学校一の美少女がオタクの俺よりもオタクだった
カゲ
第1話 オタクと美少女
〈望谷 湊〉
オタクなら誰しも一度は自分の推しの作品の○周年記念のイラストに挑戦したことがあるだろう。
そしてその多くが惨敗してきた。俺もその中の一人である。
あれは中学3年の美術の授業のこと──
俺は美術の授業の課題で『中学校の思い出』というテーマの絵を描いた。
自分ではその絵の出来にかなり満足し、自信満々にその絵を提出した。
俺はその絵を受け取った時の先生の言葉を一言一句覚えている。
「これ、本当に真面目に描いたの?」
ちなみにこの時の俺の美術の評価は学年唯一のDだった……
長くなってしまったが、要するに絵が描けるオタクはオタクの中のオタク、言うなればGOD OF OTAKUなのである。
さて話は変わるが俺、
オタクをステータスにする奴は間違っていると言われるかもしれない。だが俺はそれが唯一許されるオープンオタなのである。
オープンオタとは自分がfオタクであることを周囲に隠そうとせずにむしろ自分から曝け出すオタクのことである。
俺は今まで生きていて自分よりもアニメやラノベに詳しいやつを見たことはないし、いるとも思っていない。
まあ、いわゆるカーストトップの奴らや女子からは冷やかな目で見られることもあるにはあるがアニメに興味のある数人の男友達と仲良くやっているのでこの学校生活に特に不満はない。
そんな俺だが成績が悪い。別に地頭が悪いわけではないのだが試験前に全くと言っていいほど勉強をしない。
そのため今回の定期テストも赤点の科目がいくつかある。
そのため俺は普段は絶対居残りで勉強などしないのだが、補習の代わりの課題を終わらすべく教室に残っていた。
さて、ここで教室にいるもう一人の生徒を紹介しよう。
その生徒の名は
アニメやラノベ風にいうなら学校一の美少女である。
千乃は学校1の美少女あるあるを全て揃えた女である。
頭脳明晰、スポーツ万能、おまけに顔がいい……ちなみに胸の膨らみが控えめなのもこの場合評価点だろう。
また、この手のヒロインあるあるの友達が少ない孤高の美少女ということもなく、友達も多く、誰にでも明るく接している。まさに完璧な存在だ。
そんな彼女がなぜ教室で居残りしているのか、それが俺が今抱えている難題である。
今取り組んでいる三角関数の問題など比にならない。
普通なら居残りで勉強していると考えるのだろうが、明らかに違うのだ。
さっき少しチラ見した時にタブレット端末とタッチペンを持って何かを書いているように見えたのだ。
やはり学年トップの成績を持つ彼女には最先端の技術を活用した勉強法でもあるのだろうか。
そんなに気になるなら彼女に直接聞いてみればいいという意見もあるかもしれない。
だがその案は没だ。なぜなら俺は女子と話せないからな……!
さあ、やはりこの難問を解き終わる前に俺の課題が終わってしまった。
俺がこの課題を早く先生に出して早々に帰路に着こうと席から立ち上がった。
俺は席から立ち上がるついでに今日一の難題を解決するべく千乃の横切るようにして千乃の机を見る。
そこで見たのはイラストだった。
そしてそこには俺の見覚えのあるキャラがいた。
「アニコレ……」
俺はそう呟いていた。
『アニコレ』とは様々な動物を擬人化させたキャラ達の日常を描いたアニメのことである。
普段はポップな絵柄のキャラクター達の日常がギャグテイストで描かれているのだが意外にもストーリー構成がしっかりとしていてかなり考えさせられる回もあると巷では評判らしい。
「知ってるの!? えっと……
「あ、はい。望谷です」
「あ、ごめん……私、人の名前を覚えるのが苦手なの」
もしそうだとしても望谷と鹿山を間違えるのはむしろ才能ではないだろうか。
「それで……望谷君は『アニコレ』知ってるの!?」
「一応……」
本当はアニメ一期を3話切りしたのだが千乃が何故か目を輝かせながら聞いてきたのでそんなことは言えない。
「推しは誰!? どの話が好き!? 原作は読んだ!?」
千乃はそう興奮気味に俺に詰め寄ってくる。
「千乃さん、近いです」
「あ、ごめん」
俺がそう諭すと千乃は一旦俺から離れる。
「原作は読んでないな。推しは……箱推しかな」
3話切りしたアニメに推しなんているわけないだろ!
