第6話 カオスな王様ゲーム1
ゲーム開始。
「王様だ~れだ?」
歩美さんの掛け声とともに、四人が一斉に割り箸を引いた。
すぐに番号を確認する。
俺は【3】だった。
「はいはいは~い! 残り物には福があるってことで、王様は私で~す!」
「くぅ、歩美かあ。やっぱもってやがんな」
千夏さんが悔しそうに言う。
歩美さんは得意げな表情をしていた
王様の命令は絶対らしいけど、なんだか怖いな。
何を命令されるのだろうか。
変なことじゃないといいけど。
「そう怯えるな少年。あたしらだって鬼じゃない。いきなり少年の童貞を頂こうなんて思っちゃいねえさ」
俺の心を読んだかのように、千夏さんが言う。
空のティッシュ箱に『二つ折りの紙』を入れて、あらよっと転がしながら。
「それは?」
「まあ『命令』が書かれたクジってとこかな」
「じゃ、王様の私が引くね~」
王様になった歩美さんは、ティッシュ箱の中に手をつっこみ、がさごそと漁る。
そして四人に見えないように紙を開いて、書かれた命令を読み上げた。
「ふむふむ。2番と4番の人が~、お互いに服を脱がし合いまーす!」
「さあさあ2番と4番は誰だあ。あたしは1番だぞ。少年は何番だった?」
「3番です」
「2番はキャロでーす。当たりうっさ」
「4番……私」
うさ耳をつけたキャローラさんと、ロリ姉さんこと寧々さんが手を挙げた。
この二人がこれからお互いの服を脱がし合うのか。
女性同士のそれはきっと艶かしいのだろう。
いいのだろうか、このままこの流れに身を任せてしまって。
「あの」
俺も挙手をする。
四人の視線が俺に集まる。
「このペースで服を脱いでいったら皆さんの裸を見てしまいそうで怖いんですけど」
「まあな。それが王様ゲームだ」
「俺、未成年なんですけど」
「少年、
生えてるけど、そんな話は今してない。
この人ホントに俺の話を聞かないな。
「私は真司君の気持ちもわかるよ~。でも王様の命令は絶対だからね~」
歩美さんが俺に耳打ちしてくる。
ちなみに左隣。
その顔は満面の笑みだった。
この人は、俺が何に対して抗議しているのか理解している。
その上でこう言っているのだ。
なるほど、王様ゲームとは恐ろしいものだな。
「しかしこの手のゲームには盲点があるものだと俺は思います。例えば脱ぐものがなくなったらどうするんですか?」
「まずは剃る」
「剃るってどこを」
「
俺は額に手を当て、天井を仰いだ。
たかだかゲームでハイジニーナ(パイパン)になってしまうのはいかがなものか。
俺はこの類いの遊びには二度と参加しないと心に誓った。
今日を切り抜けて、明日を生きよう。
そう、明日を。
さて、状況を整理しよう。
脱衣命令を受けたキャローラさんと寧々さんの二人は互いに向かい合っている。
寧々さんの方は恥ずかしそうに俯いているが、キャローラさんの表情はまんざらでもないようにも見える。
寧々さんはやはり『まともな人』なのか。
初めての友達がこの人たちだって言ってたから、なんというか境遇は俺に似たり寄ったりなのかもしれない。
「靴下は『二足で一着』だかんな。ほぉらどうしたお二人さんよう、どこを脱がして欲しいか言ってみ?」
千夏さんが言う。
俺はこの人が王様じゃなくてよかったと心の底から思った。なんというか紙に書かれた『命令』に後付けする感じで、エロい命令をしそうな雰囲気がある。
「ではキャロの『うさ耳』を脱がせてください寧々」
そんな簡単に取っていいものなのか、それ。
ならなんで付けてきた。
「……それはやめた方がいいキャロ。うさ耳じゃなくて靴下にしよ?」
「問題ありませーん。キャロは修行の果てに、うさ耳を外しても己を制御できるようになりましたから」
寧々さんは頑なにキャローラさんのうさ耳を外すことを拒んでいる。
修行とか制御とか意味がわからない。
ただの女子大生だろあんた達は。
もう後戻りはできんぞ巻き方を忘れちまったからなのノリだ。うさ耳を取ったら何かしらの封印が解けて暴走するのだろうか。
「じゃ、じゃあ……脱がせるからね」
「どんとこいでーす」
「出やがるなあれが」
「だね~」
歩美さんと千夏さんは、まるでこれから起きることを察知したかのように、互いに顔を見合わせて笑っていた。
二人の言うように、何かが起きるのだろうか。
ちょっとドキドキしてきたな。
寧々さんがキャローラさんのうさ耳に手を伸ばす。
そして、ゆっくり、ゆっくりと外していった。
俺は息を呑む。
なにが起こるんだ。
一体何が。
何が。
「ぶははははははっ、少年その顔、面白えな」
