第5話 鬼面
ドローンを元の小屋に戻した。情報は十分だ。彼らは違法に協力してチーム活動をしている連中だ。さらにコインを集めることで強力な武器を手にしている。放っておくわけにはいかないな。
少し準備をするか。僕は装備をもう一度確認する。僕が得意にしているのは長距離戦だ。愛用の狙撃銃M24-SWSを確認する。銃弾は残り10発ぐらいだが、まあいつもこんなものだ。それから回復薬を確認する。いつもダメージを負っては回復する戦場だ。回復用のポーションを3つ用意した。ポーションはさっき路上で拾ったものだが、体力を幾分か回復できる。ないよりはマシだ。
偵察用のドローンは移動用にもなる。僕は偵察用のドローンに付属のかごを備えて乗り込んだ。ドローンを操作し中空に浮かんだ。ここからならば市街地も見えるが、奴らはまだ動いていないようだ。念の為さらに高度を上げて上空に移動する。雲の間に隠れて移動するのだ。ここまでドローンを上昇させることは稀だが、できない事は無い。そのままショッピングモールへとドローンを移動させた。
ショッピングモールの上空へ着いた。徐々に高度を下げていく。周辺を確認したが、屋上には誰もいないようだ。周囲に注意しつつ、そのまま着陸を行う。屋上に着いた。方角を確認し、陣を取る。もう一度マップを確認する。エリアが狭まってこのショッピングモールの半径1kmに収束するのはおよそ5分後ぐらいだろう。ここからが、狙撃の見せ所だ。
エリアが狭まるよりも前に、市街地の方から砂煙が上がってきた。3台の戦車がこちらに向かってくる。思っていたよりも戦力が大きかった。あの戦車に籠城されてはこのゲーム勝ち目が無い。戦車はショッピングモールへ向けて威嚇射撃を行ってきた。ドーンとショッピングモールの壁に砲弾が撃ち込まれる。衝撃がこちらまで響いてくる。ONIQROの旗が宙に舞った。それから円亀製麺にキメダコーヒーが一瞬で消し飛んだ。戦車の屋上から人影が見える。ケタケタと大きな笑い声がする。奴らは砲撃を楽しんでいる。
チャンスだ。砲撃の合間を縫って狙撃銃の狙いを絞る。戦車の半径5mに狙いを定めて銃を放った。1発で十分だ。僕の使用する特殊武器はミラーシステムによる跳弾システムだ。ミラーは全部で5枚。放った銃弾はミラーのAIシステムによって敵の最小公約数を射抜くするように最短距離を跳ね返って跳弾する。ドドドドド、凄まじい音と共に、ミラーを跳ね返った跳弾がピンボールのように戦車の間を跳ね返る。砂煙と共に戦車を跳ね返る金高い金属音が鳴り響く。30秒ほどで銃弾はミラーに消えていく。相手からすれば、周囲を囲まれて銃撃を浴びせられたものと勘違いするだろう。徒党を組んだのが運のツキだ。戦車隊はその場で停止した。少しでも動けばこちらから次の銃撃を放つ。戦車隊の動きを完全に閉鎖した。その間にエリアが狭まっていく。エリアが戦車たちの居場所を追い越して縮まったのち、戦車隊の突撃が始まった。
予想通りの行動だ。戦車隊は最後の手段に出た。ショッピングモールへの特攻である。戦車はガラスを突き破りショッピングモール中央の噴水広場の前で静止した。僕は噴水の周辺にあらかじめミラーを設置しておいた。黒服の者たちが戦車から飛び出してモール内へ駆けていく。彼らはもはや内心穏やかでは無い。僕は屋上から噴水場めがけて1発の銃弾を放った。戦車から飛び出た者たちは次々と跳弾に当たって倒れていく。あとはゲーム終了までこうしていれば良い。抜け出せるものは誰もいないのだ。
双眼鏡で倒れた者たちを確認した。1,2,3…5人だ。人数は広場で確認した通りだ。みんな黒服を着ているな。念の為顔面を確認する。鬼の面を被ったものはいないが、戦車内で外したのかもしれないな。どのみち残り5分で戦闘も終了だ。あとは戦車を見張っていれば自ずと勝利する事だろう。
驚いた、既に能力を使えているのか。戦車を3台も倒すとは。どうやってそんな力を手に入れた。興味深いな。
脳内に声がする。複数の人間の声だ。落ち着いた大人たちの声だ。周辺を見渡すが人影はない。どこから話しかけてくるのか。
ドンッと目の前で音がした。空から黒い影が目の前に降りてきた。一体の鬼面が目の前に立っていた。軽く回し蹴りを受けると狙撃銃が飛ばされてしまった。しまった。素早く狙撃銃を取りに行こうとするが、体が重く動かない。鬼面の左手がこちらに開かれている。何か強力な電磁波のようなもので拘束されている感じだ。そのまま僕は宙に浮いて身動きが取れなくなってしまった。鬼面の右手から轟音と共に火の玉が作られていく。これは危険だ。僕は長距離は得意だが、近接戦では有効な武器もない。その時、真横からトンファーが飛んできて鬼面の左手を吹っ飛ばした。ふっと体が楽になった、呪縛が解けたようだ。彼女はそのまま鬼面に直進し格闘戦を仕掛けた。素早い連続攻撃に鬼面は左手を構える暇がない。これならいけるかもしれない。彼女のトンファーが脇腹にヒットした。鬼面はよろけて後ろずさった。あと一撃。彼女はステップを踏むと軽くジャンプして回転しながら蹴りを入れた。
カラーンッ、鬼面の鬼面が足元に転がった。鬼面の者は腹を抑えてうずくまっている。グオオおおおお、鬼面は腹の底から響いてくる大声を上げて地面でジタバタしながら我を忘れて暴れ出した。ギョッとしていると、こちらを睨んで歩んできた。何て醜い顔なんだ。それはかろうじて人間の顔に認識できるが、目は細長で黒く潰れたような鼻とこけた頬が印象的な鬼のような顔だ。牧田、逃げろっ!僕が叫ぶと同時に、鬼面の腕が牧田を5mほど遠くへ吹っ飛ばした。牧田はそのまま気を失ってしまった。なんて馬鹿力だ。僕はハンドガンを手に取り鬼面の体を狙って撃つ。タマは鬼面の体の表面で止まって落ちてしまった。怒りで皮膚が硬直化しているのか、銃が通用しない。
鬼面は左手を牧田にかざして宙吊りにした。鬼面の打撃で服がところどころ破けてしまっている。肌に密着した黒いボディスーツの下は絹のような白い素肌であった。彼女は首をダランとうなだれ、長い髪がはだけてしまった形の良い大きな胸に被さっている。鬼面は牧田の首を持ち上げて首を絞めるように力をかけた。牧田はピクリとも抵抗せず顔を苦しそうに歪める。鬼面は右手で火の玉を作り出し、それを至近距離で牧田にぶつけた。やれやれ、仕方ない。次の瞬間、炎に包まれた鬼面が地面に倒れて転がった。牧田かなの前にきらめくミラーが出現した。僕はあらかじめ牧田に対してミラーを一枚使用しておいたのだ。僕のミラーシステムが弾き返せるのは僕の銃弾だけではない。敵のあらゆる攻撃を弾き返せるのさ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます