幕締〜アクマさん〜
黒髪の女はかく語る。
「アレの危険性?うーん、そうだねぇ。別にいる分には構わないんだけど、いたらいたで勝手に動く……って事かなぁ?」
その女はきちっとしたスーツ姿にも関わらず、カジュアルな態度で会話に臨んでいた。
「ほら、学校によくいるじゃない。めんどくさい陰キャってヤツ。いたところで何も変わらないけど、突っついたら取り返しがつかなくなるまで暴れ出すアレ。それと同じ感じ」
ずっと、表向きのニコニコした笑顔を顔に貼り付けながら説明している。
「でも、もう取り返しはつかないよ。ナナ・トゥデイの言葉が引き金になっちゃったからね」
その女の名は、秋間ソラ。またの名をアル・シェータ・アイゴニィ・デ・トーチャー。
標の下の悪魔、夜に止まる鴉、拷問の牙車、傷と病を笑う者などという名前があるが、どれも人間界では定着しておらず知名度も低い悪魔だ。
苦痛に快楽を見出す
彼女には、日本という土地を滅ぼすなどという目的はない。
ただ、人が苦痛に悶えるところを眺める事が好きな悪魔である。
「……なんであの子を器に選んだかって?」
黒髪の女は幾らか考えて、そして顔を赤らめた。
「だってさ、あの子わざわざ自分から選んだんだもん。私の事を。そんなヤツ前にもいたんだけどさぁ、その時はみんな怖がって逃げたの。でも彼だけはただひたすらに私の元へやってきたんだよ?そりゃあしちゃうでしょ、恋」
……卦茂神社は初めから原初の獣を奉っていた場所ではなかった。
実際は、秋間ソラを封じた神社であった。
しかし異国の怪異は日本式の封印術が効いていなかった。
「だって、あの中にこもりっきりで暇だったんだよ?その時にアメリカから海を超えてアレが流れてきたんだ。一目で原初だって分かったよ。でも私は力を貸せない。なにしろ私は一端の悪魔。ソロモンの悪魔ならなんとか手駒にできたんだろうけど私にはムリ」
そう言って苦々しい顔で肩をすくめてみせる。
「どうにも暴れる機会もない中で過ごしてると、どうもココが有名な自殺スポットとか噂されちゃってさぁ。勝手に入って泣きながら餓死していくだけなんだけど。でも彼は違った。明確に死を覚悟して私の元へ来た」
きゃーと可愛らしく身体を振るわせている。
「そりゃあ、好きになっちゃうよね!?私を求めたって事でしょ!?私を求めて死に来た。そして私の元まで本当に歩いてきたの!!愚かだった。本ッッッッッッ当に愚か!!だから彼は器になれたの」
彼女はにこやかに満面の笑みを浮かべていた。
「あ、因みに言うけど私を殺しても私は残るわよ。ここの封印をとかない限り私は死ぬことが出来ない。悠久の時を以て苦痛を与えるつもりが仇になっちゃったみたい」
彼女は、純粋に恋をしてしまっていた。
愚かな人間の一人を。その中の最も愚かな人間を。
それでも、彼女の笑顔は月の光の様に輝いていた。
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