count3 エルナ(後編)
「あなたは誰?」
車椅子がどんどん近づいでくる。近い、近いよ。
「まだ答えないようですね」
ぐいっと手を引き寄せられ、顔が近くなる。
「早く答えないとキスしますよ?」
何か答えないと。えーっと――
「答えないようですね。では、失礼して」
「エルナちゃんであって――!?」
答えようとした瞬間、さらに手を引かれ、エルナちゃんに抱きつくように倒れてしまう。まずい!
咄嗟に私の方が下になり、衝撃をやわらげる。
「お姉さん、情けないですね。車椅子に乗っているだけの可愛い少女に負けてしまうなんて」
私の上に上乗りになっているエルナちゃんが耳元でささやいてきた。
どうしよう。思った以上に力が強い! 鳥さん、なんとかして!
鳥さんになんとかしてもらおうと、扉の方を向くが、すでに鳥さんはいなくなっている。そんな――。まさか、鳥さんが言っていたことってこのこと!?
「どこ向いてるんですかー? ちゃんとこっち向いてください」
無理やり、両手で顔を掴まれ前を向かせられる。
「お姉さん、私に用があるんでしょ?」
見抜かれている!?
「今、話してください。鳥もいませんから」
鳥さんに聞かれたら何かまずいのだろうか?
「じゃあ、聞くけど…。どうして、眼帯してるの?」
「ずいぶん思いっきり聞きますね。この眼帯は、病を隠すためのものなんです。私の病は、この世界に来てから発症したもので宇宙から持ち込んだものではありません」
じゃあ、こっちに来てから発症したんだ。
「はい。エルナはこの病のことを刻結病《こっけつびょう》と呼んでいます。この病気は、突如体に傷ができ、そこから石のようなものができてその部分が動かなくなるという厄介な病です。そして、今はこの右目と両足が動かない状態です」
自分が思っていたよりもこの子は…。
「ごめん」
「いえ、謝らないでください。お姉さんが聞きそうなことは、最初に見た時から予想してましたから。もう一つありますよね?」
「…うん。どうして、望美ちゃんのところに行ってあげなかったの?」
まぁ、これは今聞いたところで病を負っていたということで片付けられてしまうかもしれないが。
「理由は、エルナがこんな体になってしまったことともう一つあります。その理由は、あの子がエルナに対して依存していることです。なんでもかんでもすぐエルナを頼ろうとして、何もしてくれないからです」
まだ子どもだから仕方がないと言ったら、それで片付くのだが。言いたいことはたぶん…。
「お姉さん、エルナはどうしたらいいですか? これ以上あの子を傷つけるのは嫌なんです」
上から涙がこぼれ、私の頬を伝って地面に落ちていく。会いたいのは、本当のことなんだろう。でも、会ってしまうと望美ちゃんはエルナちゃんを頼り、成長できなくなってしまう。
今、望美ちゃんをエルナちゃんに会わせるのは得策じゃない。
だから、私は――
「スマホは持ってる?」
「…はい。鳥から念のために一応」
「貸してもらっていいかな?」
「いいですけど、何をするんですか?」
エルナちゃんが手元からスマホを出す。エルナちゃんからスマホを受け取り、立ち上がって、振り向き、こう言う。
「こっちにある魔法だよ」
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