第5話
「へ?うわっ!?」
美月の肩を掴み後ろを向かせて玄関ドアに手を出すよう指示をした。昴は自身のジーンズを下ろし、そのまま彼女の腰を掴み太ももの隙間に入れ込む。互いの秘部を重ね合わせると彼女の湿り気が伝わってくる。手近にゴムがないので素股ではあるが、美月はかなり興奮しているようだ。
「あッ……これ恥ずかしいぃ」
「人前でオナニーする方が恥ずかしいだろっ」
「ん……そう、だけど、!こんな、動物みたいにっ……」
「動物並の性欲だろうが」
昴は美月の尻に自身の下半身をぶつけながら罵った。お互いの粘液でとろとろになった肉棒が美月の突起に擦れる度、彼女は可愛らしい声で鳴く。昨晩は中ばかりいじめていたので外の方を触るのは初めてだ。
「はうッ、あぁッ、もう、これダメぇ……」
「説得力ねえな。何がダメなんだよ」
「だぁって、ッ……もう、イッちゃいそうッ」
流石、性感帯以外の機能がないと言われているだけある。ものの数分で絶頂が目の前になってしまうとは、昴の想像以上だ。それとも単に美月が感じやすいだけなのだろうか。どちらにせよ、昴の瞳には恥ずかしそうに鳴く彼女だけが映っている。
その後数分程経ったぐらいだらうか、昴は美月の太腿を堪能しながら腰を振っていたときである。絶頂は、突然だった。
「イぐ……ッ!!」
そう言いながら美月はへにゃり、と膝から崩れ落ちるように玄関にしゃがみこんだ。とても動ける状態ではなさそうだ。焦点が定まっているようには見えないし、身体は小刻みに震えている。
「俺まだイってないから」
「……うん?」
靴を脱がせた昴は美月を抱えてソファに移動した。彼女は小さく悲鳴を上げたが昴は気付かないふりをした。床に転がっていたコンドームを装着し、美月の中に挿入する。そして再度腰を振り、自身の絶頂へと導く。
「あぁぁぁッ……はぁ、なんで……もうイったからあ!」
「俺は、まだイってないんだよ……!」
松本美月という人間は、昴を制御不能にする才能があるのではないか。本気でそう考えてしまうほど、彼女に心を煽られてばかりだ。
「ふう、ぅ……んッ……あ、あッ」
美月は軽い絶頂が止まらないようだ。彼女の花園は収縮を繰り返している。うねうねと激しい締め付けを感じながら内壁のざらついたところに肉棒を擦りつける。昨晩ここの触り心地で吐精したので、今日もここで絶頂を迎えるつもりだ。花園を探るのはまたの機会にしよう。もっと時間をかけて彼女を知り尽くしたい。
「出すぞ……」
そう言いながら昴は射精した。孕ませるつもりで奥深くまで肉棒を押し込む。勿論、実際はコンドームを隔てているのでその可能性はないが。華奢な身体を大切にしたい気持ちと、少し乱雑に扱ってしまいたい気持ちで揺れる。
「シャワー、浴びるか?」
「……うん」
美月の身体はじっとりと汗ばんでいた。ここまで激しくするつもりはなかったし、彼女もここまでは求めていなかっただろう。昴は自分の行動に反省しつつ、先に手を出したのは美月だろ、と責任を勝手に押し付ける。
「じゃあ、お風呂借りるね……」
弱々しい声で昴にそう伝えた美月は、風呂場へ向かっていた。戸棚から洗濯済みのバスタオルを取り出し彼女の腕に押し付けるように渡した昴は、そのまま眠りについていた。
「げ……」
時計を見ると短針が4を指していた。美月が風呂に行ってからの記憶がない。部屋を見回しても、彼女の姿は見当たらなかった。その代わり、机の上に一枚の紙が置かれている。昴は重い腰を上げて机に近づいた。
「冷蔵庫におにぎりを入れてあります。起きたら食べてね」
端正な文字で書かれたメモは、彼女の声で再生された。メモの通りに冷蔵庫を開けると、朝食べたものよりやや大きめのおにぎりが入っていた。多分、昴の食べっぷりを見て大きく握ったのだろう。彼女の細やかな気遣いが嬉しい。昴はおにぎりを電子レンジに入れた。
昼飯とも夜飯ともつかないご飯が温まるのを待ちながら、スマホを開く。LINEには美月から帰宅したこと、鍵は閉められなかったことが送られてきていた。了解、と送信し、おにぎりの礼も述べる。
「うま……」
温まった塩昆布のおにぎりは、食欲をそそる味付けだった。
いつもより早めに大学へ着いた昴は、食堂で友人たちと他愛もない会話を繰り広げていた。この講義は当たりだった、あの教授は出席さえすれば単位をもらえるらしい、バイト先の上司が――等々
「みづ、おはよー」
「あ、おはよう。ゆりちゃん」
聞き覚えのある声が近付いてくる。声の方に目を向けると美月とその友人、橋本友梨
「はー、相変わらず可愛いですなぁ」
「ほんと。彼氏とかいるのかな」
友人たちは彼女たちの容姿について賞賛の声をあげる。昴もそれに賛同するように相槌を打った。
頭の中では一昨日が走馬灯の様に流れていた。
(ほんとに、あれ夢じゃないんだよな)
今まで一度も、誰にも見せたことのない表情や仕草は、もしかしたら全て昴の妄想なのではと考えてしまうほど現実の出来事とは思えないのだ。しかし、LINEには彼女とのやり取りが存在しており、今朝は彼女との行為で使用したコンドームを捨てた。やはり、現実の出来事なのだ。
講義を受け終わった昴と友人たちは帰路に着く。ひとり、またひとりと電車を乗り換え昴は友人とふたりになった。
「じゃ、俺バイトだから次降りるわ」
「ん、頑張ってな」
「上司嫌すぎる〜すばちゃん代わって〜」
「きめ……ってかその上司なんで篠原にだけ当たり強いんだろな」
篠原裕翔
「上司のお気に入りの女子に告白されて断ったらその子バイト辞めちゃった」
「あぁ……」
「俺、やっぱりイケメンだからね!」
「うわ〜」
このナルシストな面もキズなのかもしれない。得意のキメ顔をしているが、本当に顔が整っているので余計面白い。しかし、このキャラもある処世術なのかもしれない。その顔に生まれたがゆえの大変さがあるのだろう。昴には分かることのない悩みだが、辛さがひしひしと伝わる。
「じゃあ、行ってくるわ。アデュー!」
「おう」
篠原が降りた後、昴はLINEを開き美月とのトーク画面を見返す。やはり、一昨日の出来事は現実なのだ。信じられないが、昴と身体を重ねたことも、昴の手で彼女が自慰をしたのも事実。
画面を閉じようとしたそのとき、美月からメッセージが来た。あまりに早い既読に引かれそうだ。昴はトーク画面をゆっくりスクロールする。
「次って、期待してもいいのかな?」
これは、誘われていると解釈してもいい内容だ。それだけは理解できる。松本美月は藍田昴を求めている。一度きりの関係では終わらなさそうだ。
「じゃあ、今週の金曜日に」
メッセージを送信した。
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