箱推しという言葉を生み出した英雄に心の中でサムズアップしておく。
「原作まだみてないの!? じゃあ……」
そういうと千乃は鞄の中から大量の漫画を出し、それを机の上に置く。
「えっと……千乃さん、これは?」
「何って、『アニコレ』の原作だけど」
「なんでこんな大量の本がすぐカバンから出てくるんですか……」
「なんでって布教用だから常備してるだけだけど」
「さいですか……」
俺は半ば押し付けられるようにして大量の漫画を受け取る。
「そういえばそれは?」
俺はずっと気になっていたタブレット上のイラストを指差す。
「ああこれ? 実は明日で『アニコレ』10周年なの。それでその記念にイラストをって思って」
ここで一つ確認しておこう。
千乃は絵が描ける。つまり俺のようなオタクの上位の存在なのだ。
しかも改めて見てみるとかなり上手い。
まずい、このままでは完全に千乃の下位互換になってしまう。
「えっと、望谷君、どうしたの?」
「いやすまん、なんでもない。それにしてもどれぐらい描いてるんだ? 放課後居残りで描くなんて」
「いやぁ、私も忙しくてさ、つい三日前から描き始めたんだよね」
「3日前でこれなのか……」
あまりの出来に俺はそう呟く。
「望谷君は絵とか描かないの?」
「描かないな……上手くはなりたいんだが全然上手くならなくて」
「え〜、じゃあ一回これに描いてみてよ」
千乃はそういうとタブレット端末と専用のペンを手渡そうとしてくる。
「あ、いや、ちょっとここでは描けないっていうか……」
俺はそれを受け取るのを断る。
「どうして? 描いてくれたらアドバイスするのに」
「いや、それは……」
正直にいうと俺は例の中学校の課題の件から人に絵を見られるのがトラウマになっている。
それに千乃には全然上達しないと言ったがそれもそのはずだ。ここしばらく全く練習いていないのだから。
半年前までは俺も毎日絵の練習をしていた。
しかし、あまりの才能の無さに俺は絵を描くのを諦めてしまった。
「まあいいや、もうすぐ下校時間だから私は帰るけど望谷君はどうする?」
「俺もこの課題を職員室に出してから帰るかな」
「じゃあ私そこで待ってようか?」
「いや、もしかしたら時間がかかるかもしれないから先に帰っててくれ
千乃と一緒に帰ると何かとめんどくさそうなので千乃の誘いを断っておく。
「そう、じゃあ私先に帰るね。望谷君、また明日〜!」
千乃はそう言うと一足先に教室から出て行った。
その後、俺は無事に課題を提出し、下校するのだった。
「……帰って久しぶりに絵の練習でもするか」
++++++++++
〈千乃 美羽〉
中学生の頃の私を一言で表すとするならアニメや漫画が好きな芋女だ。
自分の容姿をほとんど気にしたこともなく、休日一緒に遊びに行くような友達もこれといっていなかった。
毎日まっすぐ学校に行き、授業を受け、休み時間には一人で本を読み、放課後はまっすぐ家に帰る。
そんな退屈な学校生活を過ごしていた。
いや、クラスの中心的な女子生徒にいじめを受けていたことも私の学校生活の一部として含めるなら退屈だとは言えないかもしれない。
私はこの頃の自分が嫌いだった。
一緒に笑い合えるような友達が欲しい。放課後、友達と寄り道してみたい。それに恋だってしてみたい。
つまり何が言いたいかというと、
──私だってアニメのような青春を過ごしてみたい。
中学校卒業と同時に私は努力した。
まず、メガネをコンタクトに変えた。
今まで全くしてこなかったメイクやおしゃれだって勉強した。
元々内気で人と話すことが苦手だったが努力して外交的で人と気さくに話せる自分を演じられるようになった。
親の反対を押し切り高校は自分と同じ中学校の生徒がいないような地元とは離れた高校に進学した。
その高校は校則が緩く、これといった進学実績もないいわゆる底辺の高校だった。
今となってはもっと普通の学校でよかったと思うのだが、この時の私はその自由な校風に憧れてこの学校に来てしまった。
そして高校に入学してすぐ、私はいわゆる高校デビューというものに成功した。
一緒に話せる友達は何人もできたし、放課後に一緒に寄り道もした。
何人かの男子生徒に私のことが好きだと告白もされた。
しかし、次第に私は自分が望んだはずのこの生活が嫌になった。
友達と話している私も、教室で笑っている私も、告白された私も、私であって私ではない。
だから私は心の底から笑うことはなかったし、受けた告白は全て断った。
しかしだからといって今更中学校の頃の私に戻るわけにもいかない。
私はそんなふうに自分の中で苦しみながら高校生活を過ごしていた。
++++++++++
2年生に進級してすぐに私はある生徒に興味を持つようになった。
その生徒の名前は望谷 湊。
他のクラスメイトから話を聞く限り彼はどうやら中学生の頃の私と同じで極度のオタクらしい。
しかもそのことを少しも隠していないようだ。
私は思った。彼となら本当の意味で心から笑い合える友達になれるのではないかと。
++++++++++
今日、彼と初めて話をした。
教室でアニメのイラストを描いていたら話しかけてくれるのではないかと我ながら馬鹿な期待をしていたのだがその期待通りに彼は私に話しかけてくれた。
何故か緊張してしまい、お世辞にも上手く話せたとは言えなかったし、話したのもわずかな時間だったが、それでも楽しかった。
うーん、でも布教用だから常備してるって言って普通に信じてくれるとは……もしかして望谷君って結構天然?
