第9話 三人での学園生活
「レイ様、さっさと教室へ行きましょう?」
「レイ、早くいかないと遅れちゃうよ?」
フィアは抱き着いていた右腕をそのままほどくことなく引き、もう一方の手をノルがフィアに張り合うようにして引いていく。
「い、いたい……」
そろそろきつくなってきたレイの顔がゆがんだ。
「ノル様、レイ様が痛がっていますから離してください」
「フィアちゃんが離したら?」
「「………」」
レイをはさんだままじっと互いを見つめたまま微動だにしないまま時間が過ぎていく。
そして、両者が引くつもりのないことを悟ったレイは半ば強制的に腕をほどいて逃げるように教室に向かった。
「あ、ちょっと!」
「レイ様!」
「僕、先に行くね!」
レイが教室に行くと、中にはほかにも数人が来ていた。
中にいたのはほとんどが中等部の時に話したことがある貴族の子女ではあったが、ちらほら外部進学の人も見られた。
「……はぁ」
学園の中で貴族の爵位は関係ないとされているが、それでもやはり下位の貴族が上位の貴族に話すのは気にするところがあるのかレイはいつものように遠巻きに見られているだけで話しかけられることはなかった。
そのおかげで、同じようにクラスで一人だったノルと話すようになったのだが、レイはもう少し友達が欲しいなとも思っていた。
「今日からよろしく……」
「こちらこそ……」
周りから、親交を深める声が聞こえてくるが自分に話しかけてくれる人はいない、がかといって自分から行っても気を使わせるだけと割り切って二人が来るまで教室の外を眺めることにした。
「お、珍しいな。レイ、今日は一人か?」
そう思って、机に肘をついてぼーっとしていると教室のドアから背の高い、後ろで髪をひとくくりにした女性が入ってきて、いきなり一番近くに座っていたレイに向かって声をかけた。
その聞き覚えのある声に外を眺めていたレイは声の主がいる方へ視線を向ける。
「え、ラト先生?」
その視線の先にいたのはラト・レヴィア。
去年のレイたちの担任で、周りから少し距離を置かれ、いつも二人でいるレイとノルの二人をよく気にかけてくれていた人だった。
「おう、久しぶりだな」
「先生、あっちじゃないんですか?」
「いや~お前らが卒業した後にな?学園長に呼ばれて『お前、あっち行ってこい』って言われたんだよ」
レイは前にちょっといろいろあったときに学園長に会ったことがあるが、感想としては『あの人らしいなぁ』という感じで、それより今年もラト先生がいてくれるのがレイとしてはうれしかった。
そして、ラト先生はいつものように豪快に笑いながら言葉をつづけた。
「んで、俺も『ちょっとガキの相手が飽きてきたしラッキー』って感じでこっちに来たんだよ」
「ラト先生らしいですね」
「な?だろ?」
「ところで、ノルはどうした?」
「えっと……」
『たぶん、もうちょっとしたら来ると思いますよ?』とレイが言いかけたとき、ラト先生の入ってきたドアから額に少量の汗をにじませたフィアとノルが一緒に入ってきた。
「お、来たか」
ラト先生がそうつぶやき、二人がレイのいる方向を見た後、ノルは驚き、フィアは暗がりの中のような目をしてレイのことをじっと見つめた。
「……レイ様。一緒にいてくれるのではなかったのですか?」
「約束、守ってくれないの……」
「あ……」
とここでレイはフィアとの約束を忘れていたことに気が付いたのだった。
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