鉄は空を駆る

 狂は静かに、吉崎の身体を漂う。

 自分が存在するもの意味を今一度考える。


 ……正直なところ、彼には驚いている。

 我に貪り続けられる苦痛は計り知れないだろうに、今も生きている。


 往生際が悪い。

 

 *


 ふと、原初の剣が視線を逸らす。

 誰もいないはずの方を向いて、不敵に笑う。

 顔を覆う火傷の跡が歪んだ。

「小僧。貴様は死ねないと言ったな。ならば、その身体に居る狂を扱いこなしてみよ」

「扱う……?」

「言うなれば貴様は今、操り人形の状態だ。そのままだと貴様の存在が崩壊する」

 崩壊……崩壊!?

 物騒な言葉に思わず二度驚く。

「何を今更驚いているのだ。逆に今まで貴様が自分を維持出来ていた事の方が異常だというのに」

「で、でも…存在が崩壊って……」

「何度も言うが貴様は異常なんだ。今の貴様に狂が侵食し続けば正真正銘の出来損ないへと変わる。人でも獣でもない何かが出来上がるのみだ」


 何度も異常だと言われて、腹が立ってきた。

 しかし今は抑えてもう少し原初の剣の話を聞いてみる。

「原初の獣は、獣の王だけでなく黙示録の厄災も冠している。それ故に人に宿っても破滅するだけの筈なのだがな……まぁ、延命措置のようなものだ」

「それで、ど、どうすれば……良いんです?」

「そうだな……」

 そう言って、原初の剣はニヤリと口の端を上げる。



 *


『どうも、初めましての方は初めまして。常連さんはいつものようによろしくねっ!!今日もダンジョン配信いってみよう!!』

 陽気な笑顔をカメラに向ける可憐な少女が一人。

 彼女の名前は秋間アカリ。

 “アキりん”の名前でダンジョン配信を行なっている。

 現在、チャンネル登録者が10万人を超えた人気急上昇中の配信者である。

“アキりん!?”

“アキちゃんのダンジョン配信だ!!”

“10万人おめでとー”

“アキりんがんばえ!!”

『みんなありがとー!!じゃあ今回も張り切っちゃうぞ☆』


 そう言って、彼女は森の前に立てかけてある寂れた看板を写す。

“え……?”

“自殺行為”

“マジかよ”

“アキりん死んじゃやだ……”

“またしても一人……”

 チャット欄の反応は悲惨なものばかり。


『大丈夫!!私、ここの対策知ってるんだ!!』

 無邪気な笑顔が光る。

 そして、どこからともなく彼女の手の中に現れたのは飛行機の形を模った小さなペンダント。


『行くよ、リリエンタール』


 遥か上空にて月光に照らされるレシプロの飛行機が一機。

 何かを見据えてただ夜空を漂っていた。

 

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