……とにかく、漫画も貸すことができたので次に話すときのきっかけも作ることが出来た。
明日こそは彼ともっとちゃんと話そう。
そう決意して私はその日、眠りについた。
++++++++++
望谷君と話した日から3日後の昼、私はクラスの同級生たちが教室でワイワイと話している中、一人で机に突っ伏して黙って考え事をしていた。
クラスのそれなりに仲が良い生徒が何人か具合が悪いのかと心配して声をかけてくれたけどそれどころではない。
「望谷君とどう話したらいいかわからない……」
私は誰にも聞かれないぐらい小さな声でそう呟く。
……そう、私はあの日から一度も望谷君と話していない。
一応貸した本の感想を聞くという体で話しかけるということも考えたけどもしまだ読んでなかったら催促してるみたいになるよね……
そもそも望谷君がオタク趣味全開なせいでク みんなの前で話しかけにくいのが悪いんだから!
だから私はわるくないもん! と、心の中でかわい子ぶった言い訳を述べてみたけど余計に虚しくなってきた……
「……こういうところのせいで中学校時代友達ができなかったのかな」
私がそんなことをぼやいていると1人の女子生徒が私に話しかけてきた。
「美羽ー! 体調悪いって聞いたけど大丈夫?」
「ん、由香。ありがとー。わざわざ隣のクラスから来てくれたの?」
「親友が体調悪いって聞いたら誰でもかけるよー」
「本当に由香って優しいよね。とにかくありがとうね」
そう言いつつ私が由香の頭を撫でると彼女は満面の笑みを浮かべる。
彼女の名前は
一年生の初め、同じクラスで席が近かったことから私たちは仲良くなり、由香は私のことを親友だと言ってくれている。
正確には演じている嘘の私のことを親友だと言ってくれている……嬉しくないわけではないのだが私はどうしても素直に親友だと口にすることができず、由香に対してどこか後ろめたい気持ちを抱いていた。
私たちがしばらく世間話をしていると、教室の前のあたりで数人の男子生徒が話しているのが目に入った。
その中には望谷君の姿もあった。どうやら今季放送しているアニメについての会話のようだ。
「なあ望谷、今季のアニメで何かおすすめってあるか?」
「うーん、そうだな……まあ、どうせお前が求めてるのは巨乳の年上キャラだろ?」
「それは否定しないけど声が大きいって!」
彼らの中でどっと笑いが起きる。
「美羽、どうしたの?」
「あ、ううん。なんでもないよ」
私はすぐに由香に視線を戻しそう答えたのだが由香は私の視線に気づいていたようで少し嫌そうな顔をする。
「あー……ああいうのって教室でしてほしくないよね。別にするなってわけじゃないんだけどさー、もっと場所を考えて欲しいっていうか」
「ああいう話、苦手な人もいるのにね。なんで教室でするんだろうね。ね、美羽もそう思うでしょ?」
「……うん。そうだよね」
私は由香の言葉ににこりと微笑んで返事をする。少し間が空いてしまったかとも思ったが由香は特に気にした様子もないみたいだ。
「ま、とりあえず一一緒に屋上にお弁当食べに行こうよ」
私は由香に誘われて2人でお弁当を食べに屋上へと行く。
よかった、今日も私はちゃんとみんなに好かれる私を演じられているみたいだ。
教室を出る直前、自分の好きな話で笑う望谷君たちの声が私の耳に入る。
私はその声から逃げるようにして教室を出るのだった。
++++++++++
〈望谷 湊〉
「千乃めっちゃこっち見てたんだがこれ、早く漫画読めって圧かけられてる?」
──────────────────────
最後までお読みいただきありがとうございました。このお話が面白かったら、応援やコメント、☆をよろしくお願いします。
また、この続きは明日投稿されるので2人が今後どういった関係になるのかぜひお楽しみに!
学校一の美少女がオタクの俺よりもオタクだった カゲ @GaGe_3132
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。学校一の美少女がオタクの俺よりもオタクだったの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます