる場所……。」

「とんとん、とんとん……。」


「うふふ。おかあさんたちにしてもらったことを湯者さんにしてるなんて、なんか変な感じだね……。」

「とんとん、とんとん……。」

「とんとん、とんとん……。」


「とんとん、とんとん……。」

「とんとん、とんとん……。」

「んー……。何話そうかな~……?」


「あっ、あれにしよっかな。小さい頃、おかあさんが聞かせてくれた、昔むかしの昔話……。」

「……昔むかし、あるところに、おじいさんとおばあさんがいました。」

「ある日、おじいさんは山へ芝刈りに、おばあさんは川へ足踏み洗濯に行きました。」


「いつものようにおばあさんが洗濯をしていると……どうしたことでしょう。」

「どんぶらこ、どんぶらこと、川の上流から大きな桃が流れてきたのです。」

「おばあさんは大喜び。急いで桃を持ち帰り、おじいさんと二人で切ってみると……。」


「まあ、びっくり! 中から元気のいい温泉むすめの赤ちゃんが飛び出してきたのです。」

「『かがみ』と名付けられたその赤ちゃんは、二人の子どもとして大切に育てられ、すくすくと成長しました……。」

「ふわぁぁぁ……。このお布団、ほんとにふかふか。わたしも眠くなってきちゃった……。」


「えっと、それで、続きは……。ある日のことです。」

「風の噂で鬼たちが悪さをしていると聞きつけたかがみは、鬼ヶ島へ鬼退治に行くことにしました。」

「道中、ワンちゃんと、お猿さんと、キジさんに出会い、彼らを家来にして、かがみはついに鬼ヶ島へ乗り込んだのです。」


「ところが……。」

「鬼ヶ島では酒盛りを終えた鬼たちが、ぐーぐー、すやすや。みーんな寝ていました。」

「どうしたものかと様子を窺っていたかがみですが……ふと、鬼たちの洗濯物が山積みになっていることに気付きました。」


「かがみは大の綺麗好き。」

「どろどろに汚れた洗濯物を見て、どうしても足踏み洗濯をしたいと、ムズムズしてきました……。」

「かがみは思わず洗濯物を水で濡らし、ふみふみ、ふみふみ……。」


「三匹の家来たちと一緒に、ふみふみ、ふみふみ……。」

「どろどろ汚れが……ぴかぴかになるまで……ふみふみ、ふみふみ……。」

「ふみふみ……ふみふみ……。」


「ふみふみ……ふみふみ……。」

「ふみふみ……ふみふみ……。」


「ふみふみ……ふみふみ……。」

「ふみふみ……ふみふみ……。」


「かがみたちが足踏み洗濯を終えると……、鬼たちの洗濯物は、ぴかぴかのきらきらになっていました……。」

「真っ黒で……どろどろだった洗濯物は……真っ白で……ふわふわの……ぴかぴかになったのです……。」

「かがみたちは、疲れて……鬼たちと一緒にぐーぐー寝て、しまいました……。」


「すー……。すー……。」

「あ……。寝ちゃった……? えっと、えっと……。」

「うぅ~……。ダメぇ……。寝ちゃダメだよぉ……。このまま……湯者さんの……寝顔……むにゃ……。」


「わたしが先に……寝ちゃ、う……。」

「すー……。すー……。」



《最終話へ続く》


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