千夏さんが俺の顔を指差して大笑いしている。
はて、俺はいったいどんな顔をしているのだろうか。
「純粋だねぇ真司君は。お姉さんそういうところ好きだなあ」
「はぁ」
何が純粋だというのか。
俺には何もわからないぞ。
歩美さんが俺の肩を叩く。
「何も起こらないから安心して。これ私たちの十八番芸だから」
「ふっ……おチビちゃん騙された」
「さとちん騙されたのでーす。キャロは、裸にされ損でしたー」
寧々さんはしてやったりという顔でニヤリとし、キャロさんは『服を脱ぎたかった』的な危ないセリフを口走っている。
やはりキャローラさんは、歩美さんと千夏さんの仲間だったようだ。
「まあ気づいてましたよ。その上でのってあげたんですよ、俺は」
「ふーん、へ~、意外にそういうところあるんだ」
「少年はやっぱおもしれえな」
「うさうさ」
「おチビちゃん……負けず嫌い」
騙されましたけど何か。
「寧々さんも早く脱がされて下さいよ」
「……エッチ」
「少年の言う通りだぜ寧々。王様の命令は絶対だかんな」
千夏さんが王様でもないのに命令する。
寧々さんは一瞬、顔を真っ赤に染めたが、すぐに「じゃあ靴下……」と言って、キャローラさんに靴下を脱がせてもらっていた。
キレイな素足でした。
「それじゃ~、王様ゲーム第二回戦ね~。王様だ~れだ?」
みんなで一斉に割り箸を引く。
ん?
デジャブかな。
またもや王様は歩美さんだった。
「やっぱすげえな歩美は。引きが強えんだよ引きが」
「おチビちゃんも気を付けた方がいいよ……」
「どういうことですか?」
「歩美は過去……最高で二十回連続王様になったことがあるの」
二十回連続。
それはもはや、王様ゲームの王様になる運命を背負って生まれてきたとしか思えない。
「よ~し、じゃあ命令くじを引いちゃうぞ~。あっ、先に言っておくけど星のマークが入った紙を引いたら、なんでも命令できるからね~」
「えっ、聞いてないですよそんなの」
「まあ落ち着け少年。星は一枚しか入ってないから、引き寄せる確率はかなり低い」
フラグだろそれ(泣)
引いたよ~。
と、歩美さん。
折りたたんだ紙を開いていく。
歩美さんが開いた紙には星が描かれていた。
「いえーい! お星さまゲットだぜ~!」
俺は驚愕した。
「すっげえマジで当てやがった。やっぱ歩美だわ」
「キャロにもわかりーます。オーラが見えまーす」
「おチビちゃん……気を付けて」
俺も歩美さんのオーラを感じている。
これはヤバいオーラだ。
この人が王様になってはいけない。
しかし俺の心配など露知らずといった様子で、歩美さんは星を引いた者にだけ許された特権を、今まさに行使しようとしていた。
「じゃあ定番のアレいきますか~。1番がぁ、王様印の『謎汁』一気飲み~!」
「きたきたきあ、盛り上がってきたぜぇえ!」
なぞじる?
謎汁ってなんだ。
俺が知らないだけで、この世には未知の飲み物が存在するのか。
それとも謎汁というのは、王様ゲーム特有のオリジナルドリンクなのか。
「……私、2番だ。セーフ」
「キャロは3番でーす」
「心配すんな寧々、男と女で入れるものが全く違うからよ。あぁ、アタシも少年にアタシの謎汁飲ませてやりてえなあ」
「あの、1番は俺なんですけど、謎汁ってなんなんですか」
俺が四人に向かって聞くと、全員がきょとんとした顔で俺を見た。
「謎汁は謎汁だよ~、なにが入ってるかわかったら楽しくないじゃん?」
「少年、その質問は野暮ってもんだろうが」
千夏さんと歩美さんが答えを教えてくれることはなかった。
「じゃあ謎汁作ってくるから10分だけ待っててね~、あっ、真司君おトイレ借りてもいい?」
「え……。まさかトイレの水を」
「いれないよ、そんなもの~。謎汁は汚いものじゃないからね~。多分」
多分って。
「歩美、お前つけ爪取っていけよ。ネイルしたままじゃオ――んもごごっ」
千夏さんの口を塞ぐ寧々さん。
え。なに。
いまナニを言いかけたのこの人。
俺は不安で仕方がなかった。
もし仮に、万が一、億が一にでも、この世に存在してはならないような謎の液体が出てきたらどうしよう。
それを飲まされたら、俺は一体どうなってしまうのだろうか。
もしかしたら、この場で死んでしまうのかもしれない。
毒か。
酒か。
なんなんだ一体。
オから始まるナニを入れようとしてるんだ、歩美さんは。
考えが全く及ばないまま、カオスな王様ゲームは続いていく。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます