現場

           *


 松下と相沢がアパート前で待ってると、トントンと階段を駆け上がる音が聞こえてくる。

「また、あなたたちですか」

 梶祐介はうんざりした様子で、ため息をつく。

「すいませんね。相沢がどうしてもって言うから」

「ま、松下さん!」

 そんな2人の掛け合いに付き合う気もないと言いたげに、祐介は冷たい声を発する。

「……なんですか?」

「いやね。ちょっと気になったことができたのもので。部屋、上がってもいいですか?」

「はぁ、勘弁してくださいよ」

「ちょっとだけ。ちょーっと」

「……はぁ」

 祐介は、如実に面倒くさそうな表情を浮かべてドアを開ける。

「へぇ。一人暮らしの部屋にしては綺麗にしてるんですね」

「関係ないでしょ。で、話は?」

「この2ショットの写真、どこですか? ディズニー? シー?」

「話は何ですか! ないんなら帰ってください」

「ありますあります」

 松下は、秋本理佐との写真を眺めながら、話を続ける。

「そう言えば、海斗さんが亡くなった12月24日の夜。あなたって、何してました?」

「……一人でこの部屋にいましたけど」

「ですよね。調書にもそう書いてます」

「それが何なんですか!?」

「いや、相沢が。『関係者の中でアリバイがないのは祐介さんだけだ』って言うんですよ」

「はぁ!? 勘弁してくださいよ!」

 祐介が睨みつけてくると、相沢は慌てて目を逸らす。

「ねえ。本当に失礼な新人ですいませんね」

「一人暮らしで一人で家にいて何が悪いんですか!」

「ですよね。俺も休日の日にはスマホゲーやって酒飲んで寝てますから。多分、こんな新人刑事だったら、関係者が殺されただけでアリバイがないって疑われますよ」

「だったらいいじゃないですか。もう、帰ってくださいよ!」

「でも、『確かに妙だな』とも思ったんです。素人考えにも程がありますけど、世間ではクリスマス・イブだったんでしょ? 祐介さんて二十……」

「4ですけど。それが、何か?」

「ですよね。24歳で秋本理佐さんという同い年の結婚予定の恋人がいる。なんで、2人で過ごさなかったのかなって」

「予定が合わなかっただけです」

「合わせません? 結婚を考えてれば、なおさらだ」

「俺は。刑事さんたちみたいに暇じゃないんですよ!」

「ですよね。刑事って実は暇な時間多いんです。でも、実際、祐介さんは家に一人でいた」

「……」

「理佐さんは女友達と飲んでたんですよね? なんか、おかしくないですか?」

「……知りませんよ」

「知らないなんてことあります? 恋人同士が? クリスマス・イブで?」

「向こうが『予定があるから』って断ってきたんです。友達と会う約束があるからって! そりゃ、俺だって、話すのが遅かったですけど」

「なるほど。それで? 祐介さんは了承したんですか?」

「しましたよ。仕方ないでしょ? 店も予約しちゃったって言ってるし。『久しぶりに会う友達だから』って言われたら、なんも言えないじゃないですか」

「はぁ……なるほど、優しいですね。でも、クリスマス・イブですよね? 別に他の日とか、なんなら昼間とかじゃダメだったんですかね?」

「……知りませんよ。仕方ないじゃないですか」

「もしかしてですけど……外出たんじゃないですか?」

「はぁ!? 家にいたって!」

「だって気になりません? クリスマスイブに、恋人の誘いを蹴って、別の女性と会ってたんでしょ? 嘘くさくないですか?」 

「……」

「これ見てください」

 松下は、ファイルの中身を見せる。

「何ですか、これ?」

「ほら、うちの中里って目ざといでしょう? 不本意にもどうやら、同じこと思ってたみたいで。当たってたんですって、一軒一軒。そしたら……っと」

「……どうしたんですか?」

「いや、忘れてください。だって、いたんですよね? ここに」

「……」

「聞けてよかったです。なあ、相沢」

「え、ええ」

「何が言いたいんですか?」

「あっ……アルバム発見。見ていいですか?」

「やめてくださいよ!」

「いいじゃないですか。事件解決にご協力よろしくお願いします」

「そんなことよりも! 中里さんがどうしたんですか?」

 松下が無遠慮にアルバムをペラペラとめくっていく。

「いや、捜査情報ですから。っと、やっぱり、仲がよかったんですね、3人は。結構、いっぱい写真撮ってますね」

「言ってくださいよ! 気になるじゃないですか!」

「……なんで気になるんですか?」

「……っ」

 アルバムを置いて、祐介の瞳を覗き込む。

「だって祐介さん。あなたはこの部屋から一歩も出てませんって、そう言いましたよね?」

「……」

。あなたが、一歩も家を出ていないってことを。なのに、何で、そんなに気になるんですか?」

「……」

「あっ、もしかして、最寄りのコンビニに行ったのを思い出したとか? いや、別にそんなことは大目に見ますよ。僕も中里も素人じゃありませんから。そんなことで虚偽報告だなんだと騒ぎはしません。ちなみに、コンビニ行きました?」

「……いえ」

「じゃ、いいじゃないですか。なんの問題もない」

「……仮にですけど、俺が他の所に行ってたらどうなるんですか?」

「他の所ってどこですか?」

「……その刑事さんが言っているように理佐のいる店に」

「いや、それはマズいですね。だって、警察に虚偽の報告してる訳ですから。アリバイがなくて、虚偽報告して、関係者でしょ? そら、アウトですよ」

「……」

「いや、しつこいでしょ? 中里って。あの男はスッポンって呼ばれてて。下ネタじゃないですよ。しつこーく、外堀から埋めてくのが好きなんですよ。だから、事件解決は遅いんですけど、ねちっこく、固めていくんです」

「……」

「っと、もうこんな時間か。あまり、長居しても悪いから、もう行きますね」

 松下がアルバムをおいて、部屋を出て行こうとすると、

「……すいません、刑事さん」

「ん? どうしました?」


「俺……嘘つきました」


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