聖剣に選ばれ勇者として魔王討伐の旅に出たグラド。長い旅の果てに魔王を倒し10年ぶりに妻のラナが待つ故郷に戻ったグラドだが、そこで彼が目にした光景は、ラナが見知らぬ男、そして彼との子供と思わしき少年と仲睦まじく暮らす姿だった……。
妻の不貞を目撃して失意に沈むグラドは、共に旅をした仲間に慰められ、そのまま彼女たちと結婚することに。王都で盛大な式を挙げ、式に現れて泣きついてきた妻をあっさりと袖にするグラドだったが、しばらくして真実を知ってしまう。実は妻の不貞はグラドの勘違いだったのだ……!
裏切られた被害者だったつもりが、実は裏切った加害者だと突きつけられ、一気に世界が反転する絶望感がとてつもなく重い。またグラドが思い違いをした背景には様々な人物の思惑が隠されているのだが、そうだとしてもやはり一番の原因が自分にあるという事実は変えようがなく、もはや贖罪の方法も存在しない……。このグラドが精神的に追い詰められる過程は読み応えがあり、主人公を追いこむにはこれぐらいやらなければダメだという作者の意志を感じられる。内容が内容だけに人を選ぶかもしれないが、裏切りがもたらす重さを、これ以上なく読者に痛感させる一作だ。
(「裏切られた人々」4選/文=柿崎